風の神と火の女神
焼き尽くす熱波が、ファラフナーズから再び放たれる。
それは鞭の様にしなり、空気を震わせる。
激しい火力が渦巻き、燃え上がる大蛇へと姿を変える。
「……。」
白い少女は黙って見つめている。
落ち着き払っているかの様に見えつつ、内心は穏やかでなかった。
わずかな期間で鍛え上げ、練り上げたこの“神影”という異能のチカラ。
不安定感は否めなかった。
対してこの悪狼の如き少女、ファラフナーズはホンモノだ。
あらゆる型、場面を想定し鍛錬を重ねてきたのだろう。
紅蓮の炎が燃え盛る只中にいて、その二つの碧眼だけが涼やかな輝きを放っていた。
「喰らいつけ!」
炎の蛇が渦巻きを描き、うねりながら突進した。
「切り裂け!」
頭の中で浮かんだイメージを、流れ込む“神”の意識で認識する。
それは旋風。
あるいは竜巻。
冷たく鋭い刃の様な…
瞬間的な瞑想状態から覚醒し、力の奔流を解放する。
「!」
襲いかかる炎の蛇が、冷たい刃の様なつむじ風に煽られ、真っ二つに切断された。
…そして二匹になったそれは再び動き始め、ルシーアを狙う。
「……!」
翠玉の色をした眼が、ルシーアの青白い顔を見据える。
受けて立つ彼女は、再び攻撃のイメージを瞬時に思考の泉から湧き立たせる。
「ハァッ!」
乱気流が幾筋も、彼女の周りに飛び交った。
ザクロの実が割れ、中身が飛び散るようにして、火の蛇は飛散した。
「クソ…」
…ファラフナーズは呻いた。
反動をその身に受け、流血し始めた自身の腹部を押さえ、身体を殆ど二つに折っている。
「……。」
ルシーアは静かに彼女を見つめる。
燃え盛る部屋の中で身体を折りつつもその、彫りの深い印象的な顔だけを上げて、猛然とルシーアを睨みつけている。
ターコイズ色のその冷たい目が、白い少女の顔を射抜かんと見開かれていた。
「反乱分子よ。最後に言い残す事はあるか?」
勝ち誇った、高らかな声が響き渡る。
部屋の中を覆っていた猛火が、青白いとろ火へと変わった。
「……ていなければ駄目よ。」
「?」
もはやうずくまり、頭を垂れるファラフナーズ。
「見ていなければ駄目よ。」
「……。」
ルシーアは右手を高々と掲げ、恐るべきイメージを頭の中で構築し練り上げた。
尖塔から吹き出て真っ直ぐに、切り落とすような旋風の一撃。
「はっ!」
背後から燃え上がる人型が近づいて、彼女に抱きついた。
「!!」
彼女の妹マリーア・ミゲル・デ・ミニョーラが、その焼灼と再生を繰り返す皮膚のままに、姉の身体にしがみついた。
「見ていなければ駄目よ。怒りは業火。その奥に予測もつかない危険を隠しているの…」




