表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

反撃

「渦巻け!」


三人が席を立つと同時に、騎士の如き少女は叫ぶ。

突如として激しい旋風が吹き荒れ、狭い店内を回り廻った。

ファラフナーズの起こした業火が、頬を裂く冷たい疾風に引き込まれて行く。


「……!」


結生は見た。

他ならぬファラフナーズの動揺と狼狽の表情を。

…敵との相性が悪いのは彼女の目にも明らかだった。

結生は烈風に押されながら、大声でファラフナーズに叫ぶ。


「加勢するわ!」


「ユキちゃん、手を出しちゃ駄目!」


彼女の静止も厭わず、結生は一歩を踏み出した。


「“断て”!」


「……。」


ルシーアは冷静そうにその灰色の双眸を結生に向ける。

…自身の周りに、青く輝くエネルギーの力線が展開されて行く中、一切の動揺を示さない。

結生はエネルギーの紐に意識を集中する。

締め上げろ、捕縛せよ。

危険を縛れ。

両手を前へ突き出した。

心の中で決死の闘争本能が爆発する。

青い力戦がまるで網のように重なり、ルシーアの身体に絡みつき、締め上げんと巻き上げていく…


「甘い!」


完全に締め上げられる直前、ルシーアは発した。

一陣の風が鋭く吹き上がる。


バツン!


と弾かれた様な音がして、力戦が切断される。

パラパラと、エネルギーの小片が溢れ落ちて、青い輝きが消えて行く。


「!」


一瞬生じた隙をファラフナーズは逃さなかった。

一歩進み出て、ルシーアを指差し叫ぶ。


「爆ぜよ!」


爆発的な火炎が、彼女の周りを包む。

しかし、まるで空気のドームが包み込んでいるかのように、ルシーアは無傷だった。


「くっ…」


ファラフナーズは歯噛みする。

相性が悪すぎる。

そう考えた瞬間…


凄まじい悲鳴が、結生の喉の奥から響き渡った。


「…!」


結生がゆっくり振り返るのをファラフナーズは見た。

そして目撃したままの体勢で絶句する。

下唇から顎、白い喉、そして恐らくは胸にまで渡って深い切り傷が刻まれていた。

縦に裂かれた傷から、血が赤々と流れ出している。

そして熱病にかかったかの様に小刻みに震え、立ち尽くしていた。


「ユキちゃん…!」


ファラフナーズは叫び、友のそばに駆け寄る。

これは反動だ。

自身のチカラを跳ね返されたりした時に起きる、自身の肉体に降りかかるフィードバック。

“神影”を使い慣れない者に、よく発生するのだ。


「マリーア、ユキちゃんをお願い…」


掠れた声で彼女は言う。


マリーアが無言のままで、震える結生の身体を支え、安全地帯であるテーブルの下へと誘う。


「さて、どうする。悪狼の如き人民の敵共よ。自らの過ちを素直に認め、降参するか?」


仰々しい口調で問いかけるルシーア。

努めて落ち着いた口調で、ファラフナーズは答える。


「私を、怒らせたわね。」


「……。」


灰そのものの色をした瞳で、ルシーアは目前を見据える。


「怒りは、熱く輝く火ではないわ。冷たく光る、毒のある牙よ。」


紅蓮の火が渦を巻き、昇る龍を思わせる形状へと変貌を遂げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ