表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

破裂

灰色の、巨大な食堂ホール。

紅い旗が掲げられた、非人間的に高くそびえる壁。

不必要に広いその場所で、まばらに散らばり生徒らは昼食を摂っていた。


「もぐもぐもぐもぐ…」


浅野結生は輪切りにされた大きめのソーセージが浮く野菜スープを、ずっしりした黒いパンを浸しつつひたすら貪っていた。

今日は週一度の“医者のソーセージ”が出る日だった。

学園の食堂の中で、結生は食事に没頭した。

そしてチラッと横を見て話しかける。


「タパ。食べないなら貰うわよ。」


返事も待たず、隣に座るファラフナーズの器にフォークを伸ばす。

何故かソーセージだけが取り残され、スープ皿の中で打ち上げられたかの様に残されていた。


「あんた、肉好きなんじゃなかったっけ?」


最近になってようやく、一緒に食事を摂るようになった友人に尋ねる。


「豚は嫌い。貧民のモノだもの。」


微笑んで答える。

上流階級特有の思い切りが良すぎる発言に、思わず結生はむせ込む。


「…そう言う事言わない。」


胸を叩きながら結生は友人に釘を刺す。


「今よりももっと目を付けられるわよ。」


この社会主義イデオロギーの国の中の、外部より更に先鋭化されたカリキュラムを誇るこの学園。

彼女の存在は浮いていた。

西側の高価な輸入品を身に着け、あらゆる特権を行使し、特別室で食事を摂る。

彼女はまるで女王だった。


「良いわね。」


尚も上品に笑いながら彼女は話す。


「火は見つめられている時、静かで賢いわ。」


そう言うと空になった自分の配膳を取り、立ち上がった。


「……。」


歩き去る彼女の、長い栗色の髪を見送り、結生は再び自身の皿に目を落とす。


「美味しいんだけどなぁ。」


増量したソーセージの一本にフォークを刺し、口に運ぶ。


耳をつんざくような轟音。


爆風がテーブルの上のパンやスープ、食器類をあらかた吹き飛ばす。


「?」


結生は状況が飲み込めぬまま、ソーセージを一口かじる。


ドサッ


切断された手首が、目の前に落下する。

続いてパラパラと小雨のように、細やかな肉の欠片と血が、ほんの一瞬の間だけ降り注いだ。

…数多の絶叫が、正午の食堂ホールの散漫とした空気を震わせる。


結生はやっと咀嚼していたソーセージを飲み下すと、立ち上がって叫んだ。


「タパ!」


…気がつくと、結生は、目を瞑って固くなった親友の傍らで泣き尽くしていた。

彼女の身体には傷一つ無かったが、物言わぬ塊となって倒れていた。

周りがどよめき、沢山の人が出入りする。

彼女はファラフナーズの傍らに侍り、泣き続けた。

嘆き、悲しみ続ける彼女に、差し出される一つの手があった。


「……?」


目を上げる。

化学担当の、フェルデナント・フォン・オーデンセ教授の顔があった。

彼は左目を眼帯で覆う顔を結生に見せ、そして言った。


「見せなさい。」


無骨な節くれだった手を伸ばして、ファラフナーズの後頭部に触れ、次に額に触れる。

続けて手首を握りその後、一掴みの布を、その頭の下に挿し入れた。

彼は言った。


「恐らくショックで気を失っているだけだ。直に目を覚ます。」


長い銀髪、そして上品に整えられた髭。

その年齢不詳気味な物憂げな顔が、

より深い懸念の表情を持って指し示す先には…


暴風雨が通り過ぎたかの様な死体があった。


表面が、まるで波打つ様に、ギザギザになって損壊していた。


遺体は顔の表面がグチャグチャになって、鼻も、唇も、そして眼球も無くなって、そして一部分が残った耳たぶが、かつてのヒトだった証を、そこに証明していた。


結生はえずく。


オーデンセ教授は立ち去った。

しばらく結生はファラフナーズの、血の気の失せた顔を見つめる。

ほんの数分経過したのみだが、彼女には永遠に感じられた。

そして…


「うう…。」


苦しげにうめいて、ファラフナーズが意識を取り戻す。


「…!」


彼女の手を握り、結生はささやく。


「…大丈夫?ちゃんと見てるよ。」


微かな表情の微細を、結生は見つめながら話しかける。


「味気ないわね…余りにも…」


「?」


薄っすらと目を見開いたファラフナーズが呟く様にして言う。


「最後の晩餐が…あんな貧民の食事だなんて…味気なさすぎるわ…」


「……。」


様子を見に行こうと、結生は立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ