神々の影
薄暗く、薬臭い医務室にて…
マリーアの、当人の手によって切り開かれた手のひらの皮膚。
それがそっくりそのまま結生の、焼けただれて剥き出しになった手のひらに重ね合わされた。
そして…
肉と肉が融合して、癒着する様な感触を伴ってくっついた。
「2、3日すれば元通りになるよ。それまではかなーり痒いかもね。掻きむしっちゃダメだよ?」
そう語るマリーア。
彼女の傷は…
みるみる間に皮膚が再生していき、ものの一分で塞がった。
「今度、タコスでも食べに行こーよ。トルティーヤの“皮”で包まれた、美味しいやつをさ。じゃ。」
チリチリの癖毛を振り向かせて、彼女は立ち去る。
そして…
“枢機卿”は結生に尋ねる。
「さて、話をしようと思うが、その前に、君は宗教を信じるかね?」
唐突な問い。
しかし結生は半ば用意されたかのような答えを返した。
「…信じません。宗教は阿片です。」
この社会主義イデオロギーの大国にあって、至極真っ当な答えだった。
納得したように相槌を打ち、“枢機卿”は続ける。
「では“神々”の存在は?」
結生は若干目を丸くする。
「神々…?」
「同志アサノ、神々は実在する。そして君たち、選ばれしこの学園の生徒は皆、神々の“影”なのだ」
結生は“灰色の枢機卿”の、端正だが神経質そうな暗い顔を見つめる。
「同志アサノ。君はイポンカ(日本人)だったな。」
“枢機卿”は灰色のスーツのポケットから一枚の紙を取り出して言う。
「イポンカならカンジが分かるだろう。こういう字を書くらしい。ジンエイと読む。」
“神影”
テーブルの上に置かれた紙にそう書かれていた。
「日本語なのは初めて発見されたのが日本だからだ。」
灰色の男は続ける。
「高次元から“神々”、すなわち形而上的存在の影が投影された、神の似姿。そんな人々が存在する。ただし言っておくが、これらはすべて仮説。本当の所は分からない。」
結生はただ黙って聞いている。
「そして“神々”の意識が“影”に注ぎ込むとき、能力が発現する。慣れれば意図的にその状態に成れる。」
「タパは…」
結生はふと発言する。
「タパはどうなりましたか!?」
“枢機卿”は重々しく頷く。
「彼女も“影”の一人だ。古代スキタイの火の女神タビティ。その似姿。」
「……。」
「彼女には厳しく言っておいたよ。神々の意識が流れ込む時、時折“乗っ取られる”事があるそうだ。力をほんの少し見せつけるだけのつもりだったらしい。あの時は。」
結生は治りかけの右手を握りしめ、立ち上がった。
「どうした?」
「会いに行きます。タパに。そして話がしたい。」
彼女はまっすぐ前を向いて言った。




