雨雲の切れ間
窓を打つ雨は止む気配もなく、部屋の中に閉じ込められたような午後。
机の上の古いプレイヤーから、あのフレーズが流れ出す。
――好きだったのよ貴方、胸の奥でずっと。
彼女の指先がわずかに震える。
セーターを抱きしめ、声にならない想いを心の中で何度も繰り返す。
言えない。言ったら壊れる。けれど、このまま言わなければ、彼は遠ざかってしまうかもしれない。
その狭間で、胸の奥は張り裂けそうに痛む。
――もうすぐ私きっと、貴方を振り向かせる。
歌は簡単に言葉を紡ぎ、希望を描いてみせる。
それなのに、自分はどうしてこうも臆病なのだろう。
唇を噛み、彼女は小さく呟いた。
「歌のように強くなれたらいいのに…」
雨が上がった街は、濡れたアスファルトが夕陽を映して輝いていた。
彼は、女の子と楽しげに肩を寄せ合い、並んで歩いている。
その光景が視界に飛び込んだ瞬間、彼女の胸は鋭く締め付けられた。
――わかってる。彼にはもう、隣に居る人がいるって。
それでも。
「でも好きなんだから、仕方ないじゃない…」
小さく声に出した言葉は、雨のしずくと一緒に地面に落ちて消える。
彼女の心は矛盾だらけだった。
祝福したい自分と、妬みに揺れる自分。
「わたしなんかが好きでごめんなさい」と呟くのは、言葉にしてしまわないと胸が張り裂けそうだから。
それでも――。
「でも…」と続いた先にあるのは、どうしようもなく残る“好き”という想い。
届かなくても、報われなくても、彼を想う気持ちだけは消せない。
空を見上げれば、雨雲の切れ間からのぞく青が広がっていた。
涙に滲んだ視界に、それはやけに遠く感じられた。
恋の歌ってなんでバッドエンドが多いんだろう。
不幸な数だけ本当は幸せがあっていいはずだよね?
報われないと思う恋だっていつかは…そんな慰めはいらないよ。
歌に力があるのなら、お願い!彼を私に振り向かせて!
ユーミンなんてキライだよ…