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おいでませ幽鬼神道町  作者: 狐面 シノ
前日譚其壱「望みすら滅びに導いて」

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■陸章『猫探しは便利屋にお任せ』


 そんなことがあった翌日の昼。タカが玄関の前に(くだん)の看板を立て掛け、いよいよもって便利屋がここに始動したのだ。道行く人の何人かは、もとよりあった便利屋二人を想起したのだが、その看板の左端にでかでかと(つづ)られた「二代目」の文字を見た瞬間、新たな便利屋がこの町に現れたのだと共通認識を持つこととなった。

 しかし開業してすぐというのは、知名度も人気も、更には信用すらゼロのまま停滞するのが大抵のこと。その隙に泉は刀を手入れし、タカは追加の護符を作るなどして時間を潰していた。それでも客はやって()ず、泉はファイリングされた資料をもう一度見返し、タカは()だまりでごろ寝をして時間を潰すことにした。

 それでもまだ客はやって来ず、今度は―――


「―――だぁー‼ 暇やってこの時間‼」


 ……とうとうタカはしびれを切らして、大声で根を上げてしまった。泉は「そうか?」と存外(ぞんがい)余裕そうにしていたのだが、これが本地獄で待たされた人間と、第二地獄で働き詰めだった人間の差なのだろうか。


「海路の日和は待たねば来ないだろう。もう少し耐えたらどうだ」

「せやけどなぁ、果報が分からんままやと、おちおち眠れもせんわ」


 「あァ~……」とソファの背もたれへ背中を逸らして、だるそうにするタカ。泉もやることが無くなってきて、適当に時間を潰す―――しかも過度に目立たないよう、極力事務所の中で―――ということが難しくなったのも事実だ。

 その時、(ほとん)ど奇跡のように、事務所の扉から三回のノックが聞こえてきた。タカはすぐに飛び起き、うやうやしく扉を開けてやると、ドアをくぐって一人の少女が部屋を覗き込んできたのだ。


「あのぉ……ここって、なんでも頼んでいい……んですよね」

「せやぞ。ささ、座って座って、な?」


 タカは少女を応接間に呼び寄せると、泉を小突(こづ)いて対面に座らせた。(あらかじ)め用意しておいた緑茶を出してようやく、少女は話し始めたのだった。


「あの……イア、といいます。お願いしたいのは、その……」

「緊張せんでも、ゆっくり話しゃええ」

「は、はい……‼ ね、猫ちゃんを探して欲しくて―――」


 端的(たんてき)に言えば、イアという少女は「すねこすり」という猫の妖怪、その一匹を探し出してきてほしいというのだ。イアは幽鬼神道町で過ごしている人魂で、近くの空き地に群れていたすねこすりと仲良しだったという。先に亡くなった母親からの許しも得て、毎日のように空き地で食べ物を分ける名分で会いに行っていたそうだ。その中で数日前から、トラ柄のすねこすりの行方が分からなくなった……という経緯で依頼をしにやってきたのだ。

 イアは大層不安そうに涙を堪え、心情を吐露(とろ)した。


「べ、便利屋さんなら、なんとかしてくれるかもって……何も、食べられなかったら、死んじゃってたら、ど、どうしようって……っ‼」


 感極まって、イアはえんえんと泣き始めてしまった。タカはなあなあと少女を落ち着かせると、自信たっぷりに胸を叩いた。


「にぃちゃんたちに任せとき‼ その子はここじゃ死なんやろし、無事に探して抱かせたる‼」

「……ぅっ、本当、に?」

「おう‼ ワイは()()()()()のやぞ‼」


 その……泉は何か言いたげだったのだが、とりあえずその場の空気に合わせることにはしたのだ。今ここで昨夜のことを問い詰める訳にはいかないから……と言い聞かせた。


「……無事に見つける。イアといったか、しばらく待っていてくれ」


 イアは落ち着きを取り戻し、しばらくすると便利屋の事務所を探検したいと言ってきた。「武器は危ないから、それだけは触らないように」と言い聞かせ、イアが見回っているその間、二人は今回の猫探しの作戦を立て始めることにしたのだ。

 イアがトラ柄のすねこすりを見なくなったのは、大凡(おおよそ)三日から四日前のこと。幽鬼神道町の住宅街の中で、空き地という空き地は限られている。イアの情報と摺合(すりあ)せ、泉が提案したのは、二手に分かれて空き地を順番に訪れ、すねこすりを徐々に追い詰めていく、というものだった。


「―――()ず、タカは北西部のこの辺りからだ。(それがし)はこちら側から隙がないよう探していく」

「なるほど? ってことは、だいたいこの辺りに差し掛かれば―――」


 そうして、泉()()「ぐるっと時計回りに追い詰めよう作戦」が、イアの(わず)かな依頼料で開始された。イアはもし、回り込んでいる間にターゲットのすねこすりがイアへ近づいて無事解決、となるため、二人での行動をすることになった。

 イアが歩いているだけで、友達だろうすねこすりが段々と群れなしていく。タカは感心し、これなら案外何事もなく見つかってくれるだろう―――そう心から安堵(あんど)したのだ。


「こりゃぁすぐに見つかるで、イアちゃん」

「へへっ、そうだったらいいなぁ。……そういえば―――」

「ん、どしたん?」


 イアはタカの顔を覗き込んできた。その目はまるでヒーローを見るように輝いていて、興味の向くままに色々なことを質問し続けた。「どうして便利屋を始めたの?」と聞かれれば「まぁ……成り行きっつうかぁ……」と答えていく。「泉さんってどういう人?」と聞かれた時、「危なっかしいんやけど、ほっとけないわな」と答えていく。当然子供に分からない感覚はそれとなく隠しつつ、そのマシンガントークは続いていった。

 その中で、泉との関係を聞かれた時。タカは「そうやなぁ」と少し悩む素振りを見せた。


「……泉は、な。アイツ、周りからは良く思われんことばっかりしよるし、どっか感情任せなこともあんねん。実力は確かやし、一応(うらや)ましくはあるしなぁ」

「……?」

「……やけど、どうしたって助けたい思ってん。()()()やろうけど、いい関係のままでいたいっつうか、な」


 するとイアはきょとんとした顔をしていた。納得いっていない、どこかその理由がハッキリと言えてしまうような、ある意味純粋な疑問の顔だった。


「……泉さん、あんまり楽しそうじゃなかったよ?」

「ん? どういうこっちゃ」

「その、タカさんが、お喋りしていると、こっちを見てきたの。『助けて』って」

「『助けて』って。……ホンマかいな」


 イアは「多分……」と濁していたが、タカは薄々本当の答えにたどり着こうとしていた。……それは、タカ自身に()()()()()()()()のが大きいだろうて。


 一方、泉は作戦通りに南東部から迂回を始めていた。ここまでで()()()()()はあまり見かけなかったが、タカが上手くやっていれば、いずれは簡単に終わるだろう。そうすれば、『あの話』を切り出しても構わないハズだ、と。

 その時、一匹のすねこすりがこちらを見ていたのに気が付いた。その柄はどう見てもブチ模様で、依頼のすねこすりでないものの、助けを求めるように見つめられていた。……すねこすりは男に抱かれて、いやにしつこく顔をこすり付けられていたのだ。

 その男は緑髪を編み込んだ長髪で、パキッとした赤黒いスーツと軍服じみた帽子姿をしていた。


「あらあらあら……ッすぅー……あ~らもしゃもしゃもしゃぁ~‼」

「……」

「可愛いでしゅねぇ……もふもふでしゅねぇ……うぅりうりうりぃ~……」


 ふと、男はすねこすりが一点を見ていたことに気が付いて、その方を見やった。男は泉の方を見てようやく、自身がまじまじと変なものを見る目にさらされていたという羞恥心(しゅうちしん)が上ってきたのだった。


「ん、んん‼ ぐぇっほげっほ‼」


 男はすねこすりを丁寧において、わざとらしくせき込み取り直すと、営業スマイルのようなにやにや笑いで、汗を浮かべて手をもみだした。


「あの、ですねぇ……見てもらったら分かると思うんですが……その、ワタクシ閻魔庁の者でしてぇ……その、このことはどうか内密にしていただければ……」

「……構わないが……いや、本当に構わない……が……」


 今度はより豪快にむせ返った男。手をぱっぱと払ってから、泉の顔をじぃっと見つめた。その男は閻魔庁の人間(ゆえ)に、いくら姿を変えていようと、泉と「辻斬り」の関係性を()()()だけで見出すことくらい、造作もなかったのだ。……(いく)ら気を抜きすぎて、醜態を見せてしまっても、だ。


「……アナタ、こんなところで何を?」

「ああ、ただの猫探しだ」

「……スゥー……。猫が、好きで?」

「依頼だ」

「そうですか」


 男は泉が同類ではなく、猫とは単純にビジネスな関係であると察し、依頼がどうたらの話へと移り聞き始める。泉は多少警戒していたが、タカと閻魔庁との関係、閻魔庁と関係のあるこの男から何か得られるだろうと、深くない程度にタカのことまでを明かした。そのタカは今、猫探しの依頼に関わる「便利屋」を始めたことも。

 良い餌はちゃんと(むく)いてくれるように、男は深く頷いてみせた。


「なるほど……そのタカっていう人、ワタシの知り合いですよ」

「そうなのか?」

「ええ。元閻魔庁刑部省、ワタシの同僚の『タカ』―――おっと」


 「これは失礼」とツグは一礼する。


「ワタシは閻魔庁刑部省の元人間であり、名を『ツグ』と申します」


 ―――元、ではなく「閻魔庁刑部省」の、しかも元人間。泉は刀に手をかけようと腰に触れた時、たかが猫探しと刀を置いてきてしまったことに気が付き、軽い後悔を覚えた。だがツグは泉の想像とは違って(いま)だ敵対的な(ふう)ではない―――むしろ友人と出会った時のように親しげな姿勢のままであった。


「ああ、アナタが仮に『辻斬りの泉』だったとして、ワタシは捕まえたりは致しませんよ。この程度なら、今は些細(ささい)なことですし」

「……とても信じられた話ではないがな」

「まぁまぁ。愚者(ぐしゃ)からの助言だと思って。タカと現在深い関わりのあるアナタへ、情報を()()()差し上げましょうかと」


 ツグの細い目が、更に鋭くなったような気がした。


「この幽鬼神道町を包む『あらゆるモノを引き寄せる結界』―――その持ち主が、()()()()()()()()()()()

「……〝引き寄せる結界〟だと?」

※本エピソードは「小説家になろう」への投稿として公開されており、後にエピソードの内容が変更される可能性がありますことを、ご留意ください。

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