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本日九時からのオープンになります!

『ラーメン 嵐山源隰門あらしやまげんじゅうもん』が俺の店だ。凄いだろう? 大将になって1日目の朝を迎えたわけだ。本日午前9時からのオープンです。ご贔屓に宜しく頼むと友達や仲間や皆に、赤の他人や、その辺にいる通行人にも言いたい気分だねぇ。あははははははははは。もうね、マジでね、気合い入りまくりさ。


俺の名前は嵐山源隰門だ。35歳にしてラーメン屋を始めたんだよ。その前の職業は、格闘家だ。500勝0敗さ。無敗のキングさ。初代の袋金玉王座チャンピオンでもあるし、初代のハドソン川・ジョイスティック・チャンピオンでもあるし、初代の本家口喧嘩王チャンピオンでもある。何の格闘技かって? 枯葉拳だ。俺が編み出したオリジナル武術の枯葉拳だ。俺はね、四季の中で1番秋が好きなんだよね。秋はロマンティックな季節だろう? 確かさ、ロマンティックが止まりづらい、なんて歌があったよな。だから秋をイメージして枯葉拳という名前にしたんだよ。秋拳だと何となく物足りないし寂しくて弱々しい感じだろう? 俺はモミジが好きなんだけどさ、特に真っ赤に染まったモミジがね。モミジ拳だとモミジに対して失礼だろう? だから、敢えて枯葉拳にしたのさ。枯葉拳は20年の歴史があるんだぜ。


おっ。午前9時だ。そろそろノレンを出すかな。


俺は真っ赤な文字で『ラーメン 嵐山源隰門』と書いたノレンを出して店の前に置いた。早くも、むさ苦しい男たちが3人並んでいた。実に嬉しいねぇ〜。


3人とも、皆、帽子を被っていて、うつむき加減だった。


「お待たせいたしました。本日オープンです。宜しくね。ささ、中へどうぞどうぞ」


3人の客はそそくさとノレンをくぐると、それぞれの席へと座った。


俺は厨房に行き麺を用意した。


俺のカミさんがそれぞれの客にコップの水を置いてからメニューを渡した。


「御注文が決まりましたら呼んでください」と俺のカミさんは言って厨房にやってきた。カミさんは落ち着きなく小刻みに行ったり来たりしていた。おぼんを胸に抱えたままだ。カミさんは「ラーメン一丁〜」と小さな声を出して練習した。


「すみません」と緑のバンダナを頭に巻いて緑のシャツを着たデブな客が手を上げた。


「は〜い」と俺のカミさんは行って飛んでいった。

 

「醤油ラーメンとチャーハンをください。どちらも大盛りでお願いします」と緑のデブは言ってメニューを俺のカミさんに手渡した。


「はい、ありがとうございま〜す」と俺のカミさんはテキパキと言ってから厨房にいる俺に向かって「醤油ラーメンとチャーハン、2つとも大盛りで〜す!!」と言って厨房にダッシュしてきた。


「この野郎!!」と俺は麺に向かって叫ぶと煮えたぎった熱湯の中に麺を投げ入れた。「この野郎!!」と俺は叫ぶと長い箸で麺をほぐしてから湯切りの中に麺を入れて、熱湯で湯切りした後にほぐした麺をラーメン鉢の中に投げ入れた。


ラーメン鉢の中には予め企業秘密の秘伝のスープが煮えたぎっていた。


「この野郎!!」と俺は叫ぶと用意していたネギ、豚肉、白滝、ナルト、カニ、エビ、フカヒレを投げ入れた。


俺は単なる大盛りの醤油ラーメンなのに、貴重なフカヒレを盛り付けた理由は、盛大に盛り付けたくて盛り付けたかったのだ。記念すべき初の注文、醤油ラーメンを完成させた。


俺は出来たばかりの醤油ラーメンの麺とスープを少しだけ味見してみた。


バッチグーだ!! 

間違いなくバッチリだ!!


俺はチャーハンを作ることにした。ものの3分でチャーハンを作れる男なのだ。


俺は鍋を振り回し、頭を振り回し、腰を振り回しながらチャーハン作った。


俺は客に出すチャーハンを味見した。


バッチグーだ!!

間違いなくバッチリだ!!


「よし運べ」と俺はカミさんに言った。


「あいよ」とカミさんは言ってお盆に大盛り醤油ラーメンと大盛りチャーハンを乗せて緑のデブの客に運んだ。


「すいません、注文」とガリガリに痩せたマッチ棒の男が弱々しい声で言った。


「はい、ありがとうございます。御注文は?」と俺のカミさんは愛想よく言った。


「ま、まん、麻婆豆腐をください」とマッチ棒の男は弱々しい声で注文をした。


「ありがとうございます。麻婆豆腐、一丁〜」とカミさんは言ってダッシュで厨房に戻った。


俺は素早く豆腐を7cmの大きさの角切りに切ると、にんにく、しょうがを微塵切りにして、泣きながら玉ねぎを細かく刻んで喉の奥がイガらくなり咽た。フライパンを中火で穏やかに熱めてから、にんにく、玉ねぎを一気に炒めて、豆板醤をガンガンジャブジャブと加えてから、色が、お婆ちゃんの乳首の色になるまで炒め続ける。お婆ちゃんの乳首の色は1つの指針になるのだ。


それなりに出来たら皿に麻婆豆腐をドバーッと入れて出来上がりだ。味見はしない。俺は麻婆豆腐が大嫌いなんだ。ゲロみたいなフォルムが嫌いなんだ。慣れない。何となくのカンで作れるから味見はしたくない。


「よし運べ」と俺はカミさんに言った。


「あいよ〜」とカミさんは言った。


カミさんはマッチ棒の男の元に麻婆豆腐を運んだ。マッチ棒の男はスマホを取り出すとカメラで麻婆豆腐を連写し出した。店内にカシャカシャと乾いた音が響く。


「すみません、味噌ラーメンください」と3人目のハゲ男の客がカミさんに言った。


「ありがとうございます。味噌ラーメン一丁〜」とカミさんは言って厨房にダッシュして戻った。


「この野郎!!」と俺は叫ぶと麺を熱湯に投げ込んでから素早く上げて湯切りに放ると腰を屈めて情熱的に湯切りをした。


「ナメんな、この野郎!! テメー、この野郎!! 麺、この野郎!!」と怒鳴り散らしながら湯切りに励む。


その間、俺のカミさんが味噌ラーメンの秘伝スープを作って出来上がると、ラーメン鉢に捨てるようにスープを注ぎ込む。


俺は醤油ラーメンや味噌ラーメン、塩ラーメンや豚骨ラーメン、チャーシューメンに入れる麺だけは強い息子であって欲しいと思う。そう、ラーメン屋が作るラーメンの麺というものは息子同然の存在なのだ。手塩を掛けて育て上げた麺は息子そのものなのだ。1つの例えではあるがね。だからこそ、「この野郎!!」と麺である息子を厳しく叱責して育てあげながら、早く一人前の麺になって皆様に食べられて欲しい願うものなのだ。麺である息子との養育期間は非常に短い。麺を手で解す頃は産声を上げたばかりの赤ちゃんであるが、湯切りの頃にはスッカリ成人式だ。麺をラーメン鉢に入れる頃は親離れの結婚式。大将と麺。そう、親子の時間はあまりにも短いんだ。


「この野郎!!!!」と俺は息子である麺に怒鳴るとラーメン鉢に投げ入れた。


「よし運べ」と俺はカミさんに言った。


「あいよ〜」とカミさんが言った。


カミさんはお盆に味噌ラーメンを乗せるとハゲ男の客のテーブルに置いた。


「おい、待てよ!」ハゲ男はカミさんの腕を掴んだ。


「な、なんですか?! ちょっと離してよ!」カミさんの怯えた声が聞こえたので俺は厨房から顔を覗かせた。


「味噌ラーメンの上によう、ミヤマクワガタが乗ってんべ! ミヤマクワガタもレシピの1つなのかい?」


俺の作った味噌ラーメンの上にミヤマクワガタが、ちょこんと乗っていた。


「味噌ラーメンをテーブルに置いた直後にミヤマクワガタが乗るわけないでしょ!」とカミさんは反論した。


「じゃあ、何故、ミヤマクワガタがいるのよ? ナメんなや! 慰謝料100万円と示談金300万円と謝礼金300万円を払えよ!! 今すぐだ!!」とハゲ男は言ってポケットから刃渡り10センチの折畳式ナイフを出してテーブルの上に突き刺した。


「ヒーッ、あ、あんた〜!!」と俺のカミさんは言って厨房にダッシュして戻った。


「お、お、おあいそー」と緑のシャツを着たデブな客は言ってテーブルの上に大盛りの醤油ラーメン代と大盛りのチャーハン代、合わせて1500円を置くと俺のラーメン屋から飛び出すように逃げ出た。


「食べきれない、ま、ま、麻婆豆腐をタッパに入れてもいいですか?」とガリガリの痩せたマッチ棒の男は言って財布を取り出した。


「テメェはそこに座っていろ!!」とハゲの男はマッチ棒の男に怒鳴った。


「ヒョロロロロロー!」とマッチ棒の男は言うと震えながら椅子に座った。


俺はエプロンを取ると厨房から出て行き、黙ってハゲ男の元に向かった。


「お客さん、どうしましたか?」俺は努めて冷静に話し掛けた。


「ミヤマだよ、ミヤマクワガタが味噌ラーメンの上に乗っていたんだよう!」


「ありえないです」


「ありえないだと?! ナメやがって! ミヤマクワガタを食べれと言うんかい!」


「いやいや」


「ミヤマクワガタを見てみろよ! 元気いっぱいにツノを振り回してるだろうが!! ひょっとしたら求愛行動をしているのかもしれんぞ!」


「確かに元気だね」


「金払え!! 慰謝料、示談金、謝礼金だ!! 今すぐに払えよな!! ミヤマクワガタに対しても遺憾の意を伝えろよ! こんなに湯気立つ熱湯の味噌ラーメンの上に乗って耐えてさ、頑張って耐えてさ」


俺はミヤマクワガタを掴んで壁に向かった投げた。


「あーっ!!」とハゲの男は言った。


ミヤマクワガタは木っ端微塵に砕け散った。オモチャのミヤマクワガタだったのだ。あんなに熱い味噌ラーメンの上で穏やかになれる生き物はいない。


「あーっ」とハゲの男は言いながら俺を見つめた。


「テメェ、とりあえず、オープン初日だから、これ以上、騒ぎたくない。味噌ラーメンを食って、お代を払って、さっさと消えな」と俺は言って厨房に戻ろうとした。


ガシャャャャャャャーン!


割れる音がしたので俺は振り返った。


ハゲ男が味噌ラーメンのラーメン鉢を壁に向かって投げつけたのだった。


「あーっ!!!!」と俺は叫んで絶句してしまった。


ハゲ男は俺の顔に目掛けてコップの水をぶっ掛けた。


「ゲホッ、ゲホッ」俺の鼻の穴に水が入った。


俺はカミさんを見た。


カミさんは泣いていた。


俺はハゲ男の金玉を鷲掴みした。


「ぎゃやゃゃゃゃゃゃ!」とハゲ男は叫んで目をむき出しにした。


俺はハゲ男の頭を脳天唐竹割りをした。頭頂部分にセンターラインみたいに俺の手形が卑猥な形で付いた。ハゲ男の頭は亀頭みたいになっちゃってた。


「テメェ、殺るぞ!!」とハゲ男は叫んで俺の胸ぐらを掴む。


「殺れるもんなら殺って味噌ラーメン!!」


「え、えっ?!」


「殺れるもんなら殺ってみろって言ったんだ!! ハゲ!!」


「いや違うね。味噌ラーメンって言ったね!」


「言ったかもしらんが言ってないかもしらんな!! この野郎!! よくも俺の息子を殺したな!! やっとメンとして、オトコとして麺として結婚式を迎えれて自立したのによ!!」


「えっ?! む、息子?! 何のことだよ?」


「この野郎!!」俺は壁に叩きつけられてベチャベチャになって縮れている麺を見た。


「この野郎!! おい、麺!! 頼むよ、目を覚ませよ!! メーン!!」と俺は床に落ちているベチャベチャの麺に言ってから、新しいラーメン鉢を持ってくると、ベチャベチャになった麺をラーメン鉢に入れて厨房に戻り、麺を水道水で丁寧に汚れを洗い落としてからハゲ男のテーブルに置き直した。


「麺だけじゃねぇかよ!」とハゲ男は言って麺をすくい取ると俺の顔に投げつけた。


「あ、あんた……、オヨヨヨヨ」と俺のカミさんは言って泣き出した。


俺はブチ切れてハゲ男の頭をヘッドロックすると俺のラーメン屋から外に飛び出した。


俺はハゲ男を右腕だけでヘッドロックをしたまま、左手を上げてタクシーを停めた。


「どちらへ」とタクシーの運ちゃんは愛想悪く言った。


「俺が道順を案内するからタクシーを出してくれ」


「わかりました。そちらのお客さんは?」タクシーの運ちゃんはバックミラー越しにハゲ男を見て言った。


「コイツには、かまうな」と俺は言った。


タクシーの運ちゃんは頷くと車を走らせた。


「真っ直ぐ行ったら動物病院がある。動物病院を左折したら50メートル先に牛丼屋がある。牛丼屋を右折すると道場があるから、そこで停めてくれ」


タクシーの運ちゃんは黙って頷いた。


俺は右腕でハゲ男の頭をヘッドロックして左手で口を押さえて喋れなくしていた。


タクシーは道場前に停まった。


俺は料金を支払うと道場の扉を開けて中に入っていった。


「あっ、嵐山源隰門師匠。お疲れ様です!」と弟子である高倉犬たかくらけんが合掌しながら言った。


高倉犬は枯葉拳の黒帯で、なかなかの使い手にまで成長をした。俺がいないときは代わりに道場を担当しているのだ。ちなみに俺は枯葉拳・スーパー・テクニシャン・ゴールド帯だ。これが枯葉拳の最高位なのだ。


諸君、

枯葉拳の段位はこれだ!!


枯葉拳・スーパー・テクニシャン・ゴールド帯

 

枯葉拳・スーパー・ブレンド・シルバー帯


枯葉拳・スーパー・パープル帯


枯葉拳・レッド帯


枯葉拳・ブルー帯


枯葉拳・黒帯


枯葉拳・茶帯


枯葉拳・緑帯


枯葉拳・白帯


うちの枯葉拳の生徒は、とりあえず100人はいる。全国の支部道場を含めると合計80万人にはなるかな。今はラーメン屋さ。ラーメン屋に情熱を傾けている俺がいる。俺は枯葉拳の創始者だ。そこであぐらをかいて気ままになりたくない。一旦、武術はお休みして、今はラーメン屋を極めたいのだ。日本一のラーメン屋になりたい。俺は嵐山源隰門や!! プロのラーメン屋、嵐山源隰門や!!


俺は気持ちを落ち着かせるために自分の道場に顔を出したのだった。


俺は高倉犬に「ちょっと様子を見に来ただけだ。あとは頼むよ」と言って再び道場から外に出た。


俺はハゲ男をヘッドロックしたまま、またまたタクシーを止めた。


またまたたまたま運良く同じ運ちゃんに出くわした。


「さっきの場所に戻ってくれ」


「はい」


運ちゃんは何度も何度もバックミラー越しにヘッドロックされているハゲ男を見た。


『ラーメン 嵐山源隰門』の前に止まり料金を支払うと俺はラーメン屋に入った。


店は混雑していた。お客さんが10人もいたのだ。俺のカミさんが厨房で「この野郎!! この野郎!!」と言いながら湯切りをしていた。俺がいない間、代わりに頑張ってくれていたのだった。


俺は、グッタリしているハゲ男を持ち上げて外に投げ捨てると厨房の中へと戻っていった。





つづく



ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ガリガリに痩せたマッチ棒の男(笑) 例えが面白いですね! 麻婆豆腐大嫌いなのに作るんですね。お味の方は如何なんでしょうか?
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