零話 青い空と無表情
『ねぇ、知ってる?悪い予感て適中するんだよ。』
礎亞裡沙、高校1年生。
彼女にはこれといって親しい友人が居なかった。高校に入学し、学校自体が始まったばかりだというのも理由の一つだろうが、それだけが理由ではない。彼女は中学時代も友人が居なかったのだ。
苛められている訳ではない――が、誰も彼女に近寄ろうとはしない。そして彼女も人に歩み寄ろうとはしない。
けれども、彼女はこの状況を嘆いているわけではなかった。
窓際の席で、澄み渡った青空を見上げてポツリと呟く。
「退屈。なんて出来の良いシナリオ。」
学校も終わり、彼女は一人帰路についた。
春風がスカートの裾を少しだけ揺らし、彼女は顔に纏わりつく髪の毛を煩そうに掻上げながら、ただ淡々と道を歩き続けた。
目的の場所を目指して、前だけを見つめ、無表情のまま。
そして、着いた場所は学校から最寄の駅だった。
否、彼女は電車に乗るわけではない。
目指したのは駅の公衆トイレ。左程広くは無いそこで、彼女は一番奥のトイレに入った。洋式、蓋が閉まっている。
その蓋を開けると其処には―――赤ん坊の顔があった。
*
「ご苦労だったな、亞裡沙。疲れただろう?少し休め。」
「疲れてません。でも時間に余裕があるなら休ませていただきます。」
「そうかい。」
部屋を後にする亞裡沙の後ろ姿を見送りながら、男は戯たように頭を振った。
「女の子ってのは、もっと笑った方が良いと思うけどなぁ…」