異世界、来ました。
自分を包んでいた眩しい光が消え、視界が開けた。
ーー気づけば俺は、何も無い草原に居た。
見渡す限りの緑と青、そして白。
空には入道雲が静かにただずんでいた。
風も吹いているが、強く無く、ちょうど良い。
「本当に転生したのか、俺」
身体を見る。
少なくとも服は、元の世界の時と同じもの。
他にも探ってみたが、変わってないようだ。
「あ…」
ここで気づく。
「そうだ、転生ボーナス」
ボーナスが付与されたであろう、右腕の中指を見る。
見た感じ、やはり変わっていない。
「とりあえず、本当に『粉砕』出来るのか、試す必要があるな」
中指を親指に引っ掛け、丸ーーデコピンの形を作る。
そしてそれを自身の少し前方の地面に向け、
「よいしょっ」
軽く、撃った。
次の瞬間、信じられない事が起こった。
強烈な風圧と衝撃。
そして、雷が落ちたかのような轟音。
小惑星が降ってきた、と言ってもおかしくない。
「な、なんだ…?」
先程の衝撃で腰が抜けてしまった三月は、一帯を覆う土埃の中で何が起こったのかを必死に探った。
そして、土埃が晴れ…見つけた。
自身の前方に広がる、小さなーーしかし、確かにそこに有るクレーターを。
地面が「粉砕」された跡を。
「……は?」
間抜けな音が出た。
「え、何が起きたんだ?」
勿論目の前のクレーターは答えてくれない。
「まさか、今のデコピンだけで、これを?」
冗談だろーー。
こんなの、人間技じゃない。
「よし…もう一発」
今度は虚空に向けて撃つ。
今回はクレーターこそ出来ることはなかったが、二度目の風圧と衝撃、轟音がその威力を十分に物語っていた。
「まさか、本当にーー空気さえーー『粉砕』できるなんて…」
改めて、自身の中指を見てみる。
なんの変哲もないただの指、しかし目の前のクレーターはその指が作ったものだ。
ーーとても可笑しい。
(とんでもないもの貰っちゃったなぁ)
僕には「力」が与えられた。
元の世界ではあり得ない力が。
非常識な力には、非常識な人生があることだろう。
(漫画とかだと、こう言う力を持つ人ほど「スローライフ」を送りたいって言うんだけどなぁ)
しかし、ここは、漫画の世界ではない。
ーー僕の、現実の世界だ。
本当だけど本当じゃない世界だ。
拳を握りしめて、
数歩駆け出し、
叫んだ。
「来たぜー! 異世界!」
その声は空高く、どこまでも響き渡っていった。