異世界へようこそ
「中指勇者」、三話です。
面白いと感じていただければ幸いです。
「中指で、すべてを粉砕...」
最初の感想は、「俺、ネタ能力じゃね?」だった。
「すべてを粉砕」だけならわかるし、最高にうれしい。圧倒的な勝ちスキルだからだ。
邪魔する敵を粉砕、颯爽と困っている人を助ける...まるでヒーローだ。
しかし、「中指」が付くと途端にネタ化するような気がする。
「...何ですか、この能力」
「何って...だから、『中指ですべてを粉砕する能力』だろう? どうしたんだ?」
きょとん...とする女神。その顔には、何の疑問も浮かんでいない。
...おい。
「いやいやいやっ! どう考えてもネタでしょ、この能力!」
「『すべてを粉砕』と、あるではないか。相当強いじゃないか 」
「『中指で』だよっ! 重要なとこ抜けてる!」
女神は相変わらず、この能力がネタであることがわかっていないようだ。
残念だが、能力は変えられない仕組みになっているようだ。
女神も言ったように、一応「粉砕」の字も入っていることだ。前向きに考えよう。
...さて、ついに最後。
「はぁ...わかりました。ところで、いろいろ分かったことですし、そろそろ転生を...ね」
お待ちかねの転生タイムだ。
「あぁ。そろそろいいだろう。
...では、この水晶玉に手を置いてくれ。触れた瞬間、転生が始まる」
女神はどこからともなく水晶玉を取り出した。
神様の力の一部なのだろうか。
「はい...」
ーー緊張する。
ここから、僕の新しい人生が始まるのだ。
心が暖かい。
きっとお腹の中の胎児も、こんな気持ちなんだろう。
「良い人生を」
「ありがとうございます」
未来に希望を膨らませ、
僕は、水晶玉に触れた。
...三月のいなくなった、その後。
「...行ったか」
女神は大きく息を吐きだす。 ようやく一仕事終わった。早く帰って一杯やりたい。
「それにしても...」
ひとつだけ、小さな疑問があった。
「なんで、『ネタ』とか言ったんだろうな、あいつ。
...[最高ランク転生ボーナス]なのに」
まぁ、いいか。
女神はそう思うと、大きく伸びをして、瞬間移動で家へと帰っていった。
...今、三月の冒険が始まる。