第一話 5年生になりました
初連載です!よろしくお願いします。
通学路の途中にある大きな桜の木の下。そこが俺(高柳 律)と穂香(桜木 穂香)の定番の待ち合わせ場所だ。
「りっちゃん!」
先について待っていた俺のもとに、桜色の腰まであるゆるふわな髪を風にもてあそばれながら、とてとてと穂香がやって来た。
髪に絡まった桜の花びらを乱暴に振り払い格闘している穂香。今日は水色の生地に白いストライプが入ったキャミソールと、白い膝丈のフリルがあしらわれたキュロットスカートを履いている。俺と身長はそう変わらないが服の袖やスカートから除く四肢は、少しでも乱暴に触れたら壊れてしまうガラス細工のようだ。背中に背負った赤いランドセルも、まだ少し大きく見える。
「まだ付いてるぞ?」
そう言って穂香の髪に絡まった花びらをひとつ摘んでやった。
「あ、ありがとう!」
ふわりとした穂香の柔らかな髪の感触を指先に感じた。
今日も可愛い――
穂香と俺は0歳からの付き合いだ。俺の母親と穂香の母親は同級生で仲が良く、家族ぐるみで出かけることもしばしばあった。家が近いので、お互いの家を行き来することも日常茶飯事。俺の両親が仕事で留守の時や、香澄さんが夜間勤務で次の日の朝まで帰らないときは、よくお互いの家に行って晩御飯を食べたし、もちろんお泊りもある。なので俺にとって穂香は妹みたいなものだし、俺の母さんも姉ちゃんも穂香を溺愛している。
「りっちゃんは、もうクラブ活動決めたの?」
「まだだけど、穂香は?」
「わ、私もまだだから、りっちゃん決めたら教えてね?」
「うん」
いつもの通学路を歩きながら他愛のない会話をする。
今日は、1学期の始めなので、この桜並木もいつもより新鮮に見える。
「新しい先生どんな先生かな?またりっちゃんやひなちゃん(松永 日向)と同じクラスがいいなぁ」
期待を膨らませ、キラキラと瞳を輝かせながら俺の目を見つめてくる穂香。
「噂だと男の先生らしいぞ?」
「むー、かよこ先生みたいな、女の先生が良かった……」
穂香はみるみる肩をしぼませてしまった。
穂香には父親がいない。詳しい話は知らないが、物心つく頃にはもう居なかったと思う。
なので、大人の男性とどう接していいかわからないのだと前にぼやいていたっけ。
おまけに、学校で安達(安達 敦)率いる男子グループにしょっちゅうからかわれ、泣かされている。ある時はリコーダーを隠され、またある時は上履き、筆箱。そりゃあ、男というと生き物が苦手になっても申し分ない理由だろう。
ちなみに俺は正真正銘男だ。
日向いわく、俺は穂香に男として見られていないのだそうだ。全くもってよくわからん。
「なぁ穂香 、新しい漫画、姉ちゃんに借りたんだけど……放課後、また家来ないか?」
「?!」
先程まで沈んでいた顔色がみるみる明るくなるのがわかった。
◇◇◇
始業式が終わって新しいクラスが決まった。
穂香とはまた同じクラスだ。
5年1組の教室のドアの前、中に入るのを少しためらって、俺の隣で穂香がそわそわしている。
「日向とは別のクラスになっちゃったな」
「うん…。でも隣のクラスだから体育では会えるし、クラブ活動は一緒にしようって約束したから!」
寂しい気持ちを振り払い、自分を鼓舞するように言う穂香。
さっきまで日向と別れを惜しんで泣いていたので少し目が赤い。
「いつも一緒に登校なんてお熱いですな~」
「なッ?!」
「?!」
後からやってきた安達がニタニタといつもの様に冷やかしてきた。髪は黒髪短髪で一丁前にワックスでスタイリングをしている。体型も決して太っている訳ではないのだが、俺より二回りぐらいガッチリしたガタイをしていて、いかにも体育会系と言った風貌だ。
どうやらコイツも同じクラスのようだな。
「お家が近いんだからいいでしょう?!あ、あっくんには関係ないもん」
「お前も本当に飽きないな」
穂香はキッと安達を睨みつけ威嚇するも、仔犬の様にビクビクしている。
「穂香のくせに生意気なんだよ!」
「ひぁッ」
カッとなった安達が力のままに穂香の体を押し、バランスを崩した結果、俺の体に寄りかかる。
「な!こ、こうしゅうのめんぜんで、イ、イチャイチャしやがって」
自分で蒔いた種とは言え、少し羨ましそうに赤面している。
「穂香、大丈夫か?」
「う、うん」
穂香もどういうわけか赤面している。
「君達、朝から何を騒いでいるんですか??」
背後から大人の男の声がしたかと思うと、教室のドアがガラガラガラっと勢いよく開いた。
俺はビックリして振り返る。
穂香も俺の肩越しにではあるが様子をうかがっている。
坂口 航
始業式で紹介があった、俺達の新しい担任だ。
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