第一話 冒険者登録
「よし!今日は冒険者登録だわ!」エルナは気合を入れた。
「何で気合が入ってるの?」レイナが言った。
「だって、噂では冒険者登録って、戦うみたいなのよ。」
「ええっ、戦うの?エルナに勝てる人なんていないと思うけど。あまり気合入れすぎて、相手を殺さないことね。」
「大丈夫だよ。素手で戦うし。」
「エルナの馬鹿力で殴るとそれでも危ういよ。」
「手加減するって。それより、レイナは登録しないの?」
「私はだって、この通り小さいし、お金を持っていても使えないし、あまり登録する意味はないと思うわ。」
レイナはシルフという妖精で、体長は20cmほどしかない。背中には羽が生えており、常に飛んだ状態で生活している。
「大丈夫、私が使うから。」
「エルナにお金持たせたら、ろくなことがないと思うわ。それに、稼いだお金は私のお金!」
「だっていらないって言うから……。」
二人はこのところずっと行動を共にしている。旅の仲間だ。言い争いをしているようで、実はとても仲がいい。
二人は目的地のルーエンに着いた。ルーエンは古くから栄える都市国家だ。ルーエンの冒険者ギルドの前には大勢の人々が集まっていた。ほとんどが冒険者を目指す若者だ。冒険者は人気のある職業だが、なかなかなれるものではない。少々強いというだけでは冒険者にはなれない。冒険者登録を行うためには、それなりの実力を示さなくてはならないのだ。
エルナが受付に行くと、窓口の女性が聞いてきた。
「エルナさん?」
「はい。そうです。」
「あの、申し上げにくいのですが、あなたくらいの少女では、とてもじゃありませんが、冒険者にはなれないと思うのです。」
「あ、気にしないで下さい。私強いので。」
「そうですか……まあ、試験を受けるのは自由ですが。」
冒険者ギルドから出てきたエルナはむくれていた。レイナを見るなり、怒りを吐き出した。
「もう!何なのあの受付の人。人を見た目だけで判断して!私は冒険者登録に受からないって言うのよ!多分、ここにいる人全てを相手にしても勝てる自信があるわ!」
「まあまあ、エルナ。多分勝っちゃうと思うけど、実際にしないでね。」
レイナがなだめたが、エルナの怒りは収まらないらしい。
そんな時、受付からアナウンスがあった。
「ではこれから試験を開始します。今日の試験方式は当初二人一組で戦うことにしていましたが、お子さんも登録していることから、木の人形を攻撃してもらうことにしたいと思います。」
「ちょっと、今の聞いた!?ねえ、レイナ。お子さんって私のことじゃない?私子供じゃないよ!」
「まあ、抑えて抑えて。年齢的には子供じゃない?この前16歳になったばかりでしょ?」
「そうだけど、なんか腹が立つわ。」
参加者は一人ずつ木でできた人形を攻撃していった。あるものは木刀で木の人形を力任せに叩いていく。またあるものは華麗な動作で木の人形を斬った。だが、木の人形はほとんど無傷だった。これは何の試験なんだろうとエルナは思った。技を見るのか力を見るのかさっぱり分からなかった。
「エルナさーん。次お願いします。」
「じゃあ、行ってくるね。」もう怒りも収まったエルナがレイナに言った。
エルナは木の人形の前に立った。
拳を握りしめ、思い切り木の人形に打ち付けた。
その瞬間、木の人形は木っ端みじんに砕け散った。
周囲から「おおぉ~。」という声が上がる。そして拍手が起こった。
「すみません。えーっと、木の人形が壊れてしまったので、この後は二人一組での試合とさせて頂きます。」冒険者ギルドからのアナウンスがあった。
エルナがレイナの元に戻ってきた。
「もしかして、人形壊しちゃまずかったのかな?」エルナが言った。
「でも人形のダメージ量を見るんでしょ?仕方ないんじゃない?」
「私も人間を相手に戦いたかったな。」
「勝てるって分かってる試合、別に面白くもないんじゃない?」
皆の試合が終わってから、冒険者の合格者が発表された。半数ほどが合格したらしい。
もちろんエルナも無事冒険者に合格した。
「やったね!これで冒険者だよ。魔物を倒せば、お金がもらえるんだ。」
「あなた、いつもお金のことばかりね。」
「お金は大事だよ!」