第十七話 初めてのパーティー①
ゴウトはエルナとともに冒険者ギルドに着いた。既に多くの冒険者が出発を待っている。ゴウトとバトも急いでクエストに登録した。
「えー、では今回の西門から海岸までの魔物討伐クエストについてご説明します。関係者の方は集まって下さい!」
クエストのアナウンスが聞こえた。ゴウトも建物の外に出た。
「ではクエストの説明をさせて頂きます。西門を出て少し行った場所に数多くの白狼の群れが発見されたと報告を受けています。みなさんには白狼を退治してもらいます。参加者には参加賞として50ジルを差し上げます。みなさんには四人パーティを組んでもらい、その中で一番多くの魔物を倒したパーティに一人当たり賞金1,000ジルを差し上げます。既に四人が決まっているパーティーは登録後にそのまま出発頂いて構いません。パーティーが決まっていない方は、我々の方で決めさせて頂きます。現在10チームができるほどのエントリーを頂いています。ぜひ一位目指して頑張って下さい!」
「白狼以外の魔物もカウントされるでしょうか?」参加者の一人から質問があった。
「はい、もちろん白狼以外の魔物もカウントされます。」
「白狼より強い魔物でも弱い魔物でも一匹とカウントされるでしょうか?」
「はい、今回は純粋に数を競ってもらいます。弱いアリのような魔物でも一匹とカウントします。」
「おいおい、アリは魔物じゃねえだろう!」参加者からヤジが飛ぶ。
「あくまで例えです。他にご質問はございませんか?ではまずパーティー登録をお願いします。」
ゴウトとバトはエルナとレイナを見つけて、パーティーを組まないかと誘った。エルナはゴウトと競おうか、それとも一緒に戦うか、少し悩んだが、一緒に戦う方を選んだ。
「分かった。いいよ。今回は一緒に戦おう。四人パーティーだからあと一人だね。登録しに行こう。」
登録しに行くと、すぐに残りの一人が決まった。かなり大柄の男だ。物凄い筋肉をしている。大柄の男は自分のパーティーのメンバーを見て、明らかに失望した表情になった。
「ちっ、今回はソロで登録して失敗だったな。ガキのお守りか。こりゃあ一位は無理かも知れねえな。」パーティーのメンバーにも聞こえるような声で言った。
「よう、残りの三人って、お前たちのことだよな?俺はジャック。ランクAの戦士だ。」ジャックは三人に握手を求めた。
「私はエルナ。ランクはE。魔法戦士よ。」
「俺はゴウト、Fランク。戦士だ。」
「俺はバト、Cランクの盗賊だ。」
「わかった、よろしくな。足引っ張るんじゃねえぞ?チーム名を登録したらすぐに出発する。目標は1位だ。今回はパーティーの強さだけで決まる勝負じゃねえ。魔物に出会えるかどうかの運でも決まる。お前たちの力には期待しちゃあいねえが、魔物は見逃すなよ。俺がぶった斬ってやるから、お前たちは見てろ。邪魔すんじゃねえぞ。怪我されても困るからな。ついて来い、俺はいい狩場を知ってる。」そう言うと、ジャックはのしのしと歩いて行った。エルナとゴウトもそれに続く。
「ねえ、エルナ、俺たち完全に弱いことになってるね。」ゴウトがジャックに聞こえないような声で言った。
「いつものことよ。どうせ戦闘になったら分かるわ。」エルナが返した。
ジャック達が西門を出ると、既に目に見える場所で戦闘が始まっていた。白狼の大群だ。
「俺に続け!急げ、もう戦いは始まっている!」ジャックはそう言って走り始めた。
ジャックはAランクというだけあって強かった。剣を一振りするごとに自分と同じほどの大きさの白狼を確実にしとめていく。「盗賊!お前はクリスタルを拾うんだ。一つも逃すなよ!」そう言って、白狼を屠っていく。
そこへエルナとゴウトが合流した。エルナもゴウトも剣を振るう。白狼は相当な数だ。ゴウトは素早い身のこなしで、白狼の攻撃を避け、素早く退治していく。エルナは覚えたての剣技を使って一振りで数匹の狼を倒していく。それを見たゴウトは自分も剣技を出す。
「ファイアソード!」剣から炎が飛び出し、その炎の直線上にいた白狼が何頭も炎に包まれて倒れる。
「技に名前を付けたのね!かっこいい!」隣からそんな声が聞こえる。
「じゃあ私も!ウォータースライサー!」そう言いいながらエルナは剣を振るった。剣から鋭い水が出され、直線に飛ぶ。一撃で何頭も輪切りになって倒されていく。
驚いたのはジャックだった。明らかに隣で戦う戦士たちは自分よりも速いペースで白狼を倒していく。しかもあれは炎と水の剣技だ。かなりの上級者でないと扱えないという剣技をいとも簡単に出している。ジャックはそっと剣を引いた。周囲の白狼はほとんど退治し終わった。何十匹倒しただろうか。辺りには数十匹の白狼の屍が横たわっていた。
「おっさん、そう気落ちすんなって。あいつらが特別なだけだ。」バトがジャックの肩をポンポンと叩きながら言った。
「さて、結構倒したけど、この後どうする?」ゴウトが言った。
「まだまだ倒したりないよね?先に進もう。」エルナが言った。
すっかりパーティーの主導権はゴウトとエルナに移ってしまった。ジャックは大人しくしている。
「ジャック、どうする?」エルナがジャックに聞いた。
「ああ、もう少し倒そう。他のパーティーがもっと倒さないとも限らないからな。」
「じゃ、行こう。私としては、海まで行きたいな。まだ一回も海を見たことないんだ。」
「おいおい、遊びに来たわけじゃないんだよ。」ゴウトが半ば呆れた顔で言った。
「だが、海まで行って帰るのは賛成だ。」
一行は海まで行って引き返すことにした。海まではゆっくり歩いて3時間というところだ。
道中、何度か魔物が現れてはエルナとゴウトに瞬殺されていった。そして海に着いた。
「わぁー、海!広いねー。」感動してエルナが言った。
「俺も見るのは初めてだ。」ゴウトも感動して言った。
「遠くに見えるのは、何だろう?」
「あれは大陸だ。ここよりもっと広い台地が続いているらしい。暗黒大陸と呼ばれている。」ジャックが言った。
「あそこに行って帰ってきたものはほとんどいない。」
「いつか行ってみたいね。」エルナがレイナに向かって言った。
「それはどうかな……。」レイナが答えた。
「あっ、見て、あそこの船、何だかおかしくない?」エルナが指さしながら言った。
沖合で船が一艘揺れているのが見える。何かトラブルがあったのだろうか?船は揺れながら少しづつこちらに近づいているようだ。船員たちは全力でオールを漕いでいる。すると海の中からタコの足のようなものが現れた。
「あれは?」エルナがレイナに聞いた。
「多分、あれはクラーケンね。きっとクラーケンに襲われているのよ。」
「大変、助けなきゃ。」エルナが言った。
「まだ遠すぎるよ。俺の剣技でも届かない。エルナだって……。」そう言いかけたところで無数の半魚人が突然現れた。
「何だ、突然怪物が現れたぞ!」叫んだのはジャックだ。急いで身構える。
「大丈夫!私の半魚人!行って、あの船を助けて!」エルナは半魚人達に命令した。
半魚人達は一斉に海に飛び込んだ。流石元々海の生き物なだけあって、半魚人の泳ぎは速い。エルナたちはその様子をしばらく眺めていた。エルナたちには何もできない。ただ半魚人がクラーケンを倒してくれるのを待つだけだ。すると、「チャララララララン!」とチャイムの音が鳴った。ゴウトが持っている石から発せられている。レベルアップしたのだ。誰もその音に関心を示さないが、ジャックだけは音に驚いた。
「おい、今の音は何だ?」ジャックが聞いた。
「ああ、俺が出した音だ、気にするな。」ゴウトが言った。
しばらくすると、半魚人達が戻ってきた。エルナが素早く半魚人の一人に耳打ちする。半魚人は頷いてもう一度海に飛び込んでいった。
「何て命令したの?」ゴウトが聞いた。
「クリスタルを取ってきてって。」
「へえ、半魚人と会話できるんだ。エルナにはいつも驚かされるな。」
全ての半魚人が帰ってきた。負傷したものもいないようだ。彼らにとって、クラーケンなど恐れるような相手ではなかったようだ。
「さすが、海の生き物ね。半魚人の力は海でこそ発揮されるようね。」レイナがエルナに言った。
「そうね。ただ、戦いが見れなかったのは残念だけど。それより、私じゃなくてゴウトがレベルアップしたのが気に入らないわ。」エルナがゴウトに向かって言った。
「いや、俺だって別に、横取りしようなんて思ってないし。」ゴウトが若干むくれて言った。
「ふふふ、冗談よ。」エルナが言った。
船は無事帰り着いたようだ。彼らには何が起こったか、知る由もない。