第十六話 イリスへの手紙
ゴウトはエルナと同じ宿に部屋を取ることができた。バトとは相部屋だ。相部屋の方が何でもすぐに相談できていい。
「バト、俺は決めた。どこかの騎士団に入ろうと思うんだ。」
「騎士団に?」
「ああ、内部からの方が情報が得やすいだろ?だから内部に潜入して、情報を得るんだ。」
「あまり目立つ行動は控えるように言われていたけどな。」
「分かってる。だが、役に立つにはこれしかないと思うんだ。バトは騎士団には入らずに、マテウスとの連絡を行ってほしい。」
「もし俺が騎士団に入ろうとしても、多分入れないだろうさ、ハハッ。定期的に俺に連絡をくれたら、俺からマテウスに手紙を出すよ。」
「ああ、頼んだ。でも、一つ心残りがあって、どうしても、一度、クエストがしてみたいんだ。」
「今更クエストに?もう十分お金はあるだろう?」
「お金じゃなくてさ。一度経験しておきたいんだ。みんなとの連携とか。」
「でもなあ、クエストって言っても、ゴウトはFランクだろう?弱いクエストしか多分ないと思うぜ。」
「うん。でも一度でいいから経験しておきたい。できるだけ強い敵が現れるクエストがいいな。」
ゴウトは早速マテウスに手紙を書いた。読み書きは学校で習ったが、文章を書くのは苦手だ。だが、そんなことは言ってられない。要点を絞って書き始めた。
マテウス様
無事ルーエンに到着しました。住所は中央通り3-5-203になります。これからは情報屋で色々な情報を得ようと思っています。何かあればお知らせします。
ゴウト 1016年4月28日
騎士団に入ろうとしていることはまだ伏せておくことにした。
「こんなんでいいかな?」バトに聞いた。
「いいと思うぜ。まだ特に何の情報もないしな。欲しい情報があれば、向こうから言ってくるだろう。」
「ああ。そうだな。」
「ところで、お前の友達のエルナ、かなりゾルディアの本質に迫っているようだな。」
「ああ、既に国に影響を及ぼすようなことをやっている。差が付いたな。」
「そう言うことじゃなくてな。ゾルディアの情報も、マテウスは知りたいんじゃないかって話だ。」
「ああ、うん。何を?」
「だからさ、手紙に、ゾルディアの内情についても書いておいた方がいいんじゃないかって話だよ。」
「そう言うことか。なるほどな。」そう言ってゴウトは追伸としてゾルディアについての情報を加えた。
追伸
俺の友達が、ゾルディアに行った。ゾルディアのドラゴンに会い、ドラゴンはゾルディアに閉じ込められていることが分かった。また力を奪われており、オーブに封印されているらしい。友達はそのオーブを手に入れた。まだドラゴンには返していない。ドラゴンは竜族のリザードマンをゾルディアに留めておくために悪魔王サタンに利用されているらしい。
次の日、ゴウトとバトは朝食を食べるとすぐに情報屋に向かった。
「おはよう。」ゴウトが店主のジースに声を掛けた。
「ああ、ゴウト、バト、おはよう。昨日はいきなりルーエンについて知りたいというものだから警戒してしまったよ。だけど、エルナと友達だって言うんで、少し安心した。彼女の友達に悪い奴なんていないだろうからな。早速昨日の続きを聞くかね?」
「ああ、よろしく。」
「ガーランドまで話したんだったな。次はザンジバルだ。ザンジバルは王直下の近衛騎士団の団長だ。1,000人ほどの騎士を率いている。騎士団長の中で最も強いと目されている人物だ。あのバーンよりも強いと言われている。現在40歳くらいだ。ザンジバルは恐らくカサンドラ王に最も信頼されている騎士だろう。子供が二人いて、長男は今18歳だったかな、これがまた強いという噂だ。血は争えないものだな。長男も近衛騎士団に入っている。将来、近衛騎士団を継ぐのだろう。既に中隊長にまで昇進したって話だ。」
「分かった。」
「次は、サリオン。大魔道士と呼ばれている。魔法省の長官だ。昔からカサンドラ王に使えているが、生れは遠く東の国らしい。年齢は不明。その目は何でも見通すとされ、王への反乱分子は容赦なく捕まえられて、処刑されていると聞く。カサンドラ王の信頼は厚い。嘘か真か、ドラゴンを召喚できると聞く。得意な魔法属性は風。」
「なるほど。」
「次はバーンだ。バーンは短剣騎士団の団長。やはり短剣騎士団にも1,000人ほどの騎士が所属している。若くして団長に上り詰めた実力者だ。まだ30歳にもなっていないはずだ。剣の腕はザンジバルにも引けを取らないと言われている。昨日も言ったが、グラン公爵とは仲が良く、バーランド派かも知れないが、証拠はない。結婚はしていない。」
「うん。次をよろしく。」
「お次は、ラミリス大公かな。ラミリス大公はバーランド、カサンドラの兄弟で末弟にあたる人物だ。剣の腕は確かで、昔はカサンドラにも勝っていたと聞く。バーランドと仲が良く、カサンドラとは仲が悪かった。つまり、バーランドが処刑されたことで、一番恨んでいるのはラミリス大公ではないかと言われている。5年ほど前にラミリス公は私設騎士団を設立し、国内外問わず、強い傭兵を集めている。闘技場にも毎日のように通っているそうだ。表向きは国をより強固にするためと言う事だが、反乱を起こすための準備ではないかという噂が絶えない。既に傭兵団も数百人を越している。」
「ありがとう。」
「これで全部だが、何か質問はあるかね?」
「いや、質問はないが、できれば、毎日、彼らの中で動きがあれば、教えてほしい。夜にここに寄るようにするので、集まった情報を教えてほしい。一日どのくらいの支払いになる?」
「そうだな。毎日となると、そんなに彼らの情報は集まるものでもないが、そうだな、10ジルでどうだ?」
「ああ、乗った。それで手を打とう。どんな小さなことでも構わない。また彼らに関係しないと思われる情報でも構わない。何でも教えてほしい。」
「分かったよ。じゃあ、また今日の夜に。」
「ではまた。」そう言ってゴウトが外に出ようとしたとき、また店のドアが勢いよく開いた。
「おはよう!」エルナが叫んだ。
「ああ、エルナ、おはよう。」ゴウトが言った。
「エルナはいつも元気だな。」ジースが言った。
「そんなこともないけどね。ゴウト、今日、冒険者ギルドに行ったんだけどね、私冒険者ランクEになった!」
「そうか、それはおめでとう。」
「クエストをこなさなくても、クリスタルでポイントが溜まるんだってさ。クエストの方がポイントは高いそうなんだけど。」
「俺はまだまだ先だな。まだ一つもクエストこなしてないし。」
「それで、ちょっといいニュースを仕入れたんだ。ゴウトはきっとここだと思って。今日、大々的に魔物討伐を行うそうなんだ。ランクは関係ない。誰でも参加できる。やってみない?」
「丁度これから冒険者ギルドに行くところだったんだ。そのクエストはいいね。ぜひ参加したい。エルナも参加するの?」
「うん。ひとまず悪魔王に勝つには私が強くならないと駄目だと思って。」
「そうか。俺も強くならないとな。じゃあ、一緒に冒険者ギルドに行こうか。わざわざ知らせに来てくれてありがとう。」