第一話
夢に見ていた高校生活は平穏というよりむしろひっそりと一年を経過しようとしている。去年の今頃、志望校に合格して新たな学校生活で経験するであろうたくさんの色鮮やかな出来事を想像してた。部活に仲間と本気で打ち込んだり、屋上でお弁当を食べたり、恋人が出来たり。高校というのはそれらの「青春」と呼ばれる宝物のような思い出が手に入る場所だと思っていた。
しかし、実際に高校に一年近く通っても特に印象に残る出来事はなかった。当然のことである。俺は大きな勘違いをしていたのだ。高校生活は誰もが幸せな時間を過ごすことができるわけでわなく、自分から青春を掴みにいく行動が取れる人か特別な才能のある人にしか望んだ経験を得ることができないのだ。
学校がつまらないわけではない。それなりの友人はいるし、勉強も部活もそこそこ頑張っている。でもこれでは中学生のときと同じなのだ。もっと刺激的な学生時代を過ごしたいと思っていてそれを周りに期待している。待っているだけではダメなんだと気づいても自分から行動する勇気はなかった。
俺の高校生活はこのまま終わってしまうのかと思っていたある冬の日、ホームルームで担任の先生が学校が休校になると言った。
ニュースを全く見ないのでその原因を知ったのは学校からの手紙だった。新型コロナウイルスが世界中で大流行しているらしく、緊急事態宣言が出されたそうだ。学校は五月まで休みになった。俺は感染爆発の怖さや学校行けない悲しさよりも、こんなにも時間が手に入ったことの嬉しさを感じた。これは自分を変えるチャンスなんだと思った。