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アンチ


 また後悔している夢を見た。寝覚めは最悪。亜紀子と再開できるというのに、不安ばかりじゃまた失敗する。


 手探りでスマホを探し、電源を着ける。相変わらず時間を確認する以外のことはほとんどできない。


 いつもなら一日中スマホを弄って意味のない生活をしているのだが、スマホがまともに機能していない今、そういう生活すらもできない。いや、前よりはマシな生活と言えるだろうが。


 家にこもっていると考え事たちが膨らみ息苦しくなってしまう。外へ出ようとしたところ、ポストに家賃等の請求書が入っていた。そういえば、こういうのはどうやって支払えばいいのだろうか。お金があっても、存在を認識されていなければ渡せない。


 これ以上問題を抱えられない。もうキャパオーバー寸前だ。家賃は後々どうにかする。今は生きることだけを考えればいい。


 古めかしい家が並ぶ住宅街に、所々新築の家が建ち並んでいる。周辺にあるのはコンビニとスーパー、それからバッティングセンターくらいで、本当に何もない田舎だ。最寄り駅まで行けば、店が並ぶ大通りがあるが、徒歩だと五十分近くかかる。


 行くあてもないため、とりあえず学校とは反対側へ歩くことにした。坂を上り、下り、頭を空っぽにして足を動かす。昼間ということもあり、日向にいると頭がオーバーヒートしてしまいそう。できる限り陰から陰へ身を移す。その中で気まぐれに十字路を曲がったり、細い塀の間を通ったり、公園を突き抜けたり。まるで子供の冒険だ。しかし、気分はそんなに明るく前向きなものではない。


 気がつけば、下宿先の前の道まで来ていた。心のどこかで迷子になって帰れなくなるのではないか、と恐れていたのだろう。亜紀子のことを思い出してしまう。


 小学校一年生の放課後、亜紀子と一緒に街を冒険したことがあった。隣に彼女がいるからか、どこまで行っても怖くなかった。見たことのない建物が並ぶ通りを勇猛果敢に進み、路地へ入り、道無き道を行き、迷子になんてならなかった。夜遅くまで帰って来ない俺たちを心配して警察に捜索願を出す一歩手前で母親に見つかった。


 その後は先生に怒られ、両親に怒られ、大変だった。普通、小学生がこうやって怒られれば、涙の一つくらい流すだろうが、俺たちは反省の色も見せずにいた。二人でいれば無敵だった。それを勘違いしていたのだ。


「おい小森」


 下宿先を目の前にして出会ったのは同じ学科の成田であった。


「あ、えっと……おはよう?」


 急に現実へと引き戻され、動揺してしまう。


「いや、もう昼だろ」


 なんで成田が自分のことを認知しているのか分からないが、とにかく見えているらしい。


「お前、学校休んでクソニート生活してんだろ」


 俺は色々あって彼に嫌悪感を抱かれている。そのせいか、話す時はこういったキツい口調だ。


「本当に、何でお前みたいなクソ野郎が小野と付き合えたんだ」


 これはもう彼の口癖のようなものだ。


 俺は大学に入って小野を好きになった。亜紀子と雰囲気が似ていたから、という最悪な理由で。そして何度か遊び、告白したらあっさりOKをもらった。二ヶ月が経ち、彼女が亜紀子とは違うことにようやく気がついた。俺の小説は読んでくれないし、考えを肯定してくれないし、俺に色々なことを隠そうとする。そういうところが気に入らなくなって、別れを切り出した。


 成田は小野のことが好きらしく、告白したくせに振った俺が気に食わないのだと思う。小野と付き合っていた時は、俺のことをライバル視していて、小説を読んでは文句を言いに来た。小野と別れ、小説も書かなくなった時には「お前は小説を書くためにこの大学に来たんじゃないのか? 書かないなら辞めちまえ」と怒鳴られたこともある。対して俺はそれに何も言い返せなかった。そうして自分の弱さに気がついた。亜紀子という存在の重要さに気がついた。


「バイトも辞めたんだろ? 親のスネ齧って楽しいか?」


 成田の言葉は一つ一つが鋭く、胸を抉る。彼に俺がこの世から消滅したことを説明しても、信じてもらえる自信がなかった。それに、説明したところで、何か得られる訳でもない。黙っておこうと思った次の瞬間、俺は通りがかった車に轢かれそうになり、間一髪で避けた。


「あのジジイ頭湧いてんのか? お前避けなかったら轢かれてたぞ」


 流石の成田も驚いたようであった。そうやって喋っているのを親子が見ていた。子は四、五歳くらいで、成田のことを不思議そうに眺める。


「ねぇママ、あの人誰と喋ってるの?」


「あっち見ちゃダメよ」


 母親は慌てて子の手を握り、さっさと去ってしまった。その会話と様子を成田も見聞きしていた。


「……お前、幽霊なのか?」


 こうなっては仕方がないと思い、固く閉じていた口を開いた。


「そうだったのか。そうとは知らずにキツく言いすぎた。すまない」


 今の状況を説明し終えると、彼は頭を下げた。思ったより素直に信じてくれて驚いた。


「いや、いいんだよ。そもそも、俺がそういうことをやりかねない人間だから悪いんだ」


「それもそうだな」


 彼は頭を掻いて俯く。少し唸ったかと思えば、勢いよく人差し指を向ける。


「とはいえ、俺はお前を助ける気なんてない。せいぜい頑張れ。じゃあな」


 そう言い放ち、大学の方へ向かった。

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