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苦手な方はご注意ください。

狭くて遠い何か

作者: 猫乃つづり

キツツキが木ではなく、

死体をつつく、

「きっと、彼は苦しんでいるんだよ」

誰かの声だ、誰かの声が聞こえるが、

その声に耳を傾ける人間などいない。

「誰だ!」

と誰かに答えかけるが、

誰も反応するものなどいない。

すると、ふと、傍らには童が一人、

然し、可愛くもない醜悪な笑みを浮かべて

「道化」

とひたすらに連呼するのみ。

怒った男は道化と読んだ童を殴るが、

風となって消えた。

その正体を知ることが出来ないように、

また、再びの正体が彼の目の前に現れる。

「お前はピエロさ」

と言う体は女の体つきをした貴婦人、

つまり、西洋風ドレスに身を包んだ貴婦人が

立っていた。

周囲として暗く、

さながら、この世にいるのは

死の貴婦人かと予感されるものか、

そこにたっている人間、つまり、

彼なのだが、己の存在証明足るものが

ピエロと言われる。

しかも二度目の批判だ。

彼は、己の生き方に困惑する。

ともすれば、己自体が間違っているのだというように彼女は批判しているのだ。

「お前に何が分かる!」

されども、掴もうとした手が砂と消える。

また、再び現れたのは老人、

そして、猫、

最後は……

自分と同じ服を着た先ほどまでの奇妙な笑顔の仮面を着た

人間が言葉をはっさずに、

手紙を渡す。

その文面にはこう書いてあった。

「貴方は道化であることを認めますか?」

その文面に彼は拳を握って、

手紙を破り去る。

自身がなぜ、罪をつぐわないといけないのか認めたくなかった。

「どうして!お前たちはいっつも、いっつも俺を苦しめんだよ!大体、なんだよこの仕掛けはふざけるのも大概にしろよ!」

彼は己の不当を主張し、己の善であることを、

世界の秩序に従って、不服を述べている。

ここで、唐突に仮面の中の何かが嗤う。

ただ、唐突に不気味に奇妙な仮面の笑みの中で笑う。

嘲り嗤うのだ。

人間なぞ、蟻に過ぎないほどに、

「お前は地獄に堕ちたのさ、だから、私が改心したと現実世界で更正させるのさ」

仮面が取れる、同じ顔の面をした、されども、心の中は別の狭くて遠い何かを感じ取った。

「なっ、なんだよォー何かのそっくりさんじゃないかァー、」

彼は、己の罪に目を背け、ごまかす。

一種の犯罪者の逃避行動が表面化された。

つまり、この男は何か犯罪をしていたのかということになる。

「道化」

仮面の男だった彼は、何かひとつ提案する

指を鳴らして、

「然し、お前にチャンスをやろう、この仮面を使え」

渡された男はいぶかしむ。

顔は笑っているが、

心のなかでは目の前に写る人ではない

自分に恐れおののいていた。

超自然的なものが彼と対話しているからだ。

身勝手に振る舞い、女を誑かし、その過程で愛する友人の妻をも愛してしまったからだ。

手にいれるために己に正義ありと殺したことによる拭いきれない罪、

結果として死なせてしまったことを

正義として目を逸らしてきたが、

地獄の審判者は彼を逃すことはしなかった。


そう、彼は、仮面をつけた。

その時、仮面のなかで次第に熱くなる彼の体。


「なっなんだこれは!俺の心が今、まさに地獄の業火に焼かれつつある!誰か、誰か水を!」


と助けを求めるが誰も彼を助けてなどくれないのは

行いと日常において、罪を重ねてきた悪党だと、

この鏡を通して知るのだった。


さて、ここに電車がこようとしている。

既に彼の魂は地獄へ落ちた。

茫然自失となった彼が、

次第に近づいてくる各駅停車する

四角い移動物体の中には

いつものように仕事へ向かう、

もしくは学修という

安定的に組み込まれた様は

ロボット工場のようだった。

彼らの顔は無機質で運転手も

何を考えているのか、心の中は

殺害衝動に溢れているのかも知らず。


彼の目が覚めた時、

ニヤリと笑う。

目のなかの色が真っ黒に染まる。

地獄の審判者かま乗り移ったからだ。


「それでは!更正開始さぁ!」


発狂した男の振りをしている。

実のところ、地獄の審判者は

悪魔である。

嘘と欺瞞に満ちたもの、

道化は道化によって裁かれうるということか。


彼は落ちる

ホームの線路上から、

ニュートンが発見したとされる

万有引力の法則に従って自由落下せし

後は電車と接触するのみだ。

その結果、彼はリンゴと同じ朱く染まったものになる。


今日も今日とて、人身事故が起こる理由の一端として

地獄が荷担しているというデーモニッシュな事情など、

正義を主張している警察にも、法廷にも、

ましてや一般人とされる会社員にも

わかりっこしないものなのであった。

所詮、人間など自分のことで精一杯、

後悔は暗闇の中で気づき、

断頭台で首は飛ぶ。




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