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迷宮都市ストーンバレー

 探索者、とは迷宮に潜り探索する人たちをさすらしい。

 地上で活動する冒険者とは区別されているらしく、成人していれば誰でもなることができる。

 街にある探索者ギルドに行けば詳しい説明をうけることができる。


 などとボルガから教えてもらっている間にだいぶ壁に近づいたらしい。


 入口の門はやはり鉄製らしく檻のような格子が下がることで門は閉じる造りであった。

 門の外に人が並んでいるのが見えた。


 「なんだあれは?」


 「検問じゃ、馬車であれば並ばずにすむ。」


 「検問かぁ、ひょっとして通行税とかとられるのか?」


 「いんや、そんなことしたら商人が寄り付かなくなるけぇ無いわ。指名手配されとらんか、違法なものを持ち込もうとしてないかを確認されるだけじゃ。」


 「違法なもの?」


 「麻薬やら禁書やらだな。もし麻薬なんて持ち込もうものなら…」

 こうじゃ、と言ってボルガは自分の首を切るジェスチャーをした。


 わぁお、異世界こえー


 馬車は並んでる人たちの横を通り過ぎていく。

 列の先がどうなってるか見てみると、体の所々に鎧を付けた兵士であろう人たちが作業しているのが見えた。


 そのうちの一人がこちらに気づきいたようだ。

 ボルガが馬車を止めて降りると兵士は駆け寄ってきた。


 「ようこそ、ストーンバレイへ!滞在の目的はなんですか?」

 二十代前半といったほどの兵士姿の青年は愛想のいい笑顔で訊いてきた。


 「おう、西地区のトニック商会の者じゃ。三年ほど王都に修行して今帰ってきたところじゃ。」


 「トニック商会というと西地区の大通りのですか、それはお疲れ様です。荷物を拝見しても宜しいですか?」


 ボルガが頷くと兵士は荷台に乗り込み積まれた木箱のいくつかを開いて中身を確認した。

 箱の底の方までみたり本を開いて内容を確認したりとしっかりとした検閲だった。


 「荷物は大丈夫そうですね。それではお通りください。三年ぶりでしたらきっと街の変わりようにびっくりしますよ。」

 最後にいたずらっぽくそう付け加えると兵士は元の場所に戻って行った。


 ボルガが荷台に戻り馬車は進む。

 思ってたより厚い壁のトンネルを抜けると一気に街の中の風景が広がった。


 中世ファンタジーの世界、と言ったら伝わるのだろうか。

 左右の建物はレンガ造りのものが多く、平屋か二階建てのものがほとんどだ。

 石畳の道は幅を広くして真っ直ぐに遠くへとのびていて、そのはるか先には城のようなものまで見える。

 電信柱もなければ空に張り巡らされた電線もない。


 端的に言ってめちゃくちゃテンションが上がった。

 今すぐに街を散策したい。あの屋台とか行ってみたい。

 向こうの方では樽の上で何かを演奏してる人がいる。あ、あっちに猫の顔をした人もいる。

 うずうずしている僕の横ではボルガ達も目を丸くしていた。


 「ずいぶん賑やかになったのぁ。」

 ポツリとボルガが呟いた。

 ええ、と本を開いたままシトロンがいった。



 ◇◆◇◆◆◇◆◆◇◆◇◇◆◆◇◇◆◇



 石畳の道を進んでいきやがて馬車は石橋を渡りそこで停車した。

 ボルガは馬車から飛び降りて通りに行き、歩いていた人としばらく会話をした後、戻ってきて言った。


 「探索者ギルドは東地区の端のようじゃな。あの通りの途中のあるパン屋を左に曲がって、その突き当たりを右に行けばギルドに着くらしい。」

 どうやらギルドの場所を聞いてくれたらしい。


 ボルガの指し示す先には人の賑わう通りが伸びており、途中のいくつか店があるようで看板が掲げられていた。


 「あの通りに馬車は入っていけん。ワシらは西地区へと向かうから残念だがここでお別れじゃ」

 ボルガは少し寂しげに笑った。


 出会って数時間だがボルガたちには色々なことを教えて貰った。

 ボルガたちに出会わなければ僕は今頃草原で目を覚まし一人慌てふためいていたことだろう。

 間違いなく恩人であった。


 「ここまで連れてきてくれてありがとう。ボルガたちは何から何まで本当にお世話になったよ。はじめて会ったのがボルガたちで良かった。」


 「ああ、わしもジンに会えて良かったわい。何か困ったことがあったら西地区のトニック商店に来ぃや。」


 「ありがとう、それじゃあまたな。この恩はいつか倍にして返すからな……ぐぇっ…」


 そう言って通りを渡ろうとすると何者かにえりを掴まれ後ろに引っ張られた。

 急停止させられた僕の顔の前をトラックほどの大きさの馬車が勢いよく通り過ぎて行った。


 あと一歩踏み出していれば僕はあの巨体に轢き殺されていたのだろう。

 そうわかった瞬間、全身に鳥肌がたち冷や汗が噴き出し、心臓の音がうるさいくらいに高鳴った。


 後ろを振り返ると狼狽した様子のシトロンがいた。

 どうやら彼女に助けられたらしい。


 「馬車道をよそ見して渡るとは馬鹿なのっ!?」


 その小さな体のどこから出しているのか不思議なくらい今日一番の大声でシトロンが怒鳴った。

 僕はどう答えることも出来ず小さな手に引っ張られるまま呆然とボルガたちの馬車に戻って行った。


 「重症じゃのおぅ。馬車の前に飛び出すなんて正気とは思えん、死にたがりなんか?」

 先ほどとはうって変わり神妙な顔もちのボルガに僕は首をぶんぶんと振った。


 「だとしたら馬鹿ね、子供でもやらないわよあんなこと。」

 シトロンが呆れたように言った。


 「しょうがないの。シトロ、ギルドまでついて行ってやれ。ついでに街についても教えてあげい、親父殿にはわしから説明しておく」


 「しょうがないわね、ギルドまでよ。ついてきなさい。」

 そう言ってシトロンはため息をついた。

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