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名推理

困った。本当に困った。

ボルガたちになんて説明したものか。

こういう時の嘘をつくのは苦手なんだよなぁ、

なんて考えてると助け舟がでた。


「いや、待て!わしはこう見えて王都で勉強した商人じゃ。人を見る目も結構あるんじゃ。兄さんが何やってる人か当てたる。」


「おう、それじゃあ任せた。」


ボルは考える時の癖なのか片目を閉じて顎を左手でさすりだした。


「そうじゃのぉ、まずは兄さんは冒険者ではないの。」


「それはなんでだ?」


「筋肉もあまりついておらんし武器も持っていない。そんな格好じゃあ魔物と戦えんよ。じゃから冒険者とかじゃあないの。」


「当たってるな。」


そうか、武器か。冒険者というからには武器を持っているのか。


「兄さんはきっと村から出てきたんじゃな。ここいらにはムギを栽培している村がいくつもあるけぇ、兄さんの村もその一つなんじゃろ。」


「うん、合ってる」


なんだか僕のストーリーをボルに作ってもらってる気分だ。

棚ぼた的シチュエーション。


「となるとこうじゃ。山奥の村で生まれたジンは農民の子供として育った。家の手伝いをして青年へと育ったジンだが長男ではないため家の畑を継げない。どうするか考えていたところ迷宮都市の噂を聞いたんじゃろ。そうしてジンは都市へと出立し、疲れて草原で眠ってしまっていた、と。この推理はどうじゃ。」


「ああ、なんてこった。何から何まで合ってるよ。商人ってのは目の付け所が違うねやっぱり。」


「そうじゃろ、そうじゃろ。」


ボルガも自分の推理が当たって嬉しいのか口を歪ませている。


ありがたい、これで誰かに説明を求められたら今のを説明すればいいだろう。

辺境の村生まれ、三男坊として僕は生きていくことに決めた。


と、そこに今までずっと静かに本を読んでたシトロンが言った。


「その人、村人じゃあないわね。」


「えっ!?」思わず口から驚きが出てしまう。


「どういうことじゃシトロ?」


「村に行く服って言うのは街の古着屋から流れていくものでしょう。その人の服は村人にしては綺麗すぎる。あとは荷物を持ってないのは頭が悪いからだとしても、村からここまで歩いてきたというのに服装がまったく汚れていないのも不自然。服はおろか靴にすら土がついてないなんておかしすぎる。何よりさっきから言動が胡散臭いのよ。」


なんてこった、真の敵はシトロンだったか。

明智くんもびっくりの名探偵がいた。

的確な推理はこちらの反論を許さない、完全論破だ。

推理を確信していたはずのボルも今や疑いの目を向けている。


「ジン、お主なにものじゃ?」


◇◇◆◆◇◆◆◇◇◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇


「…なるほどのぉ。こことはまったく違う世界から飛ばされて気づいたらあの草原で寝ていたと。」


異世界が通じるか分からなかったので多少ぼかしたが他のことは結局正直に説明した。

いい嘘が思いつかないのもあるが、今までの会話からボルたちなら信頼してもいいと思えたのだ………ただの勘なのだが。


説明を終えたあとの二人の目には困惑と疑念が混在していた。

元の世界でいうと『わたしは魔法の世界からきました!』なんて言っているようなものではないだろうか、ならば当然の反応だろう。


「信じられないよな…」


「ええ、正直自分のことをそう思い込んでる狂人としか思えないわね。」


そう言うとシトロン興味を失ったのかまた本を開き読み始めた。


「飛ばされたかぁ、わしは魔法は詳しくないんじゃがそういう場所を転移させる魔法があるなんて聞いた事があるのぉ。」


魔法かぁ、やっぱりこの世界にはあるんだな。


「魔法で飛ばされたのかは分からないんだ。そもそもとして僕の世界には魔法なんてものは存在していなかった、というより物語の中にしかなかったんだよ。」


「魔法がない世界かぁ。考えたこともなかったの。魔法がないなら当然魔道具もないのだろう、不便な世界じゃな。」

ボルは顔をしかめて言った。


「魔道具、が何かは分からないがそんなに不便ではなかったぞ。魔法のかわりに科学が発達していて皆平和に暮らしてたよ。」


「カガクのぉ…。まぁなんでもいいわい、ジンが困っているのは分かった。」


ボルは続ける。


「つまりジンは帰る家も無ければ職にもついてない。身分を証明できるものも無ければ知り合いもいない、というわけじゃな?」


「うっ…そうなるな。」


改めて人から状況を聞くとその酷さが分かる。

本を読みながらも話は聞いてるようでシトロンが、詰んでるわね、と素っ気なく言った。


「まぁ、安心せい。これからワシらが向かっているのは迷宮がある都市じゃけぇ。まだ若いなら探索者になって稼げばええんじゃ。」


「探索者?」


「見えてきたよ」

ふいにシトロンが言った。


何が?、と返そうとした僕の視界に灰色の巨大な壁が入ってきて思わず言葉をのみこんだ。

高さが十メートルはあろうかという大きな壁が左右横方向にずっと遠くまで続いている。

馬車が進んでいる道はいつの間にか石畳になっていて、馬が歩く音がリズミカルによく響く。

進む先の壁には巨大な口のように鉄の門が空いていた。


「すごい…」


「そうじゃろう。これが石切の都市、いや今はもう違うのかのぉ。ようこそワシらのふるさと、迷宮都市ストーンバレイへ」

ボルガは誇らしげに言った。


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