第二話「嬉しさの欠片もない奇跡の再会」
気がつくと真っ暗な闇の中にいた。
真っ暗な闇…というのは、自分が目を閉じているからだ。
そのことに気づくと同時に、やけに重い瞼を力尽くで持ち上げる。
さっきまでの暗闇とは打って変わって、目に入ってきたのは白…ではなく、人の顔。
白というのもあながち間違いではなかったが。
「うわああぁぁあ!?!」
あまりの至近距離に驚き、反射で飛び退くと後頭部を壁に強打した。
壁に叩きつけられた部分を抑えながら、恐る恐る目を上げる。
年下だろうか、自分よりも少し幼い白髪の少年が小さな丸椅子に座っていた。
さっきの至近距離から体制を直して、微動だにせずじっとこちらを見つめてくる。
左目の下に付けられたコルセットピアスは、言うまでもなく異様な雰囲気を放っていた。
(というか、ここは何処なんだろうか。)
目の前の変わった少年に気を取られ、今更ながらそんな疑問を抱く。
まず気づいたこととして、俺は今何故かベッドの上で起き上がった状態にある。すぐ後ろは壁。
当たりを見回すが案外暗い。扉だろうか、少しだけ光が漏れている場所を見つけた。
漏れている光は扉に付けられた窓からのものだと気づく。
(…外は結構明るい、今は一体何時なんだ…?それにこの匂い…)
「ここの匂い、俺は好きだけどね。」
その声が目の前の少年から発せられたものだと気づくのにそう時間はかからなかった。
「お兄さんは?」
続けて少年がこちらに向かって問いかける。
その目は変わらず自分にぴったりと焦点が合っていた。
「え、と…」
どう答えていいのか、何か聞くべきなのか躊躇っていると、少年はおもむろに立ち上がり先程見つけた扉に向かって歩き出した。
「お兄さんは、ここで待ってて 呼んでくるから」
意味が分からず呼び止めようとする頃には、ピシャリと扉は閉まっていた。
「……なんだ、あれ」
きっと今の自分は、相当間抜けな顔をしているだろう。
それ程に意味がわからなかったのだ。
とりあえず今自分がいるこの部屋の正体を掴もうと、照明のスイッチがないか探すことにした。
×
スイッチはすぐに見つかった。
この部屋の正体に、ある程度の検討がついていたからだ。
扉のすぐ隣、右手に触れたスイッチを押す。
そして独特な匂いが漂う理由、そこから思いついた1つの可能性が確信に変わる。
「保健室…?」
何処か知らない学校の保健室。
多分それで合っていると思う。思うだけだが。
そこまで考え、ハッとなって自分の体と制服を見る。
(ない、)
あの不思議な液体とそれが溢れだしていた傷のことを思い出す。
この部屋にはあの時のような変な違和感はなかった。
(…なんで俺がここで寝てたのかは置いといて、あれはやっぱり夢…?)
だとするとあれは吐き気がするくらい生々しい夢だったな、なんて呑気なことを考えていたが、残念なことにその考えはすぐに吹き飛んだ。
「よっ!みかどちゃん!気分はどうだい??」
何処かで聞き覚えがあるような、ないような。
飄々とした掴みどころのない声。
出来ればないほうがよかった。
開け放たれた扉からは暖かな春の日差しが差し込み、思わず目を細める。
それを後光のように背負いながら、いや決して神々しいとかそういう訳ではなく、1人の少年が入ってきた。
「元気そうで何よりだ おにーさんは嬉しいぞ〜?」
見覚えしかないニヤニヤとした笑顔でこちらに近づいて来る。
もう一度言うが、出来れば夢であって欲しかった。
ポカンとしている俺を他所に少年は続ける。
「あ、そういや自己紹介してなかったね 相手のことだけ一方的に知っているのだから、君にも俺のことを知る権利がある!」
少年はわざとらしく、ゴホンと咳払いする。
何故か嫌な予感がした。
「俺の名前は永田業!よろしく頼むぜ~転校生くん」
屈託のない笑顔で仁王立ちをする彼はそう言った。
先程の白髪の少年がこっそりとこちらを覗いているのが見えたが、そんなことは正直どうでもよかった。
転校生?
咀嚼しきれない情報量に頭がクラクラする。
「…嘘だろ」
もう一度倒れたい。そんな気分だった。
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