第一・五話「絶望少年の潜思」
ドサリ。
無理してたのは分かってた、ので、倒れてもらった。それだけ。
自分目掛けて倒れ込んでくるもんだから1度は支えてしまったが、生憎俺には同い年の男子を支え続けられるほどの筋力なんて持ち合わせていない。床に寝かせておこう。
「さてと、とりあえず…全部食っちゃうか」
倒れ込んだ彼の前にしゃがんで顔を覗き込む。
(ふーん…こいつがねぇ…)
言われてみれば似てる…気がしなくもない。
まさかあの人に息子がいるなんて思っていなかったから、息子を助けてやってほしいと告げられた時は自分の耳を疑った。
「…まあいっか」
とりあえずはそれでいいと思った。余計な詮索は先生に嫌がられてしまう。
(こいつが目を覚ましたら根掘り葉掘り聞いてやる…なんか面白そうだし、こいつ)
色とりどり…と言っては聞こえが良すぎるが、彼の体から流れ出るドロリとした血液のような液体に無意識に口角が上がる。上がっていたと思う。
別に、好きではないのだが。よく分からない。
「やっぱこの瞬間、世界一嫌いだよ」
そう呟きながら濁った泥水のような紫に触れた。指に付いたそれを舐めとると同時に、口から嫌に生暖かい何かが流れ込んでくる。
(重い…)
変な胸焼けがする。まるで食道から内臓に至るまで全て、苦味が張り付いたかのような重苦しさ。その微妙な温度との相乗効果で余計に重く感じた。
やっとの思いで息を吐き出すと、床で横たわっている彼から紫色の液体と、それが流れ出ていた傷が消えてなくなったことを確認する。
「はー…まっず」
口元を手の甲で拭いながら呟いた。これだけは何度やっても慣れない。
全く目を覚ます気配のないそいつをつま先で軽くつつきながら、自分がすべきもう1つのことを思い出す。
「そうだ、あいつらも呼ばないと」
そう言って、ズボンのポケットからスマホを取り出した。