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過感情男子!  作者: 犬狸はに兎
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第一話「この感情を××と呼ばずして何と呼ぶ!」前編



(…なんでこうなったんだっけ)

誰もいない裏路地を歩きながら、俺はこれまでのことを思い返していた。


夜に未成年がこんなところをほっつき歩くのもどうかとは思う。…が、今の俺には五月蝿いほどに光り輝くあのネオン街が、鬱陶しくて仕方がなかった。



普通の家庭に生まれ、普通に育ってきた…というか、いくはずだった。

俺が生まれてすぐに両親が離婚したせいで母親の顔は覚えていなかったが、父親と俺の二人でそれなりにいい暮らしをしてきた。


そんな矢先、父親の会社がいきなり倒産。数年前にほぼ思いつきで立ち上げた事業が大成功した父は、所謂成金というやつだった。

俺の知らないところでヤバそうな奴らから金を借りていたらしく、気付いた時には借金まみれ。

明らかにカタギじゃない借金取りからなんとか逃げ延びつつ、二人で生活を立て直そうと誓い合った数日後…


(あんのクソ親父が…!)


在ろう事か父親が失踪。残されていたのは、顔すらも覚えていない母親の住所が書かれたメモと、そこにそっと添えられていた「旅に出る」の四文字だけだった。

猛烈な殺意を覚えつつ、父親の失踪から数日経った今も俺は借金取りから逃げ惑う生活を続けていた。


そんなこんなで俺は今その母親の住所が書かれたメモを片手に、しつこい借金取りから逃げて街を彷徨い歩いているのだった。


隣町だったため案外自宅から近く、すぐに見つかると思っていたのだが…


「ぜんっぜん見つかんねーじゃねーかよ!!」


誰もいない裏路地に、無意識に漏れ出てしまった不満が響き渡る。

イライラしているのは言うまでもなかった。イライラどころか最早憎悪。あのクソ親父が帰ってきたら絶対に殴り飛ばしてやる。


(なんか…叫んで腹減ったな)


怒りで空腹が紛れたら苦労しないだろうに。溜めていたお年玉貯金は、何処ぞのクソ親父のせいでもうすぐ底をつきそうだが、本能には抗えない。


(昨日の朝から何も食べてなかった気がする…多分…コンビニ行くか)


力が入らず重く感じる足をなんとか奮い立たせ、俺は目的地に向かった。




×




思っていたよりも通りは人が少なく、今以上にイライラせずに済んだ。

週末だからか、親子連れもちらほらと見かけたが、正直今は見たくない光景だった。

無意識のうちに幼い頃の自分と父親を重ね合わせてしまう。こんな時に心の中でだけでも縋れる存在が、あのクソ親父だけという自分に心底腹が立った。


(お前らはいいな、生きてて楽しそうで)


この単純な羨望の情が、嫉妬…妬み嫉みに変わってしまう前にここから離れたい。そう思うことで俺は、重くてたまらない足をなんとか動かした。


今のこの現状に、絶望し切っていたのは言うまでもない。




×




扉を開けると、軽快なメロディーが耳に飛び込んでくる。

今はそれですら耳障り以外の何物でもなかった。


(さっさと金下ろして弁当でも買って…ひとまず今日は帰ろう)


帰り道で借金取り達に会いませんように、と心の中で祈りながら残り少ない、少ないどころか少なすぎる金を下ろす。

さて何を食べようかと体を捻り、振り返ろうと試みる。

それとほぼ同時だった。


真後ろの棚が凄まじい物音をたてて揺れたかと思えば、視界にどこからか飛ばされてきた若い男の姿が飛び込んできた。文字通り。


「……は?」

自分から出たらしい、とんでもなく間抜けな声を掻き消すように店員達が騒ぎ立てている。


「おおおお客様!?困ります!ここでそのようなことは…!」


明らかに冴えなさそうな男が対応にあたろうとしていた。してはいたのだが。


「あァ“!?なんてったァ!?聞こえねーんだよ!もっとハキハキ喋れよ!」

そう言った声の方向に目をやる。そこにいたのは同い年、くらいだろうか。そこまで歳も身長も変わらなさそうな1人の少年だった。


「あの…っ!もしやめて頂けないのであれば…その…!」

「だーかーらー!もっとハキハキ喋れっつってんだろ!?で!?何だよ!こいつがケンカ売ってきたから買っただけだろ!?落としちまった食いモンは後でオレの弟が責任とって全部食うから!問題ねーだろオジサン!」


つむじ辺りを真ん中にして左右で色が違うというなんとも奇抜な髪色をした少年は、店員に詰め寄り胸ぐらを掴んでいた。

俺は店員にささやかな同情の視線を送る。


「ヒィ!?けけ警察…!呼びますよ!」

「そんな事かよ!ほどー?だっけか?そんなことしょっちゅうされてっからな!オレ!今更どーってことねーよ」


(いや褒めてないだろ!)


誇らしげに言う少年に心の中でツッコミを入れる。面倒ごとに巻き込まれる前に立ち去るべきだと結論づけた俺は、こっそりと出口に向かおうとした。あのやたらと髪が派手な不良くんだけには絡まれたくない。出口まで、3メートル、2メートル……


「あ、おにーさんこれ忘れてるよ」

「あぁありがとう…じゃなくて何!?」


驚き過ぎて声が裏返っていたのか、もう1人いたらしい少年にケラケラと笑われる。

双子だろうか。顔も髪型も、レジで店員に詰め寄っている不良少年とよく似ていた。


「あ!これね、通帳?ふーん…て、うわぁ、残高が悲惨だ…」

「おい!人の物勝手に見るなよ!」


そう言って何とか通帳を取り返すと走って出口に向かった。

(なんなんだあいつらは…!)

これまでにないほど気が立っていた俺は、誰に何を言われてもここを出るのだと心に決めて扉に手をかけた。


「待っておにーさん!今出ないほうがいいよ〜!外になんか怖そうなおじさん達が3人くらいいるから!」

「大きなお世話だ!」


イライラしていたのもあってか勢いで蹴り飛ばすように扉を開ける。と、同時。外で何かにぶつかったかのような鈍い音が聞こえた。


「…………あ。」


その一言で全てを察したということを表現したかったのだが、お分り頂けただろうか。

そう、俺はやってしまった。最悪だ。


「オイオイオイオイ…誰かと思えば捨て子の縁くんじゃねえか。おじさんを扉で蹴り飛ばすとは…借金1ミリも返せてないくせに随分と偉くなったもんだなァ?」


(これは…言わなくてもわかる。かなりやばい。殺される。)


「え、いや、あの…これは…違くてその……」


しどろもどろになりながら、どうにかこの場から逃げ出すことが出来ないかと脳みそフル回転で考える。

しかし大して頭のよろしくない俺にはそんな一発逆転を狙えるような案なんて思いつくはずもなく、


「あーもう分かった!親父さんは逃げるし、お前らに金を返すつもりがねェのはよーくわかった!…だがなぁ、こちらもそう簡単には引き下げれないわけよ。縁くんは賢いから、ここまで言えば分かるよなァ?…金がないなら作るまでだ。君のその年齢なら、使えるところが沢山あるからな」


顔にベットリとした気味の悪い笑みを浮かべてこちらに迫ってくる。


(クソ…!なんとか、なんとかならないのか…)


ジリジリと詰め寄ってくる。ここのコンビニは人通りの多い路地から一本ズレた、少し暗い裏路地に建っていた。状況としては最悪。


と、壁に左手が付いたその時。何かが手に触れた。


(!もう知らん!とりあえず投げる!!)

ほぼ反射で手にとった、まだ半分以上残っていそうなタピオカが入ったジュースを相手の顔面めがけて投げつける。


(この隙に…逃げる!!)


「うお!?っこんのクソガキが!!オイお前ら!追え!」

借金取りの一味のボスらしき人物が仲間に指示を出した。いかにもといった感じの柄シャツ2人組が全力で追いかけてくる。


(これじゃすぐに追いつかれる…!)


「こっち。」


そう思ったのも束の間、俺は細い路地から伸びた1本の手に引っ張られ、そのまま暗闇の中へと引きずり込まれた。

自分を包み込むようにして吹いた生暖かい風は、ドロドロしていて気持ちが悪い、今の自分の感情のように思えた。




×後半へ続く×

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