蒼い世界で
自創作漫画のノベライズです。
絵を描くのが遅すぎて、兎にも角にも話を進める為に小説に移行してみました。
アイ鉦は最高。最高なアイ鉦を文章でも表現できるよう、がんばります。
アイ鉦って何かって?
そのうちわかるよ。
アイ鉦沼へようこそ。
※完結まで、投稿した箇所を何度も書き直すと思います。人目があるほうが筆が進むので、不完全な形でもひとまず投稿する方式をとっています。ご理解頂けますと幸いです。
剣戟のぶつかり合う音が月光のもと、ひどく冴え渡る夜だった。
どこまでも続く青薔薇の絨毯は剣の間に間に花びらを散らし、音響の彼方までを覆う紺碧の空は月の光に淡く霞んだ。青い地と夜空の他は恐ろしいほどの静寂しか無いはずの空間。そこに鉄と鉄とが凄まじい勢いで打ち合う音が響いていた。
果たして、青い薔薇の絨毯の上には二つの人影があった。それぞれの手に光る白銀色の長剣。片方は背の高い青年で、もう片方は高い方の半分も背丈があるかわからぬ少年に見える。
煌々と降り注ぐ淡い光のもと、二つの影が花絨毯の上に揺れる。ただのひと時も影たちはとどまることなく、俊敏に相手の動きを探った。走り走り、隙あらば剣でとどめを刺しに行く。時に転び、もつれ、相手の剣をすんでのところでかわしては、また剣を突き出す。二人きりの戦場は激しさを増してゆく。二人の息は既に荒い。夜の中、薔薇の棘でほつれた長い衣服の裾が蝙蝠の羽のように舞った。二匹の大きさの違う蝙蝠達は無残に散る花々には目もくれず、ただただ相手を滅ぼさんが為に剣を振るうようである。手に手に光る長剣は大きさも格好も似たような物で、これでは身体の小さい少年のほうが不利に思われそうなものであるが、しかし違った。少年は小さなその身を跳躍と俊敏とに引き換えていると見えて、加えて案外腕力があるのだ。青年のそれと変わらぬ打撃を常に繰り出し、相手の剣を弾き飛ばさんばかりだ。二人の力は互角である。
永遠に続くかに思われた剣闘にも、やがて終焉は訪れた。
剣をぶつけ合った際のわずかなよろめき。少年は次の瞬間、天を仰いでいた。地にしたたかに後頭部を打ち付け、眼前の景色がまるで水面のように揺れ。左手の平を地に付けるよりも早く、激しい衝撃が少年の腹部を襲った。青年の靴底が容赦なく少年の腹を踏み付け、頭上高くにきらりと、星よりも鋭く光る刃が振りかざされていた。
土の匂いがした。
今頃になってやっと、少年はそれまでに作った怪我の痛みを感じた。頬や腕、脚、至る所から流れる血が酷く温かく感じた。体はもう動かなかった。
痛烈なまでの悔恨と絶望とが代わる代わる少年を責め苛んだが、彼は振り下ろされる銀の煌めきから目を逸らさなかった。しかしその瞳はどこか遠くを見つめているようでもあり、
「……ごめん。」
少年の口から最後に漏れたのは、目の前の青年に向けたものではなかった。
(守れなくて、ごめん。)
青白い月が綺麗な円を描いている。
再び一面の花の海に静寂が訪れた。
柔らかな風に青薔薇の波が揺れる。少年の胸部につき降ろされた剣だけがぴくりとも動かず、ただただ月の光を跳ね返していた。
最後まで読んでくれてありがとうございます!!あなたは勇者です。