末席神の東方奇譚 抄
何時もなら、末席神の東方奇譚は全年齢制限なしで書いてますが、今回戦国時代でのお話が一部出ますので、残酷描写ありになっております。
苦手な方は、お気をつけ下さい。
これは、天界で居場所のない神が、日本の神社で居候する物語である。
でも今回は一寸だけ居候前の話もあるのです。
『ん~やっぱり1日2個~3個が限界じゃのぅ』
目の前の解呪された箱を拾い火に焼べる
「そうね、あまりペースを上げて失敗したら元も子もないもの」
『じゃがの…まだあんなに有るんじゃぞ』
そう言って山に積み上げられた『呪いの掛かったモノ』を見る
『まったく、人間は何で自分の手に負えないモノを造るかのぅ』
最近、この神社ならどんな呪いもお祓いできると、ネットで話題になったらしく
心霊写真をはじめ、呪いの人形やら箱やら鏡やら、たくさん持ち込まれるようになった。
「仕方ないわ、心霊写真なんか好きで出来るもんじゃないし」
『写真なら、神火に突っ込んじゃえば簡単だがの、この箱なんかヤバイぞ…』
「あ、あの…終わりましたか?」
離れた建物の角から、恐る恐る顔を出して尋ねてくるバイト巫女の綾乃ちゃん。
『うむ、午前のノルマは終わったぞ』
「綾乃ちゃん、済まないね社務所を独りで任せちゃって」
「あ、いえ、私がお祓いのお手伝い出来れば良いのですが…」
気持ちは嬉しいが、失敗した時周囲に呪が飛び散り穢れると、人間では一溜まりもない
全異常耐性のある神族だから安全に祓えているのだ
「それじゃ、御昼にしましょうか」
と六瓢の一言でお昼休みに突入
綾乃ちゃんが、どうぞっと重箱をテーブルに広げる
『今日は綾乃の弁当か美味そうじゃの』
「これ作るの大変だったんじゃ?」
「私料理好きで、毎朝家族のお弁当まで作ってるんで、苦にはならないんですよ」
寧ろ楽しんで作ってますと笑顔の綾乃
『天使じゃ…』
「ええ、本当はどっかの居候さんが家事してくれれば問題ないのにね」
心を抉られる
大体、食事必要ないから作らんだけで、掃除と洗濯はしておるぞ
「御二人とも喧嘩せずに赤飯炊いたんで食べてください」
と一番下の重箱に敷き詰められた赤飯をよそってくれた。
いただきます。
食べやすいよう一口大に形成されたハンバーグから頂く
『美味、これ豆腐が練り込んであるのぅ』
「そうなの、ヘルシーでしょ」
と言いながらお茶を注いでくれる綾乃
「アンタ少しは味わって食べなさいよ、作ってくれた綾乃ちゃんに悪いでしょ」
六瓢が、口に入りきらない程詰め込んで食べる儂を見て呆れながら言う
「良いんですよ、いつも美味しそうに食べてくれるんで作り甲斐がありますから」
「でも本当に、社務所独りで大変だったら言ってね」
「大丈夫ですよ、今は祭りみたいなイベント時期を外れてますから、お祓いを頼みに来た人が、帰りに御守り買っていくだけですので…」
何その、コンビニでトイレだけ借りるの悪いんで、帰りがけにコーヒー買ってくみたいなの…
『しかし、一般参拝者が少ないなんて…この神社の神様はご利益無いんじゃ?』
とさっきの仕返しを言ってやる
「ほう…」
食後にとって置いたプリンを赤飯の上にプッチンされる
『あああぁぁぁぁ…』
酷い
「アンタ、プリン好きじゃないの」
『好きでもこんな食べ方はしないのじゃ』
「あ、あの…醤油かける?ウニの味に成るらしいよ」
そうじゃない、そうじゃないんだよ綾乃ちゃん
泣きながらプリン赤飯を頬張る
「そう言えばさ、アンタその喋り方、老神達のせいだって言ってたけど」
「翌々考えたら、うちに来たときは既にそんな喋り方だったわね」
『本当に今更じゃのう』
『儂がこんな喋り方になったのは子供扱いする老神達に大人扱いされたいのが半分』
『後の半分はこの国の魔王のせいじゃ』
「あれ?日本に魔王なんて居たかしら…」
あれは…この島国に渡って間もない頃の話じゃ…
(ここから、一人称が『私』になります。戦国時代の話で残酷描写ありなので、苦手な方はお気をつけ下さい。)
黄金の国と書かれた日本中を周り、黄金なんて無いじゃないと気付き憤慨していた頃
ある村でその男と出会った。
「此方でございます」
そう言って足軽が武将を連れてやってくる
「この娘か、歳を取らぬ八百比丘尼は」
他の武将と違い黒い西洋甲冑に身を包む姿は正に魔王
『私は貴方を知っている、皆魔王って恐れているもの』
「ふん、比丘尼よ本当に死なぬか試してやろうか?」
と魔王は槍を喉元に突き付けてくる
私は、その槍を掴むと自分の喉に突き刺して見せる
魔王は、慌てて槍を引き抜くが、既に傷は塞がっていた。
「ふふ、はっはっは、本物とは恐れ入った」
「死なぬなら丁度良い、儂の創る世を見届けて語り継げ」
そう言われ拐われた。
連れていかれ慰み者にされるものだと思っていたが
私に、手を出すことはなかった。
魔王曰く
「八百比丘尼に手を出して呪いを貰ったら敵わん」
とのこと
比叡山を焼いておいて今更何を恐れるのか…
本当に、ただの語り種にしたいだけなのか、戦場には何時も連れていかれた
そのせいで、城に置いていく妻達に嫉妬から逆恨みまでされて大変だったことも
何もされてないのに…
魔王は大陸に焦がれていた。
そのせいか、いろんな西洋のモノを集めて居て、何時か自分も大陸に行くと語っていた。
私が、大陸から渡って来たと言ったら、寝る間も惜しんで大陸の事を尋ねてくる程
その時の魔王は、子供そのものだった。
『長靴の形をした国には、斜めに曲がった塔があるのよ』
「なんと!斜めとな!?、して倒れんのかその楼は」
『楼じゃなくて塔って言っても解らないか…ん~石で…』
…
「砂だけの国とは…作物が育つのか!?」
『それがね、川が栄養のある土を運んでくるのよ』
「ほー川がのう」
…
「比丘尼よ、儂も必ず世界を見に行くぞ!」
『ええ、世界は広いわ、私でも行ってない国が沢山あるもの』
「なら、お前より先にその行ってない国を見てやろう」
そんな話を毎晩のようにした。
やがて…
天正10年
京都本能寺で運命の日がやってくる
1万の兵に囲まれ最早風前の灯
此方は30人程度
「比丘尼よ、今回は死なぬ御主が羨ましいぞ」
『死なないってだけで、斬られたら痛いのよ』
『だいたい、貴方の創る世を見せるんじゃなかったの?』
「この状況でそれを言うか…人が悪いな比丘尼は」
『そうよ、私は人じゃ無いもの』
そう言ってメタモルフォーゼで魔王に化ける
「比丘尼…お前は一体…」
『私は魔王を名乗る者の代理よ』
『生きなさい、大陸を見て廻るんでしょ』
「ふ…魔王を名乗るなら女言葉は止めよ」
『承知した』
魔王を逃がし1万の兵に刀1本で立ち向かう。
一振りで、足軽5人の胴を削く
『我は魔王(代理)ぞ、死にたい者から前に出よ!五体満足で涅槃に行けると思うなよ』
そう言ってファイアボールを炸裂させる
「火を掛けたぞ!」
兵がどよめく
更に刀に火を付与し足軽の首を跳ねる。
『無事逃げ切るのじゃぞ』
そう呟き、兵と切り結んで行く
数人ほど斬った処で刀が折れ(柔な刀じゃ)、燃え盛る建物に飛び込む
その後寺は焼け落ち、燃え跡から1匹のネズミが逃げ去る。
魔王の首は取れぬまま、遺体は出なかった。
そして、現代
『儂は魔王の代わりに今もその喋り方なのじゃよ』
「知らなかったわ、アンタ…神じゃ無くて魔王だったなんて」
『代理じゃ代理、あれ?綾乃ちゃんは?』
「アンタの馬鹿話に飽きて、午後の仕事に戻ったわよ」
「大体、神で比丘尼で魔王って滅茶苦茶じゃない」
『知らんわ、当時の人間が死なぬ儂を見て勝手に比丘尼だの言ってたんじゃ』
「はいはい、作り話は良いから午後の解呪するわよ」
『ま、待つのじゃ』
残ってるプリン赤飯を掻き込むと六瓢の後を追う。
しかし、自由に大陸へ行ける今の世を、魔王に見せたかったのう。
読んでいただき、ありがとうございました。