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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
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【特別編】黒池皇希育成記 『EpEX.事件記録』

特別編です!

本編では勇ましい(?)黒池の可愛い姿をご覧ください。

 通報が入った。

 通報内容は『近所から発砲音がした。』というものだ。

 そして、こうも書かれていた。


『また虐待されているのではないか?』と。


 虐待。それは、子供も動物も同じだが、力がある者が弱い者を傷つけ、痛めつけることだ。


 そんな家で発砲だなんて、嫌な予感しかない。さらに発砲というので、俺は斎藤と防弾チョッキを着た何人かを連れてそこに向かった。


 車の中でアパートの住民について調べる。

 …………末端だが『川崎組』の組員か。逮捕して何か情報を得られればいいのだが。


 まず子供がいるということだ、早く助けてやらねば!

 俺は息が詰まる思いで窓の外を見る。灰色のコンクリートジャングルは、人間の心の冷たいところを如実に表していた。


 俺はもう外の仕事に行きたくない。この仕事が終わったら、事務かもっと違うことをしたいと上に申請しよう。なぜなら、こうやって外に出ると人々のネガティブな心の声が俺に叩きつけられるからだ。こんなのを聞いていれば、俺だって精神がおかしくなる。


「……上原」


 斎藤が俺の様子に気づいたのか、話しかけてきた。ガタイのいい斎藤と、細くて今にも骨折しそうな俺。みんな相性が良い、バランスの良いバディだと言うが、さて……どうかな。


「斎藤。気にしなくていい。俺は大丈夫だ」

「…………。嘘だな。年数は少なくとも、お前の側にいたからわかるんだ。つらかったら、相談してくれ。頼ってくれ、上原」


 悲しそうな顔をしないでくれ。

 苦しいって言葉を心でも思わないでくれ。

 俺が、もっと苦しくなるから。明るかったお前に、こんな暗くなってほしくなかったのに……。俺のせいだ。俺が、1人で抱え込むから。なってしまったものはしょうがないとしても、戻ることはできない。だからやっぱり、俺は1人で抱え込んで、1人で解決する……。それが俺なんだ……。


「………………考えておく……」


 __________


 _____


 しばらく経って、通報のあったアパートに到着した。アパートの周りでは何人もの野次馬が集まっており、休日だということもあって結構ザワザワしていた。


「やっと来た!」

「通報したのは?」

「あ……私です」


 30代女性が名乗りを上げる。とりあえずここにいるのはアパートに住む全員かを聞いたり、後で話を聞くからここから動かないこと、中に戻らないようにと伝えた。


「行くぞ、斎藤」

「あぁ。部屋は2階の真ん中より少し左寄りのみたいだな」


 斎藤に教えてもらった部屋に向かう。

 上着の中の防弾チョッキを触って確認する。


 ──守ってくれよ……?


 俺は盾持ちの人の後ろに隠れて様子をうかがう。そして、鍵開けが完了して小気味良い音が鳴った。


「開きました」

「よし……。突入次第、盾の2人はその辺の物を蹴散らしてもいいから奥に入れ。鍵係はそのまま待機だ。斎藤、俺と行くぞ」

「わかってる。いつもの通りだな」


 斎藤の不敵な笑みを見ると安心する。

 俺は、俺ならいける。そうだ、俺たちは、最高のコンビなのだから!


「………………っ」


 扉を勢いよく開ける。そして叫んだ。


「動くな!警察だ!!」


 ザザザッ!と盾部隊が前に進む。


 暗い部屋。そこでは炊飯器やエアコンなどの電子機器たちが、異常を嘆くかのように『ピー!』『ピー!』『ビィイイイイ!』と高音低音のエラーを吐いていた。


「……不気味だな」

「理由を彼らに聞こうと思っていたが……」


 俺はテーブルを背にしてフローリングの床に片手をつく。視線の先には……男女が血を流して倒れていた。おそらく亡くなっているだろう。目を開けて、口も開いている。俺は短時間の黙祷してから前を向いた。


 血が流れて、隣の部屋に続いている。すりガラスの扉に大きな穴がある。ちょうど銃くらいのサイズなら入る高さだ。上と下で大きさの違うすりガラス。その下の部分の一部が丸く割れていた。


「…………」

「上原?」

「この向こうだ……」


 俺はドアに手を当てる。手を引っ掛けるところに注目した。


「上原っ」


 ガラララッ……バン!と扉を開く。


 そこには………………。


「君が…………」


 暗い部屋にぽつんと座っている、小さな子供。男の子だが、なぜか女の子用の服を着ている。問題はそこではない。


 その手には。


 銃があった。


 しかもまだ煙が出ていて、畳の床が焦げていた。


 彼はジッとこちらを見つめる。大きくて丸い目。かわいいと思うのが普通なのに、その目には底知れぬ闇が渦巻いているようで、とても不気味だった。


「こんにちは、ボク」

「………………」

「上原、危ないぞ」

「黙って見てろ」


 俺はその場であぐらをかき、彼に向き合う。

 銃を持つ手が震えていた。


「………………」

「それを置こっか」

「…………」


 彼はこくんと頷き、その場に置いてくれた。そしてちょこちょことこっちに近づいてきた。


「素直で良い子だ」

「………………」

「こんな良い子を虐待するなんて。つらかっただろう。もう大丈夫だからな」


 俺は恐る恐る彼の頭に手を置いて撫でる。

 彼の震えが伝わる。今にも泣きそうだ。


「よし、抱っこしてやろう」


 彼の体を持ち上げて膝に乗せる。見れば見るほどふわふわのお姫様のような服だ。


「……うっ……うぅっ……」

「ん?」

「ひぎゅうっ……。……!……う……」


 大きな声を出しかけて、彼の動きが一瞬止まる。だが彼の震えは再開された。


「……またか…………」


 俺は優しく彼の背中をポンポンと叩く。


「泣いてもいいんだよ」


 彼の震えはより一層強まり、声を押し殺しながら泣いた。


「ぐ……ぎゅぅぅ……!」

「大丈夫。声を出してもいいよ」

「えぐっ……ひっぐ……。だっ、て……ママが、叫ぶなって……。パパが、泣くなって……」

「…………。今までよく頑張ったね」

「ぅ、あ……あ゛ああああ〜〜〜!!!」


 大泣きしている彼の背中や頭を撫でる。俺のスーツが汚れてもいい。だから、彼に今までの苦しみを流し落とす機会をあげてやってくれ。


 __________


 _____


「…………」


 俺は泣き疲れて、眠そうな顔をしながら指を口に咥えている彼を抱きかかえて部屋を出る。映画を見ても眠らないようにしつけられていたのだろう。


 あの部屋は少し異常だった。

 部屋の中にはブラウン管テレビがあり、その下にはDVDプレイヤーがセットされていた。組み合わせでは不可能に思える物もあるが、最近は昔と違い『見た目だけ』そういう風になっているので、問題はない。

 部屋に落ちていたDVDの内容はいずれも『銃』に関する映画だった。しかもカラフルなエラー画面になる前も『銃』の映画を流していたらしく、DVDの蓋が開いていた。


「泣き止んだか?」

「あぁ。帰ろう」


 斎藤は彼の顔を覗き込む。彼はビックリしたあと、俺の胸に顔をうずめた。


「恥ずかしいってよ」

「怖がられたかと思った」

「自覚あるんだ?」

「う……うるせぇよ」

「ふふん」



 __________



 事件記録 上原英次


 事案 発砲


 東京都■■■■■■にて発砲事件が発生。

 パートナーの斎藤、その他数名を連れ、現場に急行。通報にあった男女は死亡。死因は発砲による失血によるものだそうだ。

 容疑者と思わしき人物は1名、3歳児の『黒池皇希』。彼は幾度となく両親に虐待されており、近隣住民からの通報も何度かあったようだ。

 彼のカウンセリングを実行。終了次第、児童養護施設に収容予定。


 P.S.

 彼をいじめないでやってほしい。彼は、強い子だ。泣かない、強い子だ。もし、いつかまた会うときが来れば……俺に任せていただけないだろうか?




【奇士刑事・川崎編 〜黒池皇希育成記〜   完】

今回でこのシリーズは最終回です!

長かったですね。4年くらいやってましたか。

黒池が主人公のシリーズは終わりですが、新しいシリーズでも彼は出てきますのでお楽しみに!

イラストで出てくる回数は多いので、忘れることはまず無いかと思います。今回はイラストは無しで、pixiv版で大量にイラストを表示していますのでそちらでご覧ください!


次のシリーズですが、まだ投稿していませんが題名は『流星のオフィウクス』となります。ロボット小説になります。よろしくお願いします!では〜

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