【特別編】黒池皇希育成記 『最終話・将来の夢』
特別編です!
本編では勇ましい(?)黒池の可愛い姿をご覧ください。
「なぁ、何て書いた?」
前の席の涼太くんが振り返って聞いてきた。高校に上がるとき、5人だったグループが2人になってしまったのだ。それでも僕たちが同じクラスになれたのは、先生の計らいなのだろう。
「涼太くんは?」
「カメラマン。たくさん写真を撮って、楽しそうな思い出を残すんだ」
「わぁ、きっとなれるよ!涼太くん、撮影うまいもん」
「へへ、照れるな……。で、黒池は?何て書いたんだ?」
「僕は……」
裏返していた紙を表に向ける。
名前の欄の上に『将来の夢』とだけ書かれた紙。短冊のように細長い紙に書かれた枠の中に将来の夢を書き綴るのだ。
「『警察官』」
「警察?意外だな」
「昔お世話になった、僕の『ヒーロー』がいてさ。あんな風になりたいなって昔から思ってたんだ」
「いいじゃないか!目標になってる人がいるなんて、羨ましいな」
「でしょ」
あの恐る恐る近づいてきて、それでも優しくしてくれたあの上原英次。
『うるさい泣くな』、『あっち行け』と言われ続けてきた僕が、初めて腕の中で泣いた人。あの人みたいに勇気を持って接してくれる人になりたいなって。
「時間だ。回収するぞ」
先生が声をかける。
僕たちは会話をやめて、後ろから回して回収していった。
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「皇希くん」
家に帰って、呼び出される。
僕は宿題のために広げていた文房具を急いで集めて片付け、先生に応えた。
「はい」
「今度の三者面談だが……」
親が先生である以上、代理人を用意しないといけない。それをいつもヤスお兄ちゃんが担当しているのだが……。今お兄ちゃんは出かけていて、ここにはいない。
「2人でやることにした」
「良いんですか?」
「問題ない。今回の話の内容は、今日やった将来の夢……進路についてだ。……いいね?」
いつもと違う迫力に気圧される。
……僕、何かやってしまったのだろうか?
……結局、剣筋は乱れるし、テストも集中できないしと大変だったが、とうとう三者面談の日がやってきた。
「…………失礼します」
別の教室を借りて面談をする。
カーテンは締め切られ、中央で向かい合わせに並べられた2つの机を見て僕は緊張した。
「座りなさい」
「……はい」
黒板の方に先生が、ロッカーの方に僕が座る。授業と同じだ。違うのは人数と明るさと机の並びなのだが。
「話の内容はもう言ったから飛ばすぞ」
「……」
「なに、心配することはない。2人きりなんだ。いつものように話そう」
2人きりと言っても、家に帰れば誰かしら残っているし、先生と完全に2人きりなんてことは珍しいことだ。だから……緊張する!
「学校は楽しいか?……ふ、聞くまでもないか」
ずっと一緒なんだ。そのあたりは先生もわかっている。
「では本題に入ろう」
先生は僕と先生の間に紙を滑らせた。あの『将来の夢』の紙だ。
「内容を読ませてもらった。『警察官』……。お前は本当にそれでいいのか?」
言葉の意味がわからない。僕が選んだからそう書いたんだ。
「僕は……ずっと、警察官になりたかったんです」
「警察は、いつ死ぬかわからない。死と隣合わせの職業だ」
「…………」
「最近は、危険な凶器が増えている。それはお前が一番わかっているだろう?」
……本来、僕が使った銃は日本には普及していない、戦争で使われている銃だったらしい。存在していることが危険極まりないのに、それが日本に渡り、さらには3歳の子供が使ったとなればそれはもう大問題以上の問題となる。果たして、あれは公になったのだろうか?2年ほど、あの地獄のような施設にいたのだから全くわからないが、マスコミとかに質問責めされなかったあたり、隠蔽されたのだろう。
「それが自分に向けられるんだ。……私は、皇希くんにそんな危険なことをさせたくない」
「…………」
「先生としては背中を押したい気持ちでたくさんだ。だが、私個人となると応援はできない。皇希くん、わかってくれ」
先生の苦虫を噛み潰したような顔が、僕の心に刺さる。
警察官になりたい理由は2つある。
1つは、あの『上原英次』に近づきたいから。
もう1つは……警察官のような、さまざまな人と交流があったり、いろんなところに行く機会があれば、いつか『ヘラ・フルール』に会うことができる機会が得られるかもしれないからだ。
今、現実的なことしか誰も教えてくれないし、話そうとしない。歴史や社会の授業だって、卑弥呼は存在しなかっただの、何年にどうやって地球の運命が決まり、誰の手によって海外の偉い人の暗殺がなされたのかなど、全て教えられた。
もし『ヘラ・フルール』という悪魔の話をしたら……精神病院に押し込まれることでは済まないかもしれない。それほどの世界なのだ。だから、裏で動かないといけない。誰にもバレないよう、1人で……。
「……皇希くん」
「……はい」
「それでも、警察官になりたいのか?」
「はい」
「…………そうか」
先生は見たことないほどの暗い表情を見せた。
いつも僕を悲しませないよう、奮闘してくれた先生。そんな僕が、先生を悲しませてしまった。……だからこそ、僕は警察官になるという夢を叶えて、先生に親孝行をしたい。犯人を逮捕したよ、って胸を張って言いたいんだ。
「わかった。これからも、励むように」
先生は立ち上がり、部屋を出る。
その日は家に帰っても、僕たちは無言で過ごしたので部下の人たちが不安そうにしていたが、何事もなく終わった。
──これからも、この先も。
先生やお兄ちゃんたちと、平和で暮らせたら……それだけで、僕は幸せなんだ。




