【特別編】黒池皇希育成記 『剣道部に入ろう』
特別編です!
本編では勇ましい(?)黒池の可愛い姿をご覧ください。
「先生!」
中学生になった皇希くん。初めて会った時より随分成長して、できることも増えた。そんな皇希くんが悩んでいること、それは『どの部活に入るか』……だった。
「なんだい?」
「僕、運動系の部活に入りたいです」
「ほう」
「運動系かぁ!大会とかの応援、頑張らなきゃ!」
「ヤス、それはかなり力をつけた状態じゃないとダメだぞ」
「わ、わかってるっすよ!」
今回もボスが皇希くんの先生だ。皇希くんは何も疑問に思っていないようだが、裏で、まぁ、うん、ね?
「それで、入りたいところは決まっているのかい?」
「実は…………剣道部に入りたくて」
「剣道!?!?」
おれはビックリしてボスの方を見る。
「好きにしなさい」
まさかの肯定派!?
「け、剣道って、危なくないっすか!?ほら、目を突いてしまったり、骨が折れたり!」
「あのなぁ、ヤス。剣道は装備をキチンと身に着けさえすれば、滅多に怪我はしないのだよ」
「う、うう……!」
「ヤス、皇希くんが『自ら「したい」』って言ったんだ。通してやることが親ってものだろう」
「里親っすけどね……」
「………………」
「じょ、冗談っすよ!!」
皇希くんは不安そうな顔でこちらを見ている。そうか、おれがまだOKって言ってないから……。しかも否定的なことばかり言っているからダメだと思われているんだ。
「皇希くん」
「お兄ちゃん……。ダメ?」
「ううん。やりたいなら、とことんサポートするからね。頑張って!」
「わぁ……!」
嬉しそうな顔をしている。そして頷いたあと、学校のカバンを漁り始めた。
「?」
「入部届だろう。先週配って、焦らずじっくり考えなさいと言ったんだ」
「なるほど……。あっ、ああいうのって印鑑が必要でしたよね。どうするんすか?」
さすがに組のを使うわけには……。
「学校で使っているものを使う。担任のチェックも必要だからな。一石二鳥だ」
「うわ……「や」ってますね」
これを職権濫用と言う。
「皇希くん。私も『多少は』剣道の心得がある。家に帰ってからも、練習をしよう」
多少……。おれは腰の刀に目を落とす。
「いいの!?」
「もちろんだとも」
「やったぁ!ありがとう、先生!!」
ぎゅーーっと抱きつく皇希くん。ボスもまんざらではなさそうだ。
「先生はその刀で練習してくれるのですか?」
「さすがにこれは危ない。そうだな……。ヤス」
「はい?」
「新聞紙を持ってこい」
「まさか……チャンバラっすか?」
「ふ……」
チャンバラ。マジか。
「物が何であれ、立ち回りや駆け引きは同じものだ。チャンバラもただの遊びではない」
「わかりやした!昨日の残してたかな……」
おれが新聞紙を探しに行く間、皇希くんは入れ替わりでボスと話していた。
「入部届、あとは部活の欄だけだったので書きました。あとはお願いします」
「わかった。預かっておくよ。明日提出しておこう」
「ありがとうございます!」
「それと皇希くん」
「?」
「家まで敬語じゃなくてもいいんだよ」
「うぅ……でも……」
顔を赤くして背ける。
もしかして……思春期?
「これもいい機会だ。こういう時、どうすべきか考えてみなさい」
「はいっ!」
『身内』だからおかしく感じるのだろうか。それとも、私がむず痒く感じている?そんな、まさか……な。
他の生徒と話しているときはこれが普通だろう。だが……やはり、本当に小さい頃から生活を共にしている皇希くんを前にすると、調子が狂ってしまう。
私自身も鍛えねばならない時が来たのだろうか。




