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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
40/46

【特別編】黒池皇希育成記 『林間学校!』

特別編です!

本編では勇ましい(?)黒池の可愛い姿をご覧ください。

「ボス!本気で言ってるんすか!?」

「そういう行事なんだ。仕方ないだろう」

「だって、だって……!!」


 ……おれたちが何で言い争っているか。


 それは!


 林間学校!!


「1日も離れるなんて!!」

「いやお前、仕事で1日以上離れるときがあるじゃないか」

「おれが休みなのに離れるのは嫌なんすよ〜!!」

「はぁ……。だから知られたくなかったんだ……」


 こういうイベントについて行こうとする親や、学校のやり方にけちをつける人を、モンスターペアレントという。今まで「モンスター○○」なんてと思っていたが、いざその立場になると同じ気持ちになるのだ。先生側のボスにはわかるまい!


「な、皇希くん。楽しみだよな」

「うん!」


 皇希くんは何事もなく無事に育って、今や5年生。頼もしくなったけど、おれから離れる時が近づいてきたと考えるとかなり寂しい。


「……ヤス、ちょっと来い」

「…………なんすか……」


 完全にふてくされたおれを連れてリビングを出る。洗面所まで連れてこられてようやくボスの足が止まった。


「実はお前がそう言うと思って、領地に泊まることにした」

「『あの山』……っすか?」

「あぁ。だから心配すんな」

「…………はい」


『あの山』……かぁ。まぁまぁ遠いし、よくそんなピンポイントな場所を選べたなとは思うが、何かやったのだろう。


「もう下見は済ませてある。ま、私ともう1人だけが行ったがな」

「もし怪しい人がいたら……」

「その時はお前に任せようと思う。なに、あそこは我々の領地だ。不法侵入で突き出してやれ」

「ふふ、そういうことっすか。わかりやした」


 __________


 _____


 数日が経ち、ついに1泊2日の林間学校の日がやってきた。

 みんなが楽しんでいるなか、おれたちはボスの指示により、小学生の彼らからは見えない位置から護衛することになった。


『あの山』は正直ヤバいものがあるのだが、活動範囲からは遠いので誰も気づかないだろう。


「さぁ、みんな。今日と明日、お世話になる建物の管理人さんたちにご挨拶をしてね」


 女の先生が小学生たちに挨拶を促す。……が、育ち盛りで元気な彼らは喋ってばかりで先生の言うことを聞いておらず、彼女は困っていた。


「ええっと……みんな……」

「先生、よろしいですか」

「え、あ、はい……」


 管理人と言っても、ボスの部下だ。見た目は……うん。かなりいかつい。


「お前らァ!!」

「!!」

「ここは山ン中だ。少しの油断が命の危険に繋がる!ちゃんと先生の言うことを聞かねェと……死ぬぞ!」

「………………」


 あぁ……みんな固まっちゃってるよ……。さっきの女の先生も固まっちゃって、まぁ……。


「わかったな?」

「は、はい!!!!!」

「良い返事だ!元気が良くて、とても良い!」


 何が良いんだ。


「え、えっと……この人の言うことをちゃんと聞いてね」

「はーい!!」


 ……おれはテントの中で小屋に仕掛けた監視カメラからその場の様子を見ていたが、かなり不安になってきた。一発目からこれなんて……。ちなみに監視カメラなのだがおれの手作りだ。こう見えて機械いじりが得意なんだ!ま、まぁボスは真逆なんだけどね。



 ……それから、釣りや山菜探し、カレー作りなど順調にプログラムが進んでいった。皇希くんもボスと一緒にいる時間の方が長いものの、クラスメートと一緒にいるところを見て安心した。


「ヤスさん、林間学校なんて懐かしいですね」

「昔、川でホタルを見ましたよ」

「みんなエンジョイしてるなぁ」

「ヤスさんは何か思い出は?」

「あはは、おれは夏風邪を引いちゃって、休んだんだ。だから、羨ましいなって」

「だから行きたいって……」

「そうだね」


 そうだ。おれは林間学校を体験していない。自然の中でお泊りなんて、楽しそうなイベント。行きたかったなぁ。


「今度キャンプでも行ってはいかがですか?仕事は俺たちに任せてください」

「気持ちはありがたいけど、それはボス次第かな」



 ……夜になった。

 キャンプファイヤーをやるらしい。みんなはしゃぎすぎて眠たい体に鞭を打ち、頑張って起きている。

 おれはマシュマロを焼いて食べながら映像を見ていた。


「こういうのって、外で食べるから美味しいんだよね」

「俺、一度食べてみたかったんですよね!」

「よかったじゃん。願いが叶って」

「はい!毎週でもいけそうです!」

「意外と甘党だったんだ……」


 そんな会話をしながら見守っていると、おかしなことに気がついた。


 ……1人、キョロキョロしている。どうしたんだろう。


「あの子……何か探してるのかな?」

「ボスに連絡して、何があったか聞くように言ってみましょうよ」

「そうだね。……ボス、あのですね……」


 __________


 道に迷っちゃった……。

 森の中って、怖い。暗くて、どこまでも同じ景色。


 周りのどこを見ても、木、木、木。

 山菜を探しに行って、見慣れないものが目に入って、何だろうと思って歩いていったら迷ってしまった。自業自得って言葉がお似合いだ。


 ……だけど。


「…………帰りたいよぉ……」


 目に涙を浮かべる。

 先生たち、心配してるかな。怒ってないかな。


 ──ザク。


「ひっ!?」


 誰かの足音が聞こえる。

 私は反射的にしゃがんだ。


 どうか……どうか、見つかりませんように……!!


 私は服を掴んで必死に祈る。

 しかし、あっさりとその祈りは打ち砕かれることとなる。


「…………ちょうどいい……こいつを連れて行こう」


 全身真っ黒の、悪人面をした大男に髪の毛を掴まれて持ち上げられる。


「や、やだっ」


 誰かの服が見えて、それを見ようとしただけなのに!

 どうしてこんなことになるの?!


「こいつの命を見せしめに、あの組の奴らに復讐してやる……!」


 何だか怖いことを言っている。私、死ぬの?嫌、嫌だ!


「こいつっ、暴れるな!」

「ううっ!」

「オラッ、ついてこい!」


 叫ぼうにも、叫べない。叫んだら居場所がバレて、怒られてしまう。それが怖いから……!


「う、ううっ……うう……」


 誰か……誰か、助けて……!


「うおおおおおお!!おりゃあ!!!」

「ぐはっ!?」


 急に男が叫んだと思ったら、私を掴んでいた手が離れた!私はチャンスだと思い、木の後ろに隠れる。


 男に突撃していった『その人』は、まるで格闘家のように臨戦態勢をとっていた。


「助けに来たよ。大丈夫かい?」

「は、はいっ!」


 茶髪でスーツ姿の彼は、前を向きながら話しかけてきた。


「お前……お前は!お前らのせいで!」

「ここはおれたちの領地だ。不法侵入だよ」

「お前らのような奴が言える立場じゃねぇだろ!!」


 大男は、茶髪の人に殴りかかる。川の石くらいでしか見たことがない大きな拳だ。


「………………」


 お兄さんはヒラリと躱し、左足で大男の横顔に蹴りを入れた!あんなに足が上がるなんて!それに、なんて力なの……!


「ぐっ……ナメるなよ!!」


 大男はお兄さんの襟元を掴み、顔を近づけた。そして顔を殴ろうと、右手に力を入れて、大きく振りかぶる。


「ダメ!お兄さんっ!!」


 私は目を背ける。


 ──バキッ!!


 嫌な音がした。


 私は涙目になりながら、恐る恐る前を見た……。


「がっ……!?」


 痛そうな声を出したのは…………大男の方だった。

 茶髪のお兄さんは、左手で右手を受け止め、額で頭突きを食らわせたらしい。お兄さんの頭からは少しだけ血が出ていた。思いっきり打ち付けたようだ……。


「まさかこんな日にお礼参りに来るとはね」


 お兄さんはどこから取り出したのか、倒れた大男の手に結束バンドをテキパキとつけた。


 彼は手をパンパンと叩いて払い、立ってから大男の脇腹を一度軽く蹴る。大丈夫そうだ。もう逆らうことはないだろう。


「ふん……」

「あ、あのっ」


 私はお兄さんの方に近づいた。

 夜なので、顔がよく見えない……。でも、あんな強烈なものを見たんだもの、しばらくは記憶に残りそうだ。


「怖かっただろ。早くみんなのもとに帰りなよ」

「あの、お兄さんは……」

「んー……」


 お兄さんは困った顔をした。


「通りすがりの、ヒーロー……かな!」

「ヒーロー……!」

「キミは?」

「……小崎……遥……」

「遥ちゃんだね。お兄さんが近くまで連れてってあげよう。訳あって、お兄さんは遥ちゃんのお友達には会えないけど……。近くまでは連れていけるから」

「……うん」


 お兄さんの手は大きくて、少しゴツゴツしてた。たくさん戦ったから、こんなにゴツゴツしてるのかな。


 ……私もお兄さんみたいに強くなれるかな。そしたら、みんなを危険から守れるのかな。ヒーローに……なれるかな。


 お兄さんは小屋が見えてきた辺りで手を振って私から離れた。ずっと笑顔でいて、私を安心させてくれた。

 ちょっとした崖の上から小屋の方に向かう。何度かチラチラとお兄さんの方を見たのだが、ずっとニコニコしてくれていた。


 ……そして、私が小屋に着いて、キャンプファイヤーの方に向かうとき……彼は山の中に去っていってしまった。


 __________


「ふぅ……」

「おかえりなさい、ヤスさん」


 おれは元の場所にさっきの男を引きずって戻ってきた。さすがに重い。こいつはもうボロボロだし、これくらいにしてあげよう。


「まさか小学生の思い出をブチ壊そうとする輩がいたとはね」

「こいつ、どうしますか?」

「ボスに決めてもらおうかな。不法侵入の不審者なら普通に警察に引き渡そうと思ったけど、こいつの目的はお礼参りだ。殺すか、再逮捕で罪が重くなるか……。どちらにせよ、ただじゃおかないね」


 おれは男を睨む。男はどうあがいても勝てない相手にビビり散らした。


「ひ、ひぃいっ!」

「はいはい、行きますよ」

「ま、また引きずられっ……やめろっ、やめてくれえええ!!!」


 小学生たちの楽しげな声と、静かな山の中。空にはたくさんの星。その中でこだまする、大男の悲痛な叫び声……。


 そう、『この山』は、おれたちが仕留めてきたたくさんの『悪い人間』が埋まっている。こうやって、悪いことをした大人や、逆らった相手、隠滅したい証拠を隠すのにピッタリなんだ。


 楽しい場所と、危ない場所は表裏一体。

 キミは、気づけたかな?ふふふ……。

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