【特別編】黒池皇希育成記 『小学校入学式前日』
特別編です!
本編では勇ましい(?)黒池の可愛い姿をご覧ください。
「うっ、うっ、うっ……ボスぅ〜!!」
朝から弱音を吐いているのはヤスだ。
ここ数日、ヤキを入れに行ったり、闇金に手を出した人の個人情報などについてのこともあり、皇希くんを雲と彭に任せっきりだった。
ヤスはというと、こんな性格だが私の懐刀でもあるため同行させていた。もしその姿を皇希くんに見せるとなると……。恐怖で今後目を合わせてくれなさそうだ。
「本当に皇希くんを学校に行かせるんすか〜〜!?」
「泣くな。担任として毎日見ているから、大丈夫だ」
「うう、権力と脅しで手に入れた担任の権利で、ですか〜?」
「…………」
「す、すいませんっ」
「……はぁ」
ひと睨みでこんなにビビるとは。
だが、確かに『権力と脅しで手に入れた』のは間違っていない。ちゃんと理解しているではないか。
「だが、皇希くんは楽しみにしているみたいだぞ」
チラ、とソファーの方を見る。
そこにはニコニコしてランドセルを抱える皇希くんの姿があった。
「♪」
「皇希くん」
ソファーの背もたれを左手で触りながらグルッと正面へ向かう。
「?」
「学校では、私のことを『先生』と呼ぶんだよ」
「……『せんせい』?」
クリクリとした丸い目が私を見つめる。
「どうして『せんせい』なの?」
「そう呼ばれているから……と言いたいところだけど、そうだな、『先に生まれたから』って言っておこうか」
「『さきにうまれたから』……」
ランドセルを見つめる皇希くん。まだ使っていない、ピカピカの黒いランドセルに皇希くんの顔が映る。
「そう。人生経験は、先に生まれたから多いと言われているけど、そうでもないことがある。でも、そう言っちゃ『先生』の面目は丸潰れだからね……。だから胸を張って『先生』と名乗るのは少し恥ずかしいことだと思っているんだ。間違ったことを教える人が『先生』だとすれば、それはただの嘘つきだからね」
「……………………」
皇希くんは口を開けてポカーンとしていた。
「難しいか」
頭を撫でる。
確かにまだ小学生でもない子供に話す言葉ではないな。
「リアルなものもいいけど、皇希くんには色とりどりの世界を見てほしかったからね!だからアニメとか絵本とか、現実ではないものをたくさん見せたんだよ」
ひょこっとヤスが覗き込む。
「ヤス、適度に現実のことも教えた方がいいんだ」
「どうしてっすか?」
「知らない方がいいこともあるからだ」
「……それは、」
「ヤス」
「…………はい」
「?」
私たちの雰囲気を感じ取ったのか、皇希くんは心配そうな顔をした。
「皇希くん、明日から楽しみだな」
「うん!」
「明日は早い。ヤス、明日の準備を」
「わっかりやした!」




