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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
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【特別編】黒池皇希育成記 『邂逅』

特別編です!

本編では勇ましい(?)黒池の可愛い姿をご覧ください。

 皇希くんがもうすぐ小学校に入ろうかという時。彼は1週間ほど行方不明になった。探し回っていると、夜の8時頃、マンションの近くの公園で彼を見つけた。私は呆然とする皇希くんを強く抱きしめ、目の前に佇むコート姿の少年を見た。真っ赤なコートに真っ赤な瞳、真っ赤な髪の異様な格好。しかし体の大きさは小さな子供程度だった。


「お前は?」

「………………。俺が……見えるの?」

「見えるって……。キミは幽霊とかなにかなのか?」

「違う……。俺は……悪魔。ヘラ・フルール……。そいつが可哀想だったから……助けただけ」


 目の前の悪魔を自称する少年の赤い髪が風に吹かれてふわふわとなびく。夜だというのに彼の姿はハッキリ見えている。


「ありがとう。ほら、皇希くんも」

「……ありが……と……」

「…………」

「キミ。どうか礼をさせてくれ」


 巨大なギザギザの剣を持ったままの彼は、目を合わせようとしない。


「………………なら……」

「何でも言ってみな」

「本……が欲しい。図鑑とか、人間界についてとか……」

「本だな。それくらい安いものだ。好きなだけ持っていくといい」


 彼の目が嬉しそうにキラキラと光る。嬉しそうな顔をしたあと、彼自身の表情にハッ!と気づき、顔をそむけた。


「子供らしくないな」

「そっちで言う、もうすぐ1000歳だもん」

「おっと……。相当年上だったのか。詫びさせてくれ」

「いちいちいいよ……」

「さぁ、今から本を買いに行こう。皇希くんはヤスと待っててくれるか?」

「…………うん」


 私は電話でヤスを呼び出し、見送ったあと彼の小さな手を持って本屋に向かった。あと1時間ほどしか開いていないから急がねば。


「…………」

「見知らぬ人についていってはいけないぞ」

「……悪い人なら殺すほうが早い」


 彼は素っ気なく答える。そういえば持っていた剣が消えている。これも悪魔の力なのだろうか。


「大した自信だ。お前は将来強くなるぞ」

「……。本当に……強くなれる?」


 彼は目を丸くしてこちらを見上げる。彼も強さを求める者だったか。


「もちろんだ。強さとは、ただ暴力を振るうだけではない。許すことも強さだ」

「許す……?戦わなければ強くなれないよ?」

「それもあるが、心を強くするんだ。心さえ強くなれば、どんなことでも耐えられる」

「心……。うん。頑張る……」


 本屋に着き、彼が欲しいというものを見て回る。届かないところは取ってやる。なぜそうなったかというと、彼が翼を広げようとし、思わず止めからだ。


「……なんで?」

「こんな狭いところで広げたら他の人の邪魔になる。それに……」

「?」


 首を傾げて頭にある大きなアホ毛がボヨンと動く。


「人間ではないことがバレれば、何をされるかわからないからな」

「…………。わかった」

「いい子だ」


 彼の頭をワシャワシャと撫で回す。彼は嫌な顔をせず、目を細めた。


「どれか欲しいのは見つかったか?」

「これ……」


 そう言って手に取ったのは『うみのいきもの』という図鑑だ。本を胸の前に持った状態でこちらの方を向いた彼。彼の顎から下の上半身がスッポリ隠れそうなほど大きい。


「いいぞ。せっかくだから『海』だけとは言わず、『陸』も買っていこう」

「うんっ、ありがとう」

「あとは『地図』と……」

「…………」

「あ、おい!」


 私が選んでいる間にトトトと小さく走っていく彼を見つけた。私は急いで彼の肩を掴む。


「!」

「一人は危ない。何かを見つけたら、かならず報告することだ」

「……はぁい……」

「それで、何が欲しいんだ?」

「これ」

「……『楽しい料理』、『かんたん!誰でもできるお裁縫』……意外と家庭的なんだな」

「お姉ちゃんが何もしないから代わりにやってるの」

「お、偉いじゃないか!わかった、洋食と和食、中華料理のも買っていこう」

「♪」


 買い物は続く。

 観光の本や、計算ドリル、スポーツの本に、最近ハマっているという紅茶(まさか魔界に紅茶なんて存在するとは思っていなかった)についての本。一冊一冊選んでいるなか、ずっと彼の目は輝きっぱなしだった。


 だが、私にはわかる。彼から血の匂いがすることが。さっき会ったときに剣を持っていたが、おそらく皇希くんを救ったときに誰かを殺したのだろう。


「あらかた欲しいと言っていたものは見つかったな。それでは、私からも選ばせてもらおう」

「オススメの本?」

「そうだ。ええと……これだ」


 手に取ったのは哲学の本だ。かなり太く、辞書ほどある。『うみのいきもの』と同じくらいの大きさだ。


「!?」

「驚きのあまり声も出ないか。これは哲学の本だ。これを読んで、心を強くしなさい。長寿の悪魔なら、なおさらだ」

「あ、ありがと……」


 会計を済ませ、いよいよ別れの時がやってきた。晩飯に誘おうとしたが、どうやら彼の世界はまだ昼らしく、断られた。友達も待っているから長居はできないそうだ。彼にはこのまま義理人情に厚い男になってほしい。いつか私の同士となってもらいたいものだ……。まぁその頃には私は寿命で死んでしまっているかもしれないがね。


「はは、思いの外重くなってしまった」

「貸して」

「重いぞ?……悪魔だからいけるのか?」

「……はい。残り、入れて」


 彼が空中に手を振ると、真っ黒な穴が開いた。


「これは……」

「異空間。魔力がある限り、悪魔なら誰でも開けるの。ここにたくさん物を置くんだよ」

「そうか。便利だな」


 そう言って、本を異空間に入れる。なるほど、おそらく先程の剣もここに入れたのか。


 ……ところで私はしっかり者でね。こんなチャンスは逃せないのだよ。彼には申し訳ないが、本にGPSを付けさせてもらった。人間から……いや、我々から見て魔界はビジネスの新天地でね。魔界で取り出せば、その場所がわかるというものだ。もしこちらから直接行くことができなければ、彼を古い本などに書かれている召喚術を利用し、召喚し、人質にする。拷問にでもかけ、あちら側に行けるようにさせてもらおう。


「……今日はありがとう。本、大事にするね」


 彼は異世界を閉じたあと、こちらに向き直った。


「もう行くのか?」

「うん。さっきの子、ちゃんと見ててね。それと、怒らないであげてね。連れてったのは、吸血鬼だから。闇があるところならどこからでも出てくるから」

「あぁ。怒らないし、注意して見ておく」

「うん。……じゃあね」


 彼がにへらと笑った直後、彼の姿は闇へと溶けていった。元からそこにいなかったかのようだ。


「…………不思議な子だ」


 まるで夢を見ていたかのよう。


「悪魔と言っていたな。悪魔というものは皆あんなものなのか……?」


 本屋に背を向けて帰路につく。周りの人たちは「着物だ……」「すごい見た目だな……」と驚いていたが、私は気にしない。

 彼のような姿の人が当たり前に生きている世界だってあるのだから。


「……良い勉強になった。いつかまた会おう、赤き悪魔よ」

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