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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
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最終回 7

最終回は10回に分けて投稿します。

その後、特別編を投稿するのでお楽しみに!

「のっこりーものー!」

「のっこりーものー!」

「「のっこーりもーののーくーろいーけこーうきー!」」

「……………………」


 僕には感情が無いのだろう。

 周りからいじめられていてもノーダメージ。心に響かなかったからだ。

 目の前でピョンピョンと馬鹿の一つ覚えのように飛び跳ねながら叫んでいる奴らは何がしたいのだろうか。そんなことは気にならない。僕には心底興味がなく、些細でどうでもいい事象だからだ。


「うわ!こっち見やがった!」

「逃げろー!残りものが感染(うつ)るぞー!」

「わー!!」


 一目散に逃げる年下の男の子たち。

 どうでもいい。頼むから僕に関わらないでくれ。


「………………」


 僕の手には、1つの武器。

 Yの字に作られたプラスチックの分かれた先にゴムが付いている。そのゴムの真ん中には、物を乗せられるようになっている。


 これは『パチンコ』という。


 一度人に向けて石を飛ばしたら怒られた。

 なぜ怒るの。これはそういうものでしょ。

 人の口から出る弾丸は良くて、どうしてこの『弾丸』はダメなの。


 その一件から、さらに僕は周りから冷たい目で見られるようになった。


 自業自得と笑ってもいい。だって、僕にはそれしかなかったから。どうやって人と接すればいいのかがわからなかったから。

 痛いことをすれば、誰かが振り向いてくれる。それだけが僕の知識だったから。


 僕には『力』が必要だ。

 誰かに理解してもらうためには、振り向いてもらうには、見てもらうには、『力』が必要なんだ。



 ……ある日、いつも里親としてやってくる人の中でも異質な人たちが施設に入ってきた。

 みんな良い子にして選ばれるようにアピールしているが、僕は逆だった。


 部屋の隅でジッ……として、見つからないように。


 ビックリして目を逸らされるように睨みつけて。


 パチンコを握り締めた。


 見られたくなかったのは他の理由もある。

 僕の噂や話は当然ここに来る前から役員の口から知らされているだろう。「一人だけ性格に難がある人がいますよ。近寄らないように注意してください」、と。


 そんな僕にはたくさんの傷がある。

 全て喧嘩したからというものではなく、役員や子供に付けられた傷だったからだ。


 僕を見ないで。


 一人にして。


 そんな願いは脆くも崩れ、着物の男の人は一直線に僕の元へと向かってきた。


「………………」


 最初は静かにこちらを見ていた。

 若い男が心配そうに覗き込んでいる。


 ……初めに声を出したのは、着物の男の方だった。


「キミ、名前は?」


 そんなのを聞いて何になるんだ。

 僕は目で訴えるが、彼は真っ直ぐに僕を見つめていた。


「………………くろいけ……こうき……。たぶん、5さい……」


 僕は耐えられなくて、答えた。

 聞こえるか聞こえないかというほど小さな声で。

 分からずに帰ってほしい。そういう思いが込められていた。


 しかし……僕のことを調べてから来たのだろう。彼は僕を連れ帰る気満々だったようで、名前も知られていたし、結局彼に引き取られることになったんだ。


 __________


 _____


 ………………最近になってこの夢ばかり見る。


 今、この状況を救い出してほしい……って気持ちの表れなのだろうか。いや、表れって言葉は正しくない。だってこれは『過去』、本当に起きたことなんだから。


 ヘラを見ても『力』の参考にはならなかったし、どれだけ良いものを振り回そうと、どれだけ鍛えても、どれだけ危険なことをしても僕は僕。何も変わらなかった。


 この夢を見る前は、『特別能力推攻課』のみんなを殺してしまう夢ばかり見ていた。


 毎日が憂鬱だった。


 夢の中で鏡を見ると、自分の顔が黒く見える。目だけが光っても誰か特定ができない。見分けることができるのは髪の長さだけだった。


 どれだけ保護者ヅラしても、僕は親殺しの大罪人。どれだけ善を積もうとも、結局は地獄へと堕ちるのだろう。


 深い、深い闇の中へ。


 終わらない井戸の底へと。


 僕は満足していたようで、していなかったみたいだ。

 あーあ、やっぱりダメなんだと笑ってみせても、心の中では悔しくて泣いているのかもしれない。


 自分と向き合うべきだ、と人は言うだろう。でも、何度も自分と向き合ってきた僕は、これ以上どうすればいい?

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