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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
25/46

最終回 4

最終回は10回に分けて投稿します。

その後、特別編を投稿するのでお楽しみに!

 __________


 _____


 まさか晩ごはんにあんなに本格的な和食が出てくるとは思わなかった。

 黒池も手料理をすることはあれど、ハンバーグを捏ねるとかはしなかった。作らないときは隣の灰澤って人が持ってきてくれるし、栄養面では問題無かった。


 だがあれはすごいな。誰が作ったんだろうか。江戸時代を生きたオレでさえ感動したよ。


「お風呂もデカかったしなぁ」

「あれは露天風呂と言うんだ」

「うわっ!?!?」


 十五夜までとは言わないが、月の光が差す縁側を歩いていると、後ろから声がかけられた。け、気配なんて完全に感じられなかったぞ!?


「お、おじさん……。ビックリさせないでくれよ……」


 後ろに立っていたのはここのボス、川崎揚悟その人だった。


「すまないね。……露天風呂は江戸時代には無かったのか?」

「いや、あったのはあったけど、居たのが病院だったから外に出られないし、見れないようになってたんだ」

「病院か……」

「そう。『妖術系医療専門臨時出張所』って名前だったような……」

「『妖術系医療専門臨時出張所』……どこかで聞いたな」

「ほ、本当か!?」


 思わず詰め寄る。

 だって、だって……!そこは面狐の情報が唯一残っている場所で、それを知っている人はいないとまで思っていたから……!


「近い」

「ごっ、ごめん!でも、知りたくて……」

「確か資料庫にあったはずだ。一緒に見に行こうか」

「やったぁ!!!」


 これで……これで、面狐に少しは近づける!


「と、その前に」


 ひょい、と首根っこを掴まれて持ち上げられた。オレはネコ科じゃねぇ!


「なんだ!?」

「さっきの呼び出しの内容だ。こっちに来い」

「来いというか運ばれてるけどな……」

「はは、それもそうだな」


 こいつ……。年食ってるくせに力だけは強いな……。


「ここだ」


 連れてこられたのは別の和室。年代物のタンスがあって……って、オレは着せ替え人形かよ!?


「……?」

「着付けを学んでもらう」

「結構だ」

「嘘つけ。そんな着物の着方は間違っている」

「戦うにおいて、しょうがなしにやってるんだ」

「なら帯は?皇希くんの家にでも置いているのか?」

「いや……」


 目を逸らす。あれは……。


「魔界に置いてきた」

「……。ここにあるものを着ていきなさい」

「……わかった……」


 用意されたのは黒に金の刺繍が入った帯だ。高そう……。


「まずは脱いでくれ」

「……これ一枚なんだよ」

「わかった。後ろを向いているから、この肌着を着てくれ」


 ス、と渡されたのは肌着と言われる中の服。これも置いてきた。


「ん……」


 面狐の病院には今で言うレントゲンなどで使われた緩い服が置いてあった。それと同じということは、肌着を使って診察していたのか……。

 ……昔、怪我をするたびにそれを着せられて、機械こそは無かったが何かの魔法のようなものでチェックされた。

 なので、この服は慣れている。


「着たぞ」

「よし、次は襦袢(じゅはん)だ」

「襦袢?」

「そのグレーのやつのことだ」

「……着物って呼んでた」

「……。まぁいい。ここを持っていなさい」

「ここまではできるって」

「いいから」


 羽織って、前でクロスして、重なったところがズレないように押さえる。上の方に余裕をもたせ、細い紐で留めた。


「いつもの服よりちょっとだけ綺麗に見えるな!」

「いつものより一歩先を行くんだよ」


 川崎はさっきの黒い帯を手に取る。


「そのまま押さえていて」

「……」


 グルグルと体に巻きつけていく。

 しばらくして、足を動かす範囲も狭まっていることに気づいた。


「……これじゃあ動きにくいよ」

「走ることを前提としていないからな。少しの動きだけで、最大限の強さを発揮してこその和装だと思っている」

「少しの……?」

「リストと言ったか。お前の動きには無駄が多すぎる」

「わ、悪かったな……」


 確かにイリアを助けた時も、ゴーレムと戦った時も、リメルアからレインを遠ざけた時も。そして、赤のノートと戦った時も……。


 無駄な動きで無駄な傷を負うのは誰。


 イリアだ。ムジナだ。レインだ。黒池だ。


 ……オレが怪我をしたのは、一人の時だけ。


 幾度となく、何もしない方がいいのではと考えた。けど、止まることは許されなかった。


「……今一番皇希くんの側にいると聞いた。君にはもっと強くなってもらわないといけない。そうじゃないとキミに託せないからね」

「こっち来ればいいだろ?」

「それは少し難しい要望だね。……それが許される社会になればいいんだが……」


 呟いたあと、オレから離れた。


「完成。どうだい、これが着付けだ」

「おおお……!あは、面狐とおそろいだ!ありがとう!」


 嬉しくてつい腰をグリグリと動かしてしまう。


「今度から自分でできるように教えてやるからな」

「やったぁ!あ、上原に見せてきていいか?」

「いってらっしゃい」

「えへへー、喜ぶかなー!」

「ふふ……まったく。まるで祭り前の子供だな」


 オレは襖を開けてさっき歩いてきた廊下を早歩きで進む。走りにくいけどまぁいいか。

 途中、数人のスーツの男にぶつかりそうになったが、子供は元気だなと言われて見逃してもらった。子供じゃないんだが!御年700歳くらいなのだが!!


「上原ー!」


 スパーン!!と割り当てられた部屋の襖を開ける。

 浴衣姿の上原は相変わらずスマートフォンでゲームをしていた。


「な、何事?!」

「見て見て見て!」


 両手を広げてワサワサとしてみせた。


「ん?おおっ、着付けてもらったのか」

「ああ!最後にこうやって着たのは何年も前だったから……」


 人間界と魔界は100倍の時間差がある。

 本来オレは700歳と言いたいところだが、人間界と魔界を行き来しているのでちゃんとした年齢を知らない。だから一番わかりやすい人間界での年齢で数えている。それが700歳なのだ。


「ちゃんと礼は言ったか?」

「んん?何でやってもらったの知ってるんだ?」

「リストが風呂に入ってるときに川崎さんと話をしていてね。一目見たときから気になっていたそうだ」


 全然そうには見えなかったけど。


「ふぅん……。何してるんだ?」

「ゲームだよ。この時間はギルドバトルの時間なんだ」

「へぇ、いつもやってるやつとは違うんだ?」

「一緒だよ。でもこれはサブ垢かな」

「サブ……」


 たくさんの文章が並んでいる。並び方を見る限り、チャットをしているのだろう。


「誰と話してるんだ?」

「年下の子だよ。…………って、なんだい、その目は!」

「いや……」


『バフいっくよー!受け取って♡』


 とゲームから女の子の音声が流れる。スキンをカスタマイズしたのか、その女の子はセイレーンのような見た目だった。ゲームまでセイレーンに寄せるのか、こいつは。


「…………」

「こ、こういうゲームなの!もう……」


 ポコン!と音がしてチャットが更新される。


『今日、良いことが

 あったんだ』

 『へぇ、なになに?』

『ずっと会えなかった

 人に会えてね』

 『おっ、ついにか!

 ずっと言ってた

 もんね』

『うん。良いところを

 見せたいから、今日は

 絶対に勝とうね!』

 『もちろんだ、

 戦友(とも)よ!(スタンプ)』


 とんでもないスピードで返信していく上原を見て固まるオレ。パソコンだけではなく、こういう液晶をタップして打つのも早いんだな、こいつは。


「……見てく?」

「いや、いい。オレがいることで集中を切らして負けたら困るからな」

「そっか」


 オレは部屋を出る。

 ……しばらく縁側に座ってお月見でもしよっかな。団子無いけど。


「…………黒池、内緒にして来たけど怒ってないかなぁ」


 なんて、思いながら。

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