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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
21/46

タブー編 最終

奇士刑事最終回直前ということで、タブー編まで連続投稿させていただきます。




なお、イラストやオマケは省かせていただきます。

「そんな面白いことになってたんですかー!?」


 山野くんの大きな声が僕の鼓膜に突き刺さる。

 こうなれば、次に飛んでくる言葉は決まっている。


「なんでオレも呼んでくれなかったんですかぁー!」

「ゆ、揺さぶらないで〜!」

「ねぇ!?リストくん!そう思うでしょ?!」

「オレは別に……」

「ええー!?」


 今日は連休明けで、あの日から4日経った。

 当日、山野くんは別件で外に出ていた。なので冰李さんのキャラ崩壊も目にしていないのだ。

 メッセージで内容のやり取りもできたが、どうせなら普通に話したほうが楽だということで何も言わなかったのだ。まぁあの人体実験の内容を教えたくないという気持ちが強かったのだが。


「だって、攻防戦とかさるかに合戦みたいで面白いじゃないですか!一進一退の戦線!最高じゃないですか!」

「な、なんでそこまで……」

「だって、最近刺激が無いからです〜!!黒池先輩ばっかり、ズルいです!」


 あはは……と受け流していると、コンコンと推攻課の扉を叩く音がした。唯一手が空いていたエフィーさんが扉を開くと、そこには……。


「こんにちは、推攻課の皆さん」

「あっ!冰李さん!」

「えっ!?」


 驚いて冰李さんの方を見る山野くん。


「いつの間に下の名前で呼ぶほど仲良くなったんですか!?」

「私がここの入口で倒れた時に、黒池さんが看病してくださったあの時です」

「ええ!じゃああのまま押し切られて外に出なけりゃ、オレがそういう仲になってたってことですか?」


 なぜそうなる。

 というか、やっぱりみんなの前では『私』なんだ。


「ふふ、『竜太くん』って呼んでほしいですか?」


 ノリノリでイジワルな笑みを浮かべる冰李さん。そういえば忘れかけてたけど、この人……ドが付くほどのSだったんだっけ……。


「ひょえっ!?い、いいです!遠慮しときます!」

「そうですか……残念です」


 山野くんは僕に耳打ちした。


「あ、あの人……本当に飛向さんのお兄さんの方なんですか?お、弟の方だったり……」

「いえ、お兄さんの方ですよ。ね、エフィーさん」


 僕は空中で紅茶を飲んでいるエフィーさんを見る。よくこぼさないな……。


「そうね。ほら、左目の方が髪、黒いじゃない」


 ちなみに黒髪が右目の方は弟だ。反対になっている。


「それもそうなんですけどぉ……2人並ばれたらわかんないですって!」

「あはは……。ところで冰李さんは何のご用で?」

「今書類を提出してきたところなんですけど、これから一緒にお昼、どうですか?もう時間でしょう」

「良いですね!」

「せ、先輩……あの人本当に大丈夫なんですか……?頭打ったり……」

「頭は打ちましたけどね」

「そ、その節は誠に申し訳ありませんでした!!」


 もしかして……頭を打っておかしくなったから未来がまた変化して、マリフが冰李さんのことを知らなかったってことになったのでは……?


「いやぁ、変なことになっても、やっぱりキレッキレだねぇ」


 扉が開いてのんびりとした声が聞こえた。


「おはようございます、上原さん」


 冰李さんは部屋の中に入って挨拶をした。


「おはよう、飛向冰李くん」

「上原さんもお昼、いかがですか?」

「俺はいいや。みんなで楽しんでおいで」

「承知いたしました。……それって……」

「そろそろ調べておく必要があると思ってね」

「ですが、その勢力には推攻課だけでは……」

「そうだね、歯が立たないかもしれない」

「……その時にはお呼びください。元より、彼らはそういう相手でしょう」

「…………命の保証はできないよ」

「わかっています」

「先輩、冰李さん!何の話をしているのですか?」

「「うわっ!!」」


 僕が遅い2人にしびれを切らして上原先輩の部屋に顔を覗き込むと、2人はオーバーすぎるリアクションをとった。

 僕には内容は見えなかったが、何かのウインドウを最小化した。


「今日は山野くんが『連休でたくさん作ってきたんです!』って甘いものを持ってきたんですって!……あ、冰李さん、甘いものって……」


 この兄弟はバレンタインのチョコレートを貰っても食べないということで男の中で有名だ。だから……もしかすると……。でも山野くん、冰李さんがここに来るって知らなかったし……。


「いけますよ」

「いけるんですか!?」

「弟の前なので我慢してました。えへへ」


 困ったような笑みを浮かべる。


「お兄ちゃんも大変だね」

「ふふ、本当に……」

「そういえば弟くんは放っておいて大丈夫なのかい?」

「はい。以前から離れることもあったので、おそらくそのグループにいるかと」


 もしかするとその時にでも甘いものを食べていたのかもしれない。


「そっか。さ、行っておいでよ。もう少し調べものをしておくから」

「わかりました……。行きましょう、冰李さん!」

「はい!」


 __________


「……あんなに嬉しそうな飛向くん、初めて見たよ」

「友達が増えたってことで良いんじゃねぇの?」

「あぁ、リスト……。今はどっちだい?」

「分身」

「そうかい。じゃ、他のみんなは食堂に行ったことだし、情報の整理をすることにしようか」


 俺はマウスを動かし、さっき黒池ちゃんに見つかりそうになったウインドウを開く。


「キリルが言ってたやつだよな」

「そうだよ。……『川崎組』……。結果オーライだったのは良いことだが、俺は責任から逃れるためになんてことをしてしまったんだ……」

「お前のせいじゃない。奴らは魔界にまで押し入って、その根を広げている……。これは人間界と魔界における問題にもなってる。この前魔界に行ったときに聞いたんだが、レインも被害に遭ったらしい。クソッ、人間界なら傷害罪で現行犯逮捕してやったのに!」


 バン!とマウスやPCがある机を叩くリスト。そのせいで色んなものがガタガタと揺れた。


「レインくん……一番の友達と言っていた悪魔のことだね?」

「あぁ、そうだ」


 機嫌が悪いのか、低い声で答えた。


「でもキリルって人がいても捕まえられなかったんだろう?ならこっちに回ってくるのは無理もないよ」

「……あー、その時のは……スノーが……食ったって」

「…………は?」


 食った……?


「そ。厳密にはスノーに宿る呪いの生き物、通称『化け物さん』がな。レインの妹なんだが、大好きなお兄ちゃんを守るためだったんだろう。仕方ないさ」

「仕方ないじゃないよ!?証拠を消してどうするの!?てか『人を食べる化け物』なんて、聞いたことないよ……」

「大丈夫大丈夫!あれは味方だ。封印役がレインとサニーって理由もあるけどな。それに好物は魚だし」

「サニー?誰だい?」

「む……そうだったな……。いや、忘れてくれ」


 リストはマウスをぶん取り、勝手に操作する。江戸時代の人間がPCを使うのか……。


「ふんふん……。ほぼ情報が割れてるのに、なんで殴り込みに行かないんだ?」

「力と情報不足だからだよ。何か大きなことがないと、正式に殴り込みには行けないからね」

「ふぅん……。変なの」


 面白くなさそうな顔をするリスト。

 ……このまま拮抗し続けてくれればいいのだが……。


 疲れたので、椅子にもたれて天井を見る。


 どうにも、嫌な予感がするんだよな。

 もし、マリフの言うことが当たっていたとすれば……。いや、そんなことを考えるのはやめておこう。やめて……おこう。




 タブー編 END

 最終回につづく。

続きは今月(2022年9月末まで)中に投稿予定です。

次回も長いので数回に分けて投稿させていただきます。

最終回もよろしくお願いします。

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