タブー編 3
奇士刑事最終回直前ということで、タブー編まで連続投稿させていただきます。
なお、イラストやオマケは省かせていただきます。
「あっ、白神さん!」
「遅いですよ」
次にやってきたのはプロテイン男……ごほん、日高だ。彼のことは私も覚えている。いつも警察内の体力テストで常にトップにいるからな。当然その下は『タブー』か飛向兄弟なのだが。
……そう、私と戦闘になれば『タブー』に敵わないのである。
「それで……何の用ですか?オレだけではなく、影中まで呼び出すなんて……」
少し嫌そうな顔をした。『警察の太陽』だの何だの言われている彼の太陽が陰るのは、彼と仲が悪い影中の話が出てきたときのみである。
「影中がタブーと行動に出たことは耳に入っていますね?」
「あー……シルバースワンに行ったときですか。知ってますよ」
「なにかその時にタブーについての噂話とか聞きましたか?」
「噂話ですか!……あ、そういえば『シンガーソングライター』の『セイレーン』って人のライブに推攻課が映っていたと聞きましたが」
「セイレーン?」
聞いたことないな。まぁあまりテレビとか見ないからだが。仕事については嫌でもメールとかで回ってくるし、世俗的な情報は要らないと思っていた。こんなところで必要になってくるとは……。
「ネットで調べてみてください」
「わ、わかった。協力、感謝します」
「では、職務に戻らせていただきます!」
と太陽を取り戻した日高は元気に走り去っていく。建物内を走るのはどうかと思うが、情報提供の功績を考えて見逃すことにした。
スマートフォンを操作して、『セイレーン』という者を調べてみようではないか。
「……ん?」
タンタン。
「…………………………ん?」
おかしい。反応しない。電池切れか?いや、さっき時計を見たときはまだ半分以上あったはずだ。しかも私はちゃんと種類を切り替えたりしているので、バッテリーが死んだとかはないはずだ。………………なぜ?
「まぁいい。PCで調べよう」
私は自分の席に行き、PCを立ち上げる。インターネットに繋ぎ、『セイレーン』と打ち込む。すると水色の髪の少女の画像がたくさん出てきた。
「……『4年前から活動開始。代表曲『インターネットキャンプファイヤー』がヒットし、今をときめくアイドルへと成長している。』……ライブって言ってたけど、かなりあるわね……TV出演もかなりの量だし。ここからじゃ見つけられないわ……。……そうだ」
私は横川に押し付けられた?紙袋に目をやる。ここになら情報がありそうだ。
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「かーみーはーらー!!」
「ドフォ!?」
私は上原の横腹にタックルをかます。飛んだままスピードを落とすのを忘れていたので、かなりの力が横腹という限られた範囲に注がれた。
「あっごめん」
「速度を落としなさい!」
「はぁーい……。……って、そうじゃなくて!!」
「何かあったみたいだね?」
上原は零したコーヒーを拭く。少し疲弊した彼は元気がなさそうに私を見た。
「うん……。実は、私……機械に弱くて」
「………………ん?」
「操作はできるんだよ?でも、電波を妨害したりとか、検索結果の書き換えとかができなくて……それで……」
「いや、なんて?」
微妙な顔をする上原。
「だから、電波を妨害したり、検索結果の書き換えとかが……」
「待て待て待て待て!」
「何?」
「普通そこまでできないよ!?君はハッカーか何かかね?!」
まくし立てる上原。一体何が悪いのだろう?
「……?」
「あのねぇ、まず隠密をしてくれてるのは嬉しいんだけど、情報の書き換えまではしなくていいよ。見つかったら見つかったで、その時に対処すればいい。それに、情報の書き換えなんかしたら、いろいろなところに支障が出てしまって、大変なことになってしまうよ」
「……。……ただ邪魔するだけじゃ、ダメなのね」
たまにはまともなことを言う上原。これだから……。
「こういうのはね、情報を見つけたってところから情報を消していって、それを繰り返して追い込んでいくんだよ……ふふふふふ……」
……あー……なんでもないわ。とんだ陰キャだわ。
「そ、そう。でも、盲点だったわ……。まさかインターネットがあったなんて」
「ここはインターネットなんて使うような人は少ないからねぇ……。ほら、古い人が多いから」
「そんなこと言っていいの?」
「ははは!誰も聞いてないし、大丈夫大丈夫〜」
笑い飛ばしたあと、コップに残ったコーヒーを一気飲みして長机にドン!と置いた。
「…………でも、ここの情報を知られるとマズい。彼女に連絡を入れてくれないか?」
上原の目がスッと細くなる。
いつもはヘラヘラしてるのに、やるときはやる男なのだろう。背中に何か冷たいものを感じ、私は身震いした。
「……彼女って?」
「おや、魔界育ちの君ならわかっていたと思うのだが……。『マリフ・ハルビレン』のことだよ」
「え……ええっ!?あの変わり者のマリフ!?こっちにいるの!?」
変わり者のマリフとは、そのままの意味だ。魔界の人たちに全くと言っていいほどウケなかった『機械』を作り続け、突如ウケ始めたことにより、魔王や死神王などいろんなところから要注意人物とされていた悪魔だ。
人間たちが魔界に侵略のために乗り込んできて、魔界が戦場になったときに彼女の姿を見たという噂もあったが、それから見なくなっていたのだ。
……風の噂によると、その侵略してきた人たちの中にこの推攻課の『黒池皇希』という男もいたらしいんだけど、見たところ獰猛ではなさそうだから敵討ちをする気が起きない。
「ほう、マリフは有名なんだな」
「有名どころか、一部ではお尋ね者だったんだけど……」
「こっちでもお尋ね者で捕まっているんだ。捕まるなら人間界でも魔界でも関係ないだろう?」
「結果オーライって?」
「んー……話を聞くに、捕まえる理由が違っているみたいだけどね」
「そうなんだ……。で、なんでマリフなの?」
「そりゃもう、最終兵器だからだよ」
ニコッと笑った上原に、私はさっき感じた悪寒と同じものを感じた。
こいつは目的のためには悪魔も利用するのか……。
「……上原がそこまで言うなら。スマホ、貸して」
「持っていなかったっけ?」
「無いわ。情報なんて、風の噂が全て集めてくれるから」
「そっかぁ……悪魔って不思議だなぁ」
「妖精よ!よ、う、せ、い!!」
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「『海辺のゲリラライブ』……これね」
横川の資料を見ながら、ネットでセイレーンについて調べて数分後。タブーが関わっていたと思われるイベントを見つけることができた。
動画投稿サイトにあった映像を再生する。
海をバックにしたステージの巨大なスクリーンに映像が再生され始めた。まず出てきたのはセイレーン本人ではなく、白い服の人だった。マイクを持っているのでおそらくMCだろうか。
カメラがMCに向かって接近する。顔がハッキリ映ったところで、私は驚いた。
「ガッツリ映ってるじゃない……!」
あれは髪型こそは変わっているがどう見ても黒池皇希だ。どういう経緯でMCになったのかはわからないが、彼らのことだ、近くにいた方が護衛やら何やかんや有利になると思ったのだろう。
……あとはなぜか映像が途切れている。
ライブを撮影するなとか言われたのだろうか。
「でもこれじゃ『神秘』の証拠にはならないわ……」
せっかくの情報だが、『神秘』を証明するのは不可能だろう。これではただのライブ映像だからだ。
「となると……次はあの手かしら」
あの手とは、上原の元相棒だった『斎藤』についての資料だ。
彼は行方不明になった。上原はそれを語ろうとはしないし、上ももみ消すがごとく何も情報を開示していない。
どうして行方不明になったのか。それに『神秘』が関わっていたとすれば、『神秘』に触れた後行方不明、もしくは殺害されたという可能性が無くはないはずだ。これでより『神秘』の危険性が発覚、広まることだろう。
上原と仲が良いのは……そう、やっとこの場所を見つけた薄井だ。
「あぁ……やっと着いた……」
「遅いですよ、薄井玲二」
「ひっ!?フルネーム!?」
このビクビクと慌ただしい幸の薄そうな男は、ポケットにコンパスを引っ込めた。
彼はとんでもない方向音痴で、いつもスマートフォンの地図アプリとコンパスを持って移動しているという。
「ですが……ちょうどいいタイミングですね。本当はもっと前に来てたんじゃないですか?」
「いえ!今来ました!」
「そうですか。まぁあなたが時間通りに来るなんて滅多に無いそうですから今回は大目に見てあげましょう」
(あれ……おれって貶されてる?)
彼は上原のことを慕っている。上原は昔、まだ『タブー』が無かった頃には薄井の教育係もしていたそうだ。そんな彼なら、斎藤についても酒の席などで聞いている可能性がある。
「それで……何のご用でしょうか」
「上原について聞きたくてね」
「はい!…………どうしてです?」
勢いだけで生きているのがわかる動きだ。もしかして方向音痴なのはそこも原因なのではと思い始めた。
「はぁ……。今『特別能力推攻課』について調べていましてね。上原から『斎藤春也』について何か些細な事でもいい、聞いていませんか?」
「斎藤さんですか?…………うーん、話していいのかな……」
何か知っているらしい。これはかなりのチャンスだ。
「頼む」
「わかりました。おれが言ったってこと、内緒ですよ?」
「焦らさなくてもいいから……」
「いつも教育してくれていたとき、『斎藤とはここでこうしたら相手の考えていることを読み取って次に繋げられるように動いている』とか言っていました。お互いかなり仲が良く、優秀なバディなんだなといつも感心し、目指すようにしていました」
「私も彼らはとても優秀で、飛向たちよりも優れたコンビだと認識しています」
「ですが、ある時からめっきり話をしなくなって……。その時なんです。斎藤さんの姿も見えなくなったのは」
「その『ある時』って?」
ついに斎藤についての謎が解ける。なぜ彼が行方不明になったのか。なぜ上原は秘密を持ったのかが判明する──!
「……違法な麻薬を輸出していたグループを追いかけていたヤマです」
「それは……もしかして、あのコンテナがある船着き場のヤマのことですか?」
「そうです!上原さんは上層部とおれにだけ真相を話し、あとは闇に葬り去るつもりだったんです。……ですが、最近斎藤さんが船の爆発が原因で亡くなったって聞いて……」
「…………それは……つらいことを思い出させてしまいましたね」
斎藤が消えたのはかなり前だ。もう10年以上は前だろう。黒池も似たように長期で姿を消していたときはあったが、しっかりと戻ってきた。斎藤もしれっと戻ってくるかと思っていたが……。そうか……。亡くなってしまったのか……。
「いえ……。ですが、上原さんは斎藤さんのために公表しなかったんです」
「?」
「斎藤さんがいつか警察に戻ってくるはずだと信じていた上原さんは、麻薬グループから逃げるときに言われた『斎藤はもうこのグループの一員だ、戻っても逮捕されるだけだ』という言葉を信じず、口を閉ざしたままだったんです。だって、言ってしまったら『麻薬グループの一員』だってことを認めてしまうってことになるじゃないですか」
「……。話してくれてありがとう、薄井」
「いえ。これで斎藤さんも喜んでくれるはずです……」
薄井は悲しそうな顔をして去っていった。……来た方向とは逆に。




