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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
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タブー編 1

奇士刑事最終回直前ということで、タブー編まで連続投稿させていただきます。




なお、イラストやオマケは省かせていただきます。

『警視庁特別能力推攻課(すいこうか)』。通称『タブー』。


 それは、1人で機動部隊1つか2つ分と同じ力を持つと言われている、その名の通りタブー視されている人たちである。そのため警察官の中で話題に出すのもはばかられている。それに信じていない人もいるので、都市伝説……と言っても過言ではないだろう。


 彼らは普段、上から指示が出ない限りはその力を封じ、パトロールしていると聞く。そして大きなヤマの時、機動部隊では無理だろうと判断された時に出動要請が彼らに出るそうだ。


 そんな彼らが扱うのは『神秘』の力。

 政府が機密としていて、消そうとしている『神秘』。それに頼るなんて、まさに『毒を以て毒を制す』というのが正しい。


 なぜ警視庁だけではなく警察庁、さらには政府までもが『推攻課』を黙認し、野放しにしているのだろうか。


 私はそれを調べ、『タブー』を消すために動いている。そのためなら手段を選ばない。


 __________


「おはようございます、白神警視」

「おはようございます!」


 挨拶をしてきたのは白と黒の髪をした男性二人。今日私のもとに来るようにと連絡を入れたうちの二人だ。


「飛向兄弟ですね。おはようございます。あなたたちだけですか?」


 私がノートに出席を書き記しながら聞くと、左が黒の……おそらく兄であろう男が答えた。失礼だが、周りの皆が言う通り私もどっちがどっちかわかっていない。弟が兄の真似をするものだから、さらにわからないのだ。

 他の女子もバレンタインデーの時はチョコレートを必ずと言っていいほど彼ら両方に渡すのだが、果たして兄弟の見分けがついているのはあの中の何割なのだろうか。


「ええと、日高さんはプロテインが少なくなってきたので急いで買いに行っているそうです。影中さんは多分また他の人の髪を梳いているものかと。横川さんは先ほど見かけたのでもう少しで来るかと。薄井さんは……いつ着くかわかりませんね。富山(とみやま)さんは先ほどお手洗いの方に駆け込んでいました。それとー……」

「あぁ、もういい、十分にわかった」


 ノートを閉じて頭に当て、空いた右手でペンを持ちながら彼に手のひらを向ける。


 なんてフリーダムな人たちだ。人との約束を何だと思っている。あぁ、頭が痛い……。このあたりは再教育をしなくては。

 まず影中のはなんだ。他人の髪を梳いている時間があればこちらに来なさいよ。


「そうですか。それで、本日はどのようなご用件で?」

「情報収集を頼みたいの」

「情報収集ですか。お安い御用です。何の情報ですか?」


 さっきから返事している方がおそらく兄なのだろう。次に会うときまでには覚えておかなきゃ。


「…………」


 私は周りの人が誰も聞いていないことを確認し、飛向(兄)の耳に顔を近づけた。


「『特別能力推攻課』」

「!!」


 彼の顔がこわばる。当然だ。あそこの名前を出せば、誰だってこうなる。


「あなたたち、シルバースワンのときに推攻課と共に行動していたわよね?」

「はい」

「何かわかったこと、妙だと思ったことは無かった?」

「妙……ですか?」


 うーん、と腰に手を当て、余った右手は口元に持っていく。弟も兄の姿を見て真似しだした。


「思ったより普通でしたね」

「普通?」

「はい。話に聞いていたところ、もう『ザ・深淵』みたいなのを想像していたのですが……」

「いや、誰もそこまでは」


 兄はまるでミュージカルの出演者のように、拳を握って胸元に持ってきて話す。


「ですが、ごく普通の人間でした。ただ……」

「ただ?」

(霜慈は獅子ヶ鬼剣一……リストの魔法のことを知らない。外での騒動のとき、ずっと影中さんと話していたから……。推攻課を守るには、一番神秘に近い『黒池さん』のことから論点を逸らさないといけない。だから……すいません、上原さん……。)

「ただ、人間とは思えない情報戦があって、驚きましたね。もちろんシルバースワンの人もなかなかでしたが、どうしてあそこで無傷でいられたのか……」


 傷。傷といえばタブーの一人、黒池皇希がいつも病院送りになっている。

『神秘』を使うなら怪我などしないはずだ。だから、黒池()は『神秘』とはほど遠い人間……。だが、黒池皇希がタブーに入っている理由がただ単に「剣を持っているから」というだけなのだろうか?

 しかし……怪我をしていることは事実だ。彼以外も考えてみよう。


「それは誰だったのですか?」

「……上原さんです」

「あー……」


 私は頭を抱える。

 上原……。上原英次。彼はタブーを代表とする人物だ。その力は『人の心を読む』こと。もし私が彼に近づいたら一瞬で『タブー崩し』のことがバレるだろう。彼も彼で、その恐ろしくも強大な力を持っている以外はポンコツだ。何が何でも『タブー』を守りたがるだろう。


 だから私はずっと探している。『タブーを押さえつけることができる、大きな秘密』を。この警察という組織をひっくり返すことができるほどの秘密を。


 今はもう『神秘』に頼っている時代じゃない。ヒトの力だけで生きていかなければならない時が必ず来る。


 それに私は知りたいのだ。軍隊に入った私の弟が、なぜ死んだのか。理由も場所もいつ死んだのかさえ教えてくれなかった。それは政府にも教えられない秘密があったからだろう。


 私は、それを『神秘』が関わっているからだと踏んでいる。『神秘』を口にすることは、今この世界にとっての『タブー』なのだから。


「彼は白神さんもご存知の通り、事情聴取などで大いに活躍されている方です。場数もこなしているからこそ、情報戦でも能力を発揮したのでしょう」


 上原英次では、何か問題を起こすということはほぼ無いだろう。何か隠し事をするほどの問題を起こしそうな人は…………。


「わかりました。彼については私もよく知っています。他に報告することなどは?」

「ふむ……そうですね……。山野さんはどうでしょうか。彼、よくケーキを焼いて持ってきますよ」

「スイーツは私も黙認しています。本来であれば、バレンタインデーのチョコレートも規制したいところですが」

「あ、あはは……」


 毎年毎年、目の前の2人のロッカーから溢れ出すチョコレートのにおいは、男性陣から毎年のようにクレームが飛んでくる。当然チョコレートを貰えない男性の僻みなのだろうが、もう子供ではないのだ、やめてほしい。女性陣も女性陣だ。持ってくるなら帰りや飛向兄弟の家に直接届けてほしいものだ。


「……それで、山野竜太は何か問題などを起こしたということは聞いていますか?」

「彼は少し好戦的な性格と見た目に反して、勤勉なワンコ系でしたよ」

「わ、ワンコ系……」

「はい。様々な仕事を率先してやっており、『推攻課』の他のメンバーと話すときは本当に耳と尻尾が生えていそうな感じでした。そう、ブンブンと振っていそうな」


 本当にワンコ系ではないか。

 資料によると、能力は『定めた座標に爆発を起こす』というもの……らしい。範囲はそれほど広くなく、力を込めれば込めるほど爆発は強くなるが、疲れもひどくなるらしい。

 今までの報告書からすると、許可されたタイミングや戦闘のみで使われており、問題は無いようだ。


 惜しい。実に惜しい。


 許可されていないタイミングで爆発を起こしていれば、それを武器に上へと報告したものを……。


(……。どうやら本気で推攻課を壊そうとしているようですね。『彼女』に聞いたことは本当でした。……山野さんの気晴らしの爆発。あれは私が許可したものですから、問題無いはずです。だから報告書にも書きませんでした。推攻課の彼らが出した報告書も最終的には私がチェックと編集したもの……。シルバースワンとの戦いの記録は私がどうとでも言えるものの、他は…………。)

「はぁ…………。ありがとうございます。それで、弟さん。あなたは?一言も発していませんが」


 弟の飛向霜慈は兄の真似をしているだけ。もしかすると思いもよらない言葉が飛び出してくるかもしれない……。


「んー……。興味無いかな」

「「え゛!?」」


 思わず変な声が出た。というか兄も驚いている。


「シルバースワンの一階で剣道の戦いを見ていたんですけど、割と普通の剣道でしたよ。剣道についてはあまり詳しくないんですけど、よく聞く剣道してました」


 知ってるのか知らないのかどっちだよ。

 そんなツッコミを飲み込み、弟に礼を言った。


「わかりました。ありがとうございます。私はここで他の人たちを待っていますので、2人は元の仕事に戻って待機していてください。また何かわかれば教えてください」

「「わかりました」」


 そう言って兄は先に踵を返す。

 ……と、興味の無い弟は進む気配が無かった。


「どうしましたか?」

「……兄さん、最近山野さんと仲良くて。まだ言っていないこともあるかも」

「へぇ……。ありがとう。参考にします」


 弟は軽く会釈をし、兄のあとをついて行った。


 風はこちらに向いている!

 口元が少しほころび、後ろでくくっている髪を風が揺らした。

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