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奇士刑事  作者: グラニュー糖*
12/46

シルバースワン編 最終

奇士刑事最終回直前ということで、タブー編まで連続投稿させていただきます。


なお、イラストやオマケは省かせていただきます。

「お疲れ様です、上原さん、獅子ヶ鬼くん」


 ビルの外に出ると白黒兄弟の弟がスーツの女性の隣に立っていた。彼女は手錠をかけられている。その後ろでは影中くんが車のドアにもたれていた。


「お疲れ。彼女は?」

「……黒池の昔のライバルだってよ」


 隣でリストが不機嫌そうに呟いた。

 今、リストの魔法は使えない状態になっている。どういうことか、使用可能な魔力量を超えていたらしい。


「昔のライバル?」

「私のこと?……あの人とは同じ部活だったってことくらいは教えてあげる」

「……へー?『黒池を倒すためにシルバースワンに入ったんだけどね』……って?」

「なっ!?」


 顔……というか耳まで赤くなった。


「小崎。こいつの前で変なことは考えない方がいいぞ。こいつ、ヒトの心を読むからな。ったく、女の子の心を読むオッサンがいるかっての!」

「ああっ、痛い!痛いから蹴らないでっ」


 リストにゲシゲシと蹴られる。やめてやめて!下駄痛いからやめて!


「それで……後ろの人は?」


 弟が言うのは…………リストのムチでグルグル巻きにされた…………。


「…………」


 煤だらけのジークフリートだ。

 リストに転がされてきた。階段までは桜の魔法でなんとか浮かせられたが、途中で魔力が尽きて結局転がすことになった。階段が終わったところで良かった。


「あなたも負けたんだ」

「笑うな!くっそー、人間じゃないとか反則すぎるだろ……」

「運が悪かっただけだろ」

「悪すぎだ!」

「フ……元気そうじゃないか」

「なんだと!?」


 後ろから聞こえてきた声に全員が振り向く。そこには……。


「ロットバルト!オディール!」

「はあっ、はあっ……二人とも、速いっ」

「階段飛び降りてましたからね」


 紫のスーツの男はロットバルトと、黒のスーツの女の子はオディールと呼ばれていた。彼らはジークフリートとは違い……。


「はああああ!?なんで無傷なんだよ!?」


 無傷だった。


「それは……ぜぇ……はぁ……」

「代わりに私が説明しましょう」


 息切れの山野くんは説明ができなさそうなので、白黒兄弟の兄が前に出た。


「二人は降参しました」

「こ、降参んんん!?」

「そりゃあ今後のことも考えて、後遺症なんて背負っていたら後々困るだろう?」

「う、うぐぐぐ……!」


 ……いいや。本心ではないな。


「…………『娘のオディールに怪我をさせるわけにはいかないから穏便に済ませた』……って心の声が聞こえるんだけど?」

「なっ!?」

「良いお父さんだよね!」

「お、おいっ!訂正しろ!」

「え、え!?『本心だ』ってのも聞こえてるんだけど!?」

「あああ、もう!!」


 肩をガッシリと掴まれ、ガックガックと揺さぶられる。やめてやめて!脳がグチャグチャになるからやめて!


「こいつをどうしてくれようか………………ぶつぶつぶつぶつ」

「何かめっちゃ怖いこと言ってる!!待って待って待って待って!!目が怖い!怖いから!誰か止めて!む、娘さんっ!娘さん!!」

「…………パパってば、いつもこうだから諦めなさいよ」

「え゛ええええ!?」

「うるさい」


 周りには敵しかいないのかな!?


「ゴホン。とにかくみなさん車へ。ゾロゾロと出てきている部下たちはこのあと来る予定の応援に引き取ってもらいます。どう見ても幹部って感じの人たちは直接署まで。上原さん、いつもの情報の聞き出しは任せます」


 場を取り戻そうと影中くんが口を開く。あぁ、影中くんだけが味方だよぉ……!


「わかった。行こう、オ……」


 ドーン!!!


 大きな音がして、地面が揺れた。


「地震か!?」

「あ、見ろ!ビルにヒビが入ってるぞ!」


 リストが示す場所。確かにヒビが……大きなヒビが入っている!


「ヤバい!早くみんな乗り込め!逃げるぞ!」


 俺はグルグル巻きになったジークフリートを持ち上げた。


「ダメだ!まだ中に黒池がいる!」

「姫もだ!おい、下ろせ!」

「うわああっ、ジタバタするな!わかった、下ろすから!あとこれも解いてやるからジッとしてろ!」

「まだ中に何人もいるんじゃね?」

「配備された半分くらいしかいねーよな?」


 まだ中に何人も残されていると周りもざわついている。警察だから残された人は見過ごせないということもあるが、さすがに大人数では無理がある……。それに、影中くんだけを見張りに残してしまったら、逃げられるもしくは影中くんの命が危ない。


 どうすれば……どうすればいい?考えろ、上原!


「うわあっ!」


 バリーン!とガラスが割れ、地面に落ちてくる。ビルが崩れるのも時間の問題だ。


 こういうとき、斎藤なら……斎藤なら自分の命を顧みず、突っ込んでいくはずだ。まるで黒池ちゃんのように。


 ……あぁ、こんなときまでそんな考えが出るなんて、俺はなんて卑怯なんだ。ここにいない人間のことを考えて、妄想の範囲から抜け出せないのに。自分で動けないのに。


「……上原、魔力はまだいけるか?」

「は?何を言って……」


 リストが俺のパーカーの裾を引く。リストの目はビルの上の方を見ていた。


「いけるか?と聞いている」

「あ、ああ!まだ一発分くらいはな!でもあまり長くは持たないぞ」


 俺はパーカーのお腹のポケットに入っているマリフの道具を取り出して確認した。さすが悪魔の道具だ。よく落ちなかったな。


「十分だ。おい、ジークフリート。お前はどこまでその『姫』のことを想っている?」

「は?馬鹿なことを聞くんじゃねぇ。もちろん、世界の誰よりも愛しているぜ!!」

「最高だな!それとジークフリート。なんか勢いがすごいやつ持ってないか?」

「勢いが?すごいやつ?……それなら当然、コレだろ!」


 パンパカパーン!とBGMが付きそうなテンションで取り出したのは『ロケットランチャー』だった。


 どこに持っていたんだ!?全部回収したはずなのに!?


「いいね!お前なら考えが通じると思っていたぞ!上原、オレを持ち上げてくれ。とりあえず魔力を込めたこの紙飛行機を飛ばして、黒池に外の存在を気付かせるぞ」

「そ、それは!」


 リストが懐から取り出したのは、あの針のように痛い紙飛行機だ。この作戦を伝えたときに作っていた紙飛行機。まさかここで使うなんて!


「そんなもので気付くのか?」


 ロットバルトのツッコミは的を射ている。俺だって思ったことだからな。


「フン……。ちゃんと根拠があるんだよ。レインに聞いた話によると、魔力と魔力はお互い何らかの影響があるらしい。炎と水や氷、永遠と一瞬とかな。運がいいことに、黒池の剣は『魔を断つ』ことに長けている。そして、これは『魔』の真骨頂でもある『自然』そのものだ。これは少し劣った『幻』だが、自然をモチーフにしている。オーラはバリバリだ。だから気付く。黒池が気付かなくても、剣が気付くだろう。剣は黒池の命の次に大事なものだって言ってたからな」

「……なるほどな。お前もAliceみたいなことを言うものだな」

「Aliceがどんなものかは知らんが、オレの知識は魔界イチの魔法のプロフェッショナル直々のものだ。間違いはねぇ。……それで。上原じゃなくてロットバルト。お前にオレを持ち上げてほしい。お前の方が背が高いからな」


 俺の心は、少し、傷付いた!


 はいはい、どーせ猫背で身長縮みましたよっと……。


「フ……。お前みたいな面白いヤツに頼まれるなんて、そうそうあったものじゃないな。オデットさんを助けるためだ。手伝ってやるよ!ほら、来なさい」

「やったぁ!頼んだぜ!」


 時間は刻一刻と迫る。パラパラとコンクリートやガラスの破片が落ちる度、周りがどよめく。


 しゃがんだジークフリートはビルに当たらない方向にロケットランチャーを向け、その上からロットバルトに肩車をしてもらったリストが紙飛行機を構える。


 前代未聞の共同作業だ!!


「二人とも、わかってるよな?ロケットランチャーは勢いが強いからな、投げたらすぐに離れろよ」


 ジークフリートが前を向いたまま指示し……。


「ロットバルト、頼んだぞ。そのまま走れ」


 リストがロットバルトの頭をポンポンと叩く。


「はぁ、しょうがないね。下駄も脱いだし、裸足で地面を歩きたくないだろうし」


 ロットバルトは少しため息をつきながらリストの足を持つ手に力を込めた。


 リストの下駄と帽子とマントは、10メートルほど先にある車の前まで避難したオディールと俺、白黒兄弟、山野くんの隣に置いている。

 紙飛行機を飛ばしたらそこまで後退することになっている。


「……3、2、1…………いっけぇえええ!!!」


 少しだけだが魔力のブーストを得た紙飛行機が、今、空を飛ぶ!


 リストを肩車したままロットバルトが後ろに下がり、紙飛行機を狙ってロケットランチャーが火を吹く!


 なんということだ。

 魔法のせいなのかは不明だが、きっとそうだろう。ロケットランチャーを後ろに受けているのに、形を崩さずに紙飛行機がグングンと進んでいく!てっきりロケットランチャーの周りの風を受けて行くものだと思っていたのだが、違うようだ。


 違う……みたいだ。

 まぁちゃんと行ったことだし、大成功としておこう!


「…………あれは……!」


 砂埃であまり見えなかった最上階に、謎の光が見えた。


「黒池!!」


 チラ、と黒池ちゃんの顔が見えた。

 ちょ、待て。その格好……いやいや、まさか……まさか!?


「みなさん!ああ、やっぱり全員外にいらしたのですね!けほっ、けほっ……。ああ、どうしましょう……!マリフの『絶対防御機構』、飛び降りでも効きますかね!?説明書見ればよかった……!」

「ちょ、マジで飛び降りるつもりなのか、黒池ちゃん!?ぐぬぬ、でもそれ以外考えつかない!」

「落ち着け、上原。さっき言った通り、オレはその中に込められている魔力全てを使うぞ」


 ロットバルトの上に乗ったままリストが言った。マジでやるつもりなの?


「おい、黒池!今から『幻影桜花』を展開する!できるだけ真下に飛び降りてくれ!」


 リストはロットバルトに下ろしてもらいながら黒池ちゃんに向かって叫んだ。


「いやいやいや、失敗したらどうするつもりなんだい、リスト!?あれでも7階なんだぞ!?」

「……お前は黒池を信じないっていうのかよ?」

「黒池ちゃんにそんな危険なことはさせられないから言っているんだ!これは『特別能力推攻課』の部長としての発言だ!」

「……オレは元々『推攻課』の人間じゃないし、むしろ犯罪者に近い存在だ。だから推攻課の部長だろうが何だろうが、オレを縛ることはできん」


 リストは帽子、マント、下駄を身に着けていく。


「オレは黒池の師匠なんだ。師匠が弟子を守れなくてどうする」


 リストは……ビルの前まで歩いていった。

 彼の周りで風が巻き起こり、マントがバサバサと音を立てて翻る。その中に桜の花びらが発生し始めた。


 規模が大きい。


 そこを見るだけでわかった。


「お、おい!瓦礫が落ちてくるぞ!」


 部下の一人が叫ぶ。だがリストは一歩も動かない。


「リスト!……え?」


 風が、瓦礫を粉々の砂へと変貌させた。

 人はこれを、かまいたちと呼ぶ。


「黒池、あと『姫』への想いをこの桜にぶつけてくれ」

「それだけでいいのか?」

「力が弱くても、『想い』というこの世で一番の『神秘』が魔法を強くする。いいからつべこべ言わずに心の中で叫べ!祈れ!想え!誰でもいい、どんなものでもいい!歪んでても、真っ直ぐでも、何でもだ!死ぬ気でやれ!!」


 ザワザワと周りが相談したあと、互いの想いをぶつける。


 あぁ、たくさんの思いの丈が俺に流れてくる。


『姫』への想い、『娘』への想い、一番多いのは『家族』への想いか。


 一番少ないのは…………黒池ちゃんへの想い、か。読み取れる能力も……たまには心に来るものもあるんだよ。


「おい、白黒兄弟!テメェらもやれ!身内への想いが一番力になるんだよ!!」

「……わかりました」


 桜の数が増えていく。

 元の魔力量なら最初のパラパラくらいだったのだろうが、皆の協力でこんなに多くなった。すごいな、魔法って。


「面狐……見ててくれよな。殺すだけが、オレじゃないってことを!面狐が大事にしていた、『人を救うこと』!オレに力を貸してくれ、面狐!!!」


 本当に『何百年モノ』の想いがリストから読み取れた。頭が壊れそうなほどの情報量だ。その『面狐』とやらは、リストにとって本当に本当に大切な人なんだろう。


 いつしかビルの前を埋め尽くすほどの大量の桜の花びらが渦を巻いていた。圧巻だ。これ、全てがこの数十人の想いの塊なのだ。


「黒池!これなら行けるだろ!来い!」

「師匠……!ええい、やってやります!やってやりますとも!!!」


 ぴょーーーん!!


 ……と黒池ちゃんが窓から飛び降りる。それと同時に、一際大きな音を立てたビルは一気に倒壊した。

 倒壊直前に残りの部下たちがギリギリで出てきたので、倒壊時には黒池ちゃんと『姫』だけが残されているということになった。


「ひゃあああああ!!」


 なんともマヌケな声を出して桜に突っ込む黒池ちゃん。

 でも……ギリギリでよかった……!


「……っと……」


 ふわりと地に降り立つ黒池ちゃん。だが、リストは疲れてしまったのか後ろに倒れてしまった。帽子がクッションになり、頭への衝撃は軽減された。

 それと同時に桜もピンクの光を残して消え去る。


「し、師匠!師匠!!」

「すー……すー……」

「寝ているだけだよ、黒池ちゃん。今日はたくさん魔法を使ったんだから。寝かせてあげてね」

「わかりました……」

「おい、黒池とか言ったな!」

「あなたは……?」


 黒池ちゃんのところに走ってきたのは青いスーツのジークフリートだった。


「ジークフリートだ。『姫』はどこにいる?」

「……オデットさんのことですね。彼女は……この建物の自爆スイッチを押し、止める間もなくジェットパックで外からの死角から逃げました」

「…………………………は?」


 いや、こちらが「は?」である。


「あー……黒池ちゃん?もう一回言って?」

「ですから、この建物の自爆スイッチを押したあと、止める間もなくジェットパックで外からの死角から逃げたと言ったんです」

「「…………………………」」


 周囲がシーーーン……となる。


 そして。


「「えええええええええ!?!?!?」」


 当然のセリフが全員の口から飛び出した!


「ちょ、待って……ふふふ、ジェット……パック?なんで?くっ、ふふ……いや、おかしいでしょ?ふふ……」

「お、おかしくありません!!僕は事実だけを口にしています!」

「おい……ふざけるのも大概にしろよ……」


 凄みが増すジークフリートを押さえながら黒池ちゃんに事情を聞く。


 なるほど、『なぜみんな理解してくれないんだ』……ってか。これはマジで本当の話っぽいぞ……!?


「うう……僕、結構頑張ったのに……」

「……でも、確かにその人の言う通りかもしれないわね」

「オディール?」

「罠を作ってたとき……コンクリートからダイナマイトが出てきたのよ。あの時はビックリして慌てて隠したけど、あれは自爆用のダイナマイトだったのね」

「ほ、ほら!僕は嘘なんてついてません!」

「……オディールがそう言うなら……。とにかく、姫は生きているんだろ?」

「生きています。必ず、どこかで。飛び降りるとき、部屋には僕しかいなかったのですから」


 黒池ちゃんは崩れてしまったビルを見て呟く。その目は、どこまでも真っ直ぐで、感謝と決意に満ち溢れていた。


 __________


 _____


 数日後。

 僕たちはあの『シルバースワン』との戦いのあと、あったことを報告書にまとめて提出し、終わった人たちから話をしようと食堂に集まっていた。

 ちなみにただの居候の師匠の分は、上原先輩が受け持った。


「みんな、お疲れ様!」

「本当に疲れましたよ……。上原先輩、聞いてください!オデットさんとの戦いで無茶しすぎたのか剣がボロボロで……次戦ったら、折れるかもしれません」

「そんなに?!使い方荒すぎ」

「しょうがないじゃないですか!それほど強敵だったんですからね!」

「もご、もごご……」

「はい、緑茶」

「んぐぐ……ぷは。サンキューな、山野」

「リストくん、かなり頑張ってたんだから。ちゃんと見てたよ、かっこよかった!」

「へへ、照れるなぁ……」


 師匠は嬉しそうに笑った。


 元々師匠は人間のことが大嫌いだった。でも、僕との約束を守ってくれている。だから僕が師匠にしてやれることを探さないといけない。


 師匠の『焼死』のことについてはこっそりと上原先輩に渡した。これからは師匠のメンタルケアをしつつも、今まで通り接することを中心にしていくという。先輩もまさか師匠が一度死んでいただなんて思いもしなかったらしい。なぜなら、どこにも証拠がないから。別に炎がトラウマになっているというわけでもないし。普通にヘラと戦ってたし。だから、師匠には……今まで通りが一番だ。


「そういえば、よく分身だってわかったな」

「あぁ、オデットさんとの戦いのときに飛び込んできたものですよね。わかりましたよ。分かれるときに師匠、分身発動させてたじゃないですか」


 師匠の魔法は即効性のもの。なので発動前は見えないが、発動後に魔法の残滓が見えることがある。


「バレたか」

「……ってことはアレか?!黒池ちゃんを助けるために分身を用意したから魔力が足りなかったのか!?」

「そうだよ。崩れるなんて知ってたら一回耐えるくらいの魔力を送ってなかった」

「確かに血が出ていましたね。あれも幻なんでしょう?」

「そうだ。リアリティを追求したんだが……ダメだったか?」

「もう、一瞬本物かと思いましたからね!!」


 僕は昼食の唐揚げをパク、と食べる。もぐもぐと咀嚼しながらあの日のことを思い出していた。


『陰から』ということは僕の周辺でということだろう。いつどこで見られてるとか考えると怖いが、心強いのは心強い。


 自爆スイッチを押す前……窓の外を見ていたけど……。あれはもしかすると、他のメンバーが脱出したのかを確認したのかもしれない。一回目の爆発で最上階の扉は歪み、僕は脱出が不可能になった。部下の一人が逃げるときに閉めたからだ。でも師匠の魔力に僕の剣が反応し、断ち切ろうとした。窓を見たら……たくさんの人がいて……。


 本当に優しいリーダーだったんだ。


「上原先輩、聴取でもあまり良い情報は得られませんでしたね……」

「そうだね。みんな『姫』の行き先はわからないそうだ。いつ『シルバースワン』が復活するかわからない。だから今まで以上に警戒するように」

「わかりました」


 帰りの車の中でジークフリートにいかにオデットのことが大事かを聞かされていた。

 大事な人が行方不明になる痛み。それは僕も嫌というほど味わっている。だから静かに聞いていられた。ジークフリートのためにもオデットのことを早く見つけないと。


「みなさんお揃いで」

「飛向さん!弟は?」

「こんにちは、山野さん。弟は欠席です」

「山野くん、仲良くなったんだね」

「はい!これで少しは推攻課のイメージも上がれば……!」

「あああ、もぉ、健気な良い子だあ〜!!!」

「上原先輩!まだ筋肉痛治ってないんですからっ」


 目の前で上原先輩と山野くんが騒いでいる。やっぱりこうでなくっちゃ!


「あ、黒池ちゃんの唐揚げもーらいっ」

「いいですよ。上原先輩なんですから」

「おや、今日の黒池ちゃん、落ち着いてるね」

「そうですか?」

「そうですよ!黒池先輩、いつも怒ってるイメージなんですから!ね?リストくん!」


 その場の視線が師匠に注がれる。

 師匠はのんびりと温かい緑茶を飲み、僕を見た。


「………………」

「…………」


 唐揚げを飲み込む音だけがする。


「黒池はマヌケなだけだ。オレにマヌケと言われないようになるのがゴール、だな」

「な……な……!なんですか、それは〜!!!」

「いちいち大声で喚くからマヌケだって言われるんだよ!何事にも驚かず、平静を保たない限り、お前はマヌケだ!」

「うむむむ……反論ができない……」

「だからこれからも数をこなしていけ。山野!」

「ん?どうしたの、リストくん」


 上原先輩に逃げられ、椅子に座り直していた山野くんが反応する。


「お前は合格だ。黒池、山野くらい落ち着いたらどうだ?」

「うぅ……。わかりました。なるだけ頑張ります……」

「そういえば聴取はどんな感じだったんですか?今まで逃げられ続けていた『シルバースワン』の話はさぞかし面白いものだったのでしょう?」


 白黒兄弟の兄が先輩に話しかける。確かに気になる……!


「……いろいろAliceのことも聞き出せたよ。一番面白い話もね」

「面白い話、ですか?」

「オディールちゃんのお父さん、ロットバルト。彼が、Aliceの本拠地の場所を知っていた」

「「え……えええええ!?」」


 あれだけわからなかったAliceの場所を?!むしろあの人、どうやって調べたんだろう?


「明日からAlice周辺を調査する。それでロットバルトの情報が正確かを調べる。シルバースワンの人たちが話のわかる人たちで助かったよ」

「……オデットはAliceから逃げてきた人たちで形成されたのがシルバースワンだと言っていました。なのに知っていたのはロットバルトだけなのですか?」

「逃げるときは必死だったんだろう。それに、ロットバルトは『大切な娘を助けようとして、調べに調べて見つけ出した』と言っていた。だから覚えていたんだろうね。とりあえず今は身元の確認をする予定だ。それに、Aliceに狙われる可能性もあるから、ここで保護をすることにした。面会はちゃんと申請してからね」

「わかりました……」

「…………黒池ちゃん、シルバースワンの人たちに何か聞きたいことがあるみたいだね」

「へっ?」


 ……お見通しか……。


「ジークフリートは心労でいけない。オディールちゃんはロットバルトを介して許可を得てね。で、ロットバルト本人は普通に面会許可を得てほしい。小崎さんは……まぁ大丈夫だと思う。一番安定して話せるのはロットバルトだけだろうけど、話は聞き尽くしたからね……」

「ありがとうございます。片付けたら行ってきますね……」


 カラになったお皿とトレーを返却口に持っていく。僕の後ろ姿を見て残された人たちは口々に話し始めた。


「……黒池先輩、元気なさそうでしたね」

「リスト、言い過ぎかもよ?」

「……家に帰ったら肩でも揉んでやるか」

「上原さん。本当は知っているのではないですか?」

「……。飛向くんは本当に賢いね。こりゃあ隠し事はできないや」

「先輩、答えは何なのですか?」

「…………黒池ちゃん個人のことになるんだけどね。ロットバルトの娘に対する愛が、黒池ちゃんの悲しい思い出の傷口を開いちゃったのかもしれないね」

「……誰のところに行くと思う?」

「やはり話の流れ的にロットバルトの元でしょうか」


 ……遠くから話し声が聞こえる。

 違う。違うんだ。僕が行こうとしているのは………………。


 別れの真実を伝えるため。



__________


「…………。気づいているか、特別能力推攻課。君たちが、台風の目となりつつあることを」


 食堂の端の方。

 グレーのスーツの女性が推攻課の方を見ながら味噌汁を口にする。


 警視庁の上層部、白神悠子。


 彼女の呟きは誰にも届いていない。


「しかし、特別能力推攻課は潰さなければならない。なぜ誰もそんな話を出さないのか。もう少し調べる必要がある……」


 もう一度味噌汁を口にした。


「あづッ!!!」

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