仕掛けられていた罠
性病に罹患していたのはニーロの母親。そして、帝国でも貞淑と評判だった。
「いつ頃からかの」
「気が付いたらなっておりました。ただ、アベスカ男爵領から粗悪なものが流れているせいだと、医師に告げられまして」
「ふむ。医師は現在王室お抱えの侍医か」
「はい。毎回毒見をして持ってきてくださる、いい方で」
「その時点で疑うべきであったの。アベスカ男爵領の薬、これはヒーリングポーションにも言えることだが、その場で開封したもの以外は信用してはならんのだよ」
「え?」
ニーロの母親が硬直していた。
マイヤは出荷前のマナポーションをニーロたちの前に差し出した。
これはこの集落でも同じことをしているのだが、開封してしまえばどんなに蓋をしようとも、以前のようにはならない。それが自衛策の一つだ。
そして、そのマナポーションはそのままヴァルッテリに手渡した。勿論、移転術に魔力を使ったヴァルッテリへのご褒美でもある。
「この蓋がされたものだけが、アベスカ領の印を押されます。それ以外は通常出回っているポーションや薬と同じ瓶に入れております。そして、これにいれられたヒーリングポーション、マナポーションはまずもって領外へ出ません。他の薬のみが領外へ出ますが、そちらは患者以外が飲めば副作用を伴うものもございます」
「何でそんなに恐ろしいのさ」
ニーロの疑問はもっともだが、作っている薬が薬だ。
「だって、この瓶に入って売られるのはほとんどが性病関連ですわよ。しかもしっかりと診断された上で、その病気にあった薬を出すことを義務付けしておりますもの」
「……じゃあ、風邪薬で」
「当領では作っておりませんわね。風邪薬というよりも免疫力を高める薬を作っておりますが」
「ふむ。奥方は侍医に風邪薬と称されて飲んだ薬があった。それに病原菌が入っておったのだろうな」
「それしか考えられませんわね」
「となると、考えられる病気は二つほどに絞られる。二つは併発する恐れもある故、この薬がよいかもしれぬな」
問診だけで、あっさりと病状を見抜いていく。それだけでは心許ないと、ヘイノは検査もしていく。
「まったく、医師の風上にも置けぬ」
患者を病気に感染させる、それに怒りを覚えるヘイノだった。
「治療費は要らぬ」
「え?」
ヘイノの言葉に、全員が驚いた。
「ご子息にはこちらで頼んだことをしてもらえれば、それでよい。あとはゆっくりとなさること」
薬を飲んだ奥方は、少しずつ快方へと向かっていった。
快方と共に、集落に馴染むなど誰一人考えていなかったが。




