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のん気な男爵令嬢  作者: 神無 乃愛
婚約者とマイヤ

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オヤヤルヴィ公爵到着

 マイヤ達と合流した面子の中で、唯一疲れ切っていたのはアハトだった。

「いい加減にしろぉぉっ! あれほど! 魔力の使い方には注意しろと!」

 次期公爵様の側近とは思えないほどの口の悪さだ。しかも主に対してここまでとは。

「仕方がないだろう。俺だって久方ぶりに腕輪なしでの術式発動なんだから」

「それを言い訳にするな! 何のため冒険者になるのを公爵様が黙認したと思ってるんだぁぁ!!」

 反省の顔色もないヴァルッテリに、アハトがブチ切れた。

「授業だけでは魔力の使い方が把握できないだろうということで! 腕輪外してまで! 学院に働きかけて、冒険者やらせたのにっ!!」

 永遠に続くかもしれないアハトの説教は、ウルヤナとベレッカの「荒野直しが最優先」という一言で、あっさりと終了した。


 ヴァルッテリとアハトで、荒野をあっという間に直していく。直すというよりも「元に戻す」ための術式だと、マイヤは説明を受けた。

「この状態のヴァルでやると森が生まれる前まで戻る可能性もあるから、俺が手助けに入るの」

 げっそりとした顔でアハトが説明する。

「一応、機密事項だけど、俺はヴァルの魔力をある一定の距離まで追いかけらる。それにもかなりの魔力使って、次はヴァルの魔力調整に使って。……もう、すっからかんと言いたいところだけど、男爵領の領都に戻るのにもう一回使わないといかんのよ」

 そう愚痴るアハトに、ガイアがマナポーションを渡した。

「どうして、こんな高価なもの持っているか、聞いていい?」

「アベスカ男爵領の特産ですので。中級品ですが」

「王国から一部質のいい薬関係が入るって聞いてたけど、アベスカ男爵領か。……公爵様、絶対これ知ってたな」

 薬は有名なので、大陸各地から買い付けに来る。アベスカ男爵領の印があるものだけが、取引される唯一の場所だからだ。


 飲んだからといって、全快するわけではない。ないよりましといったところだ。

「帝国産よりもずっといいな。しかも味も悪くない」

 アハトの感想は上々だった。だが、要改良とされるマナポーションだと知ったら、どんな顔をするのだろうか。マイヤは少しばかり楽しくなった。


 戻るなり、無事を喜び煩いダニエルを宥めつつ、帝国側からの到着を待つことにした。


 来たのはヴァルッテリの父親である、オヤヤルヴィ公爵だった。

「まったく。腕輪をなくすだなんてどういう戦い方を?」

「戦うというより、術式の中に閉じ込められた」

 そう言ってヴァルッテリはウルヤナの方へ視線を移した。

「妙樹の傍にポイズンウルフが来ました」

 一つ頷き、ありのままを伝えるウルヤナに、公爵は難しい顔をした。

「それはお前の腕輪から届いた記録に載っていた。問題は、この領地にしかない『マタタビ草』だ。それがある地域にあえて誘導したのではないか、と帝国で議論されている」

 難しい顔をして言う公爵に、マイヤは笑いそうになった。

「わたくし共が勝手に『マタタビ草』と呼んでいるだけで、公爵もご存じの薬草ですわ」

 そう、何を隠そう「マタタビ草」の傍によって来るのは「タイガーキャット」や「ティガーサーベル」といった大型の魔獣だ。間違ってもポイズンウルフは呼ばない。

「わたくし共はこれを酒に漬けておきますの。群生地ではタイガーキャットたちが、牙を抜かれたようにしている上に大人しくて可愛いんですのよ。それに、妙樹の傍には、ポイズンウルフを呼ぶような草は一切生えないはずですわ」

 薬草を知る者たちには常識であっても、他では常識になっていないらしい。

「それは知らなかった。薬は奥深いな」

 楽しそうに笑う公爵の顔と、悪びれないヴァルッテリの顔は、髪の毛の色と年齢差以外は似すぎていた。


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