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「……ええっと、お父様」

「なんだい、マイヤ」

「わたくしってそんなに王都で有名ですの?」

「いや、まったく。一応は私の裁量で領地を運営していることになっているし」

 転移術を使えばいつでも行き来できる。だからこそあえて、ダニエルは仕事中に転移術を頻繁に使う。

「わたくし一人娘ですわよね」

「そうだね」

「跡取りはどうなさるおつもりで?」

 再婚をにおわせてマイヤが口を開けば、ダニエルは嫌そうな顔をした。

「マイヤ以外考えていない」

「無理ですわよ」

「無理だね」

「国王の妹君だってお年頃の方がいらっしゃいますし、国王にも年頃の王女がいらっしゃるでしょう」

「うん。私もそれを言ったよ」

 言ったんだ、とマイヤは呟いた。何せ、現国王にも、今は亡き先代国王にも正妃のほか、側室やら愛妾やらが両手で足りないほどにいるのだ。つまりは王子も王女も大量にいるわけで。

「ひょっとして、男爵家と釣り合いの取れる家柄ということかしら?」

 無駄に高いプライドだ。「低位貴族に王家の人間を嫁がせられるか!」くらい言いそうである。

「それもあり得るかな。何せ『すでに決定事項』って言われたし」

 ただ、どんなに脅しても「誰」というのは言わなかったらしい。

「明日王都に到着予定だそうだから、半月後にはここに来るはずだ」

 移転術が使えなければ。それをにおわせて、ダニエルはあっという間に王都へ帰った。

「……予定を繰り上げましょう」

「かしこまりました」

 いつでも客人を迎えられるように、使用人に指示するためにゾルターンが退出していく。

「冗談じゃないわ」

 マイヤはぼそりと呟いた。



 翌日。ダニエルとともにローゼンダール帝国の使者が、転移術を使ってアベスカ男爵領へとやってきた。

 やはり、前もって準備をしていて正解のようである。

「マイヤは?」

「お嬢様は視察へ出かけております」

 そう答えたのは侍女長だ。公的な視察のため、執事であるゾルターンも一緒に出掛けていると。

「夕刻には戻られると伺っております」

「そうか。仕方ない。使者殿、私も執務がありますのでしばらくごゆるりと」

 それだけ言って、ダニエルはさっさと執務室へ向かった。


「人をおちょくっているのか?」

 客室に通され、誰もいなくなった部屋で使者こと、ウルヤナは毒ついた。敬愛すべき主のために、先だって来たはずだ。歓迎すらされていないということに腹が立った。

 ただでさえ、ウルヤナの主はここの娘が白亜色の髪をしているという理由で、王女との婚約が破談になった。どうして、あれほど完全無欠に近い主がこんな片田舎の小娘を貰わなくてはならないなんて……と、毒つく言葉はいくらでも出てくる。

 安全を確かめるためにも、ウルヤナかもう一人の従者がまず現地に行く。今回はウルヤナが担当だった。だから、己の役割を果たすためにと動く。


 アベスカ男爵領の実情を調べるため、ウルヤナは屋根裏へと向かった。



 ダニエルは執務室で仕事をしていた。まとめられた羊皮紙に目を通し、それにサインをしていく。代官がよほどしっかりしているのだろう。上手く纏められているとウルヤナは見た。

「お父様、ただいま戻りました。お父様も連日お疲れさまですわ」

 入ってきた少女の髪色は白亜色。つまり、この少女がマイヤだ。

「おかえり、マイヤ。これが終わったら使者殿とお会いするよう、手はずを整えるよ。で、視察の結果は?」

「相変わらずですわね。領境では領民よりも難民が多いそうですわ」

「さすがに行けなかったか」

「ゾルターンに行ってもらいました」

「そのあたりはゾルターンにあとで聞こう」

 そのゾルターンとやらが、執事で代官も兼任しているのだろう。そうウルヤナはあたりをつけた。

「使者の方も移転術が使えるのですね」

「そのようだね。数人なら問題ないそうだ」

「あら、それは羨ましい」

「あとは、どこへ行ったのかな?」

「セヴァトのところですわ。さすがに#色々__、、__#報告したいことがありましたもの」

「そうか、そうか。あとでゆっくりと聞こうか」

 席を立ったダニエルを見て、ウルヤナは慌てて屋根裏から戻ることにした。



「……お父様、いつ()を連れて来たんですの?」

「仕方ないだろう。とりあえずは使者殿なんだからさ」

 そんな会話を二人がしていると露知らずに。


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