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 アベスカ男爵領にある領館。そこの執務室で書類とにらめっこをしているのは、白亜色の髪と黒色の瞳を持つ美少女、マイヤである。社交界にはほとんど出ていないものの、れっきとしたアベスカ男爵の一人娘だ。

「……んん~~。難民の数が多すぎるっ!」

「お嬢様仕方ないですよ。ここいらで唯一豊かなんですから」

「分かってるわよ! 他も自助努力しなさいって言いたくなるわ。アベスカ男爵領(うち)をうらやむ前に社交をすこし減らせばいいのよ」

「……お嬢様」

 十年前に執事に就任したゾルターンが、マイヤの言い分にため息をついた。本来ならば、貴族の社交というものは、減らすのが大変なのである。

 それを断行し続けたアベスカ男爵家が向かうのは、国王主催の夜会に一度、とある公爵家の夜会に一度、あと二回ほど出席すれば「社交をかなりしたほう」になる。行くのはアベスカ男爵一人だから、推して知るべしというやつだ。

ちなみに、アベスカ男爵であるダニエルに、現在配偶者はいない。マイヤが幼いころに離縁し、その後は独身を貫いている。それゆえ、お茶会に招待されることもなく過ごしてきた。



 アベスカ男爵領も、昔はかなり貧しかった。それを国で五指を争う豊かな領地にしたのは、マイヤの祖父にあたる先代男爵だ。その手腕を買われて、財務大臣の補佐官にまで上り詰めた人物である。そんな先代の残した名言「金がないなら頭と体を使えばいい。悩むのはそれから」をマイヤはモットーにしている。ダニエルに聞く、先代の話が大好きで、「先代以上にこの領地を豊かにする」というのが目標でもある。


 だからこそ、現在問題としてよく挙がる「難民」に頭を抱えているのだ。

「ここに予算をつぎ込みすぎると、税を納めている領民が割を食うわよね」

 アベスカ男爵領では、難民相手に炊き出しを行わない。仕事を斡旋するのである。最近では斡旋する仕事すらなくなり、どうしようかと頭を抱え始めた。

「開拓するにも土地は限られているし、どうしたものかしら」

「一番は出身領地に戻ってもらうことですが」

「出来たら苦労しないでしょう。特にお隣の伯爵様と子爵様は社交と収賄に力を注いでいるんですもの」

 それなのに、身分を笠に着てアベスカ男爵家に圧力をかける。「難民を手厚く保護したうえで返せ」と。

 もっとも、難民生活を送る彼らが「難民のままでいいです。帰りたくない」と懇願してきたときは、さすがのマイヤも頭を抱えた。既に悟りきったが。

「お嬢様、嬉しい話もあります。先代の頃から力を注いで開発してきた『コメ』なる穀物が豊作の見通しだそうです」

 季節は秋。間もなく収穫を迎える。

「本当!? セヴァトも喜ぶわ!!」

「はい。それから探し求めていた『ジャガイモ』と『サツマイモ』それから『テンサイ』なる作物も発見したそうです」

 ゾルターンからの報告に顔を綻ばせれば、十八には見えないほど幼くなる。領館内皆が思っていることだが、敢えて口には出さない。マイヤの機嫌が急降下するからだ。

「早速セヴァトの手記を確認しないと! これからが大変よ、ゾルターン」

「御意に」

 これでアベスカ男爵領の食糧事情がなおさら向上する。ここ数年、国から納めるよう言われている税が高くなりすぎていたのだ。

「テンサイはともかく、二つは領内どこでも収穫できるよう頑張りましょう!」


 そんな話をしていた時だった。

「マイヤ、大変だ!!」

 いつもは王都にいるダニエルが、普段は使わない転移術で執務室に来た。

「お父様、お帰りなさいませ」

「ただいま。のんびりしている場合じゃない。マイヤに王命が下ったよ!」

「……はい?」

 思わずゾルターンと二人顔を見合わせて首を傾げた。王命が下るはずがないのである。

「ローゼンダール帝国の貴族に嫁ぐよう、王命が下った!」

「はぃぃぃ!?」


 その声は館中に響き渡った。


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