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パトリシア・ロイン、或いは主人公

パトリシア視点の話です。

私はパトリシア・ロイン。

つい最近までは普通の町娘だったんだけど、ロイン男爵の血を引いてることが分かって、男爵令嬢になったの。

でもね、それは必然の成り行き。

だって、ここは乙女ゲーム『恋園学園こいぞのがくえん』、通称『恋園こいえん』の世界なんだもの!


私には、前世の記憶がある。前世で私が大好きだったのが、『恋園』だった。魅力的なキャラクターに美麗なスチル、思わず悶絶しちゃうような台詞に私はもう夢中だった。全ルートクリアして、難しいって言われてた逆ハールート、さらに難しい真・逆ハールートも何とかクリアしたわ。

その『恋園』の主人公こそ、私パトリシア・ロイン。

ロイン男爵に引き取られ、慣れない貴族令嬢としての生活に戸惑いつつも、学園で攻略対象たちと出会って、恋をしていくの。


攻略対象は、隠しキャラも含めて全部で6人。俺様な第二王子エディ・ウィル・エーテル。

クールなロレンス・カーター。

真面目でわんこ系のアシル・トレヴィス。

女好きでチャラいヘンリー・モーゼス。

ツンデレなダニエル・テール。

隠しキャラの色気が凄いアーノルド・ウィル・エーテル。


エディの強引さもいいし、ロレンスの赤面も見逃せない! アシルとの朝の鍛錬イベントも見なきゃだし、ヘンリーの意外と一途なところとか、ダニエルのツンデレも必見よね! アーノルドは攻略が大変だけど、あの色気たっぷりの声を聞きたい!


もう、誰かを選ぶなんて絶対無理!

ゲームだったらデータを何個か作るけど、現実では無理だし……。

よし、それなら隠しキャラ含めて全員と恋をする真・逆ハーエンドを目指すわよ!




ーーーと、思っていたんだけど。


「どうしてグロリオサが私を虐めないの!?」


寮の自室で私はクッションに不満をぶつけていた。


真・逆ハーエンドに不可欠な悪役令嬢から虐められるイベント。

『恋園』では、主人公の前に侯爵令嬢グロリオサ・テールが立ちはだかる。グロリオサはエディの婚約者で、侯爵家の権力を嵩にきてわがままを言う横暴女。エディもそんなグロリオサのことを苦手に思っていて、パトリシアはそんなエディを癒していく。それを良く思わないグロリオサは、パトリシアを虐めるの。

でも、パトリシアはそれにめげることなく、攻略対象たちとグロリオサの悪事を暴いて、グロリオサは侯爵家と縁を切られ、国外追放になる。

そのイベントの途中で、アーノルドが出てくるの。アーノルドはパトリシアに前々から興味を持っていて、グロリオサにも毅然と立ち向かうパトリシアに恋をする。それが真・逆ハーエンドの道。


「虐めるどころかむしろ私を避けてるし……。

エディたちは攻略できそうだけど、このままじゃ【階段から落とされる】っていう真・逆ハーエンドへの必須イベントが起こらないじゃない!」


攻略対象全員の好感度が卒業前までにマックスになれば、【階段から落とされる】というイベントが起こる。今の時点で好感度は結構あるから、卒業前までにマックスにできそうだけど……。


「私を引き立てるためにいるのに使えないわね!」


ふかふかのクッションに八つ当たりをしていると、ふと名案が浮かぶ。

そうだわ。

グロリオサがシナリオ通りに動かないなら、シナリオを知ってる私がシナリオ通りに動かせば良いのよ。


この世界は私の為にある世界。

私は主人公なの。他の奴らは私の為に動くべきなのよ。


「そうと決まれば、早速準備しなきゃ。

確かイベントは【悪口を言われる】、【私物を壊される】、【階段から落とされる】だったわよね」


どうしてこんな簡単な事分からなかったのかしら?

ふふふ、これで真・逆ハーエンドへ一直線よ!








◆◇◆◇◆



待ちに待った卒業の日。

攻略対象たちの好感度はマックスで、グロリオサからの虐めーー私の自作自演だけどーーもバッチリ。

後はグロリオサを断罪するだけ。



エディの婚約破棄宣言から始まった断罪は、途中まではシナリオ通りに進んだ。

そう、途中までは。


グロリオサは私を虐めていたことを否定ーー実際やってないからその通りなんだけどーーし、エディたちを論破していった。

ゲームでは断罪の場でパトリシアを罵ったりして醜態を晒すのに、グロリオサは冷静なままだ。エディのことが好きだったはずなのに、まるで眼中にないという態度を取っている。


可笑しい。


そこでようやく、私は気づいた。

グロリオサが今まで見事にピンポイントで私を避けていたことに。

エディに関するイベントのいくつかには、必ずグロリオサが絡んでくる。それなのに、私はイベント中に一度もグロリオサに出会っていない。グロリオサがいなくてもイベント進んだから気にもしてなかったけど、これって可笑しくない?

それだけじゃない。

学園内で私とグロリオサは顔を合わせることすら稀だった。会ったとしてもせいぜい集会の時くらいだ。

普通、廊下ですれ違うくらいはあるんじゃないだろうか?


一度気づくと、次々と可笑しなところが見えてきた。

妙に私の行動を把握しているグロリオサ。

もしかして、グロリオサはーーーー。


私の思考を断ち切るように広間に声が響く。


アーノルド・ウィル・エーテル。

隠しキャラ。

最後の攻略対象。


でも、セリフが違う。

喚くグロリオサに対して浴びせられるはずの言葉が、私たちに浴びせられた。

私に見向きもしなかった。


グロリオサに歩み寄ったアーノルドは、甘い笑顔でグロリオサを見つめている。本来なら、私に向けられるはずの笑顔なのに。

そうして告げられるのは、グロリオサの無実と私の嘘。


そんな。

嘘よ。

どうして。


叫ぶ私のことなど気にするそぶりも見せず、アーノルドはグロリオサに告げる。

私が言われるはずだった言葉を。

グロリオサはアーノルドに告げる。

私が言うはずだった言葉を。




その時、声が聞こえた。

知らない女の声。


次話は明日午後8時に投稿します。

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