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異天つ空から  作者: Yatusaka
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 今頃日は顔を露わにして、もはや空は青くなった。辺りには冷めた鼻通りの良い空気が漂い、あの夢とは違った純白の雲が天に散在している。トバルは三人の友を背後に連れて、先んじて図書館に入った。次に褐色の髪を後ろに流した背丈の高いデオ、襟飾りを垂れて黒いケープを脇に抱えたアパテム、色黒く、短髪の逞しい体つきであるロフと続いて薄暗い中へと踏み込んだ。

 男四人そもそも此処に集える由は、アパテムがそれぞれの宿へ赴き話があるとのみ伝えて、朝日の見えぬ早朝にかかわらず叩き起こしたためである。

さて、四人は城壁が如き棚の間を行き進んで長い古木の長卓子と椅子が幾つも据えられた広いところへ出た。彼等は最奥の卓子を選び、そこへ寄る途中でアパテムが逸れて棚の陰に消えた。三人は、壁側の方にトバルとデオ、通路側がロフという形で腰を下ろした。ロフの片側の椅子は勿論アパテムの座るところである。程なくして彼は本を片手に出でてきて、ロフの隣へと座りして「さて」と言うとその暗い緑色の本を開き、その部分を彼の聡明な顔が予て思わせる怜悧な声で読み上げる。


 此地はかつて国は無くて原野なり。大なる恐ろしき獣が此地を治むる故に、人これを恐れ往来まことに少なし為なり。獣、名をハウグルと云いその名後に建てる国の名とならむ。或日南方より兵隊数多来りて、獣らと五日にわたり争えり。二日のうちに眷属どもは打ち滅ぼせしが、残る三日の間はかのハウグルと戦う。火矢毒矢大砲を悉く撃ち放てど地に臥ること一度もなく、人ら討つことを諦め、五日の晩、早馬を用いてナダスより取り寄せし八種の宝具の一つたる宝玉へ獣を封ず。その頃獣いたく傷つき衰弱せしが、術師三百余も居て漸く成せり。


 言い終えると、「とあるんだ。ちょっと読めよ」とその本を三人に見えるように置いた。ロフが先んじて曰く「分かんね」と。すると、デオが「は?」と言い、「これだから喧嘩能は」との悪態にロフが「あ?」と返した。トバルはこれが集まれば常の事であるのを知る故、これに構わず話を始めた。

「んで? それが何なんだ」とアルパラに問う。彼答うに、

「昔、ここはハウグルという獣のナワバリだった。それで──間を省くけど、まあハウグルをある宝玉に閉じ込めたのさ。それでその宝玉が今はこの街のどこかにあるんだ」と。

 トバルが声をあげた。

「じゃあそれを俺らで取ろうってか」

 アルパラは「そうそう」と頷いた。すると「いいじゃん、楽しそうだ」と言うのはデオだった。次いでロフが「でも宝玉って言うし、その大層な獣を捕まえたものだってんなら国が隠してんじゃね」と言う。

 過去を思い出しながらトバルが零した。

「どうせまた計画だけしてなんもしないで終わるんだ」

 これを聞き取ったアパテムは「今度こそやる」と答えた。

 トバルの思い出される過去とは、近くて四か月前の事である。ハウグル南東の外れに建つ教会の隣に巍巍としてそびえる塔への侵入である。発案者は復アルパラであった。なんでも、夜な夜なその塔へと何かが担ぎ込まれる、それは人だとか、兵器であると彼は言った。だが運搬物とは人云々というのは彼の推測で、さらには何が運び込まれるとは聞き及んだ事だと言うから、その時は易々と信ずるのは好しと思わず、返事を曖昧にしていたが、その内にこの四人がこの図書館に集められて彼の練った策を披露されたが、みな曖昧な返事にてついには計画は決行されず、彼を不機嫌にさせたという顛末の話である。またこのような似通った想い出は数多あり、勿論為された計画もある。

 もともと彼等四人は古くからの知り合いにて、幾度と話を断りまたは有や無しやとしても嫌わないのは絆に因るものであった。

 「よし、じゃあ続きは夜か明日にしてくれ」とトバルは立ち上がって言った。「今日は仕事があるんで」

 彼は傭兵であった。雇われるのは今回が初ではない。

 アパテムはこの申し出を良しとして、承諾を得たトバルは出口の方へ進むが、また三人に向き直って、「夜に集まれたら黄昏亭でな」と残して去っていった。すると、皆は頷いてからそれぞれ立ち上がって、トバルと同じく仕事や引き続き睡眠のためや約束の遵守など自らのすべき事のために、思い思い図書館から立ち去った。

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