早朝
「まことに奇妙な夢であった。」
つい先程まで留まっていた夢の世界についての記述である。トバル青年は、火を灯せし蝋燭を明かりに日々のことを記した日記帳にそう書き出した。
「私は全くの青空の下に緑色をした小島のいちばん高い所に立っていた。周りを見ると四方は、妙な心持ちになるほどに深い青色であったが、あれは恐らくは海であろう。しかし風はなく、凪いでいた。私はふと顔を上げた。すると、天は私を更に奇妙な心持ちにさせた。黒黒とした烟が漂っているのかと思えば、それはある一定の場所から暫くしても其処から動くことはなく、消え去ること、薄れることさえもなかった。じっと眺めていると、薄いヴェールのような細い靄を発見し、次第に烟がそれを巻き込むように渦巻いていくように見えた。途端、穹窿じみた雲一つなかった青空は、瞬く間に一変して、黒と紫の混ざったたなびく雲が現れて、紅蓮色の空と化した。なのに海は青いし、空の黒烟も変わらずに在る。常に非ざるべき──夢の話なのだがそう思わずには居られなかった──異様さであった。もちろん私はこの突発的な変化を目の前にしてひどく打驚いて、あっと声を上げてしまった。おそらくは、この現実でも悲鳴を上げてしまったのではないだろうか。
さて、その時になっても私はそれを夢と気が付かず、未だに黒烟を眺めることをしていた。すると、なんだか、黒色の中に何やらきらきらしたような物が複数、不規則な配置に見られたのだ。すると周囲が突然さざめきだして、大きくうねったかと思うと、私はベッドから飛び起きたのだ。その後、少しの間は腹を中心とする不快な気だるさが私にまとわりついていた。不快なものを知らずうちに夢から引っ張ってきてしまったのかもしれない。何かの前兆だろうか。我が身に障りがなければよいが。」
そこまで書いて、ペンを置き本を閉じた。座りながら背を伸ばし、のちに椅子から立ち上がって間もなく扉を二度叩く音がした。トバルは、こんな早くに何者だろうと思いながら小走りで行って、戸を押し開いた。