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066.職場の相談役1

やっと続きが出せます!

たまにはこの人たちも働かせようということで。

「いらっしゃーい。あらー、音泉ちゃんやつれちゃって」

 あわー、お姉さん心配だぞーと、フォルトゥーナのスタッフ、だけではなく他のオーナーのお店のスタッフの見た目の支援もしている茜さんが、開口一番にそういった。

 ここは、フォルトゥーナのわきにある小さな建物。

 もともと建てる予定ではなかったようなのだけど、プレハブというにはちょっと豪華な控室を、実は千絵里オーナーが持ち込んだのである。

 仕事をしていたらいつの間にか、というか、お店の休日の日に敷地の空きスペースにいきなりできていたのが、この建物なのだった。ボクが入った月にすぐということで驚きはしたのだけど、開店もちょっとした見込み発車だったのかもしれない。そもそもメイドの数が足りないでひぃーひぃー言っている昨今である。

 月にそんなに使わない場所、作っていいんですか? って茜さんに聞いたときは、まー、他の店舗だったら三店舗共有とか、店の中でってなるんだけど、ここはオーナーの趣味店舗だからねーっておどけながら答えられた記憶がある。

 開店してから数か月のフォルトゥーナはいろいろと試行錯誤しながらここまできたということなのだろう。


「いろいろあったんです、本当にいろいろ……」

「あらまぁ、可愛い顔をしかめちゃうなんて、よっぽどね」

「あっ、仕事じゃなくてプライベートですよ? うん。だからそっちは自分で対処しなきゃいけないっていうこと、ふぇっ!?」

 ちゃんと、次の出勤日までには戻します、というと、音泉ちゃんという声とともに思い切り両側のほっぺたを両手でつかまれた。

 あわあわと、手をわたわたさせても、茜さんはなかなかほっぺたを話してはくれなかった。

 しかも、そのまま顔を寄せてきて、じぃっと瞳を覗き込んできた。

「音泉ちゃん、秘密にしてること、ある、でしょ?」

「えうっ?」

 ふふっ、と言いながら彼女はようやくほっぺたを放してくれた。

 でも、そうだとしてもそこで言われたことにボクの小さい胸はドキドキと鼓動を早くしていた。

 いけない。それだけは、バレては生活ができなくなってしまう。

 

「んー、いちおーね、私たちはみんなのプロデュース担当なわけよ。それってすでにほら、スキンケアとかお風呂のこととかいろいろやってるでしょう? ある程度、従業員のメンテナンスはうちらの仕事ってわけ」

 まー、専門のお医者さんが必要なクラスだと無理だし、ご自宅の保護者さんたちと揉めたりするケースも、やれるだけって感じにはなっちゃうんだけど、と自嘲的な声が上がる。少し萎縮しているボクへの配慮というやつなのかもしれない。

 でも、こうやって、聞いてくるというのはどういう状況なのだろうか?

 もしかして、秘密についてはカマかけかなにかだったり?


「でも、ほら、同じ従業員の中でトラブル抱えてるとか、そういうのは介入というか、相談できるし……」

「ああ、そういうのはないですよ? みなさんよくしてくださいますし」

 最初トラブルになった、戸月くんの話もある程度自分で解決はできたように思っている。

 っていうか、最初からそういうのがあるなら、先に言ってほしかった……

 あのときは、ほんと! 誰にも言えないって困ってたのに。


「あはは、その顔、前の時に相談したかったですって感じだよねぇ。それはまじでごめん。うちも手が回らなかったのと……従業員関係の色恋については、口を出しにくいんだよ……」

「戸月さんとのこと、知ってたんですか?」

「わかりやすいほどにね。でも、デート自体はあなたが受けたっていうじゃない? そういうのこっちで全面禁止にするつもりはないわけよ。っていうか、うちはスタッフの恋愛は禁止してないし、それに……いまじゃ、音泉ちゃんだって、ナイトさんがいるじゃない?」

 ほら、ケーキ屋! と言われて、いやっ、それは……と食い気味に答えてしまった。

 いや、でもたくみは、あれ、ナイトだけども……うぅ。


「それは、仮にです。っていうか、茜さんたちがフォローしてくれたなら、必要なかったじゃ……」

「いやっ。それは責任転嫁だよー。っていうかね。普通の女子なら、ナイト用意しなきゃいけないなんてないのさ」

「はい?」

 あれ? なんかちょっと責めるような視線を向ける茜さんに、なんだかちょっとひるんでしまった。

 おかしい。特になにかおかしいことをやってきたわけではないのに。

 首をこてんと傾けていると、茜さんは、あー、そうかー! って可哀想な子を見る目を向けてきた。


「えっとね、音泉ちゃん。他の同僚について、個人的感想とかあればよろ」

「え!? なんですか急に」

 いきなりなにを聞いてくるんだ? という感じで聞いてみても、にこにこ茜さんは答えを待つだけだ。

「渚凪さんはおっとり系のいいお姉さんでいろいろ心配もしてくれてますし、愛水さんもいろいろ声かけてくれますね。かっこいい人だなぁって感じ。瑠璃さんはリーダー的な見本って感じでいつも見守ってくれてますし、りーなさんは、年上だけどかわいらしい人だなーって思ってます。あ、でもこの前、なでなでされました」

 見た目では、こちらがなでるべきなのではないかと思うのですが、というと、まー、そりゃ高校一年生の後輩はなでるよなぁ、あの子はと思い切りうなずかれた。

「みんな、音泉ちゃんのこと心配に思ってるってことだよねぇ」

 改めて、そこまでいったらバックヤードの大人の管轄じゃーん! と茜さんが天を仰いでいた。

 もう、オーナーももっと早く連絡よこせやーと、彼女は愚痴る。

 すっごく、申し訳無さそうな顔をしているのがよくわからなくて。ボクは一人首をかしげていた。


「それでさ。その、心配されてる理由に心当たりは、あるのかな?」

 じぃと茜さんから、視線をあわされていわれたのだけど。

 ううむ。

「最年少だから、ですか?」

「あー、それもあるっちゃあるかなぁ」

「でもボクはそこまで失敗してるって感じはないと思ってるんですけど?」

 6月からもう4ヶ月以上仕事をしている。

 それでなんとかなっている現在があって……そりゃ、ちょっと男性のお客様から変な視線を向けられるってこともあるし、怪文書事件もあったけれども。

 これまで、クビになるようなことはなかったように思う。

 お客さん、ああ、メイドとしては「ご主人さま」方には楽しんでいい空間を作れているとは思っている。


「確かに仕事に関してはそうなんだけど、音泉ちゃんはなんていうか……危機意識が低いなぁっていう感じがするんだよねぇ」

 変なお客さんにだって、愛想よくしちゃうでしょう? と言われて、あーと昔言われたことを思い出した。

 フォルトゥーナはメイド喫茶である。その中のお客さんにはやはりちょっと目的を間違えてしまった人たちもまざるわけで。

 そういう人には警戒してねっていう風には言われているのだ。

 みんなにはわかるみたいだけど、ボクには正直その違和感みたいなのが感じ取れないのだった。

 渚凪さんとかがこそっと教えてくれたりはするんだけど。こればかりはできないことだ。


「そういうのも素直でいい子っていう意味では売りにはできるんだけど……なんとも難しい問題かなー」

「……ええと、その件は……ごめんなさいです?」

 いや、できないことをやれと言われても、なかなか難しいことなので、ごめんなさいしておく。

「ま、そこのところは他のスタッフに助けてもらうといいよ。でも、プライベートなところについては、うかつに相談もできないでしょう?」

 そういうところは、おねーさんに頼るがいい! と茜さんは胸を張った。

 あ、千絵里オーナーに直で電話相談とかでもいいよ? と付け加えてくる。

 いちおう、音泉はスマホを持たされているので、電話連絡だけはできるのだ。通話時間かけ放題なのは数分なので、長話はできないのだけど。

 ぶっちぎりの格安プランである。


「それは……まぁ。基本的には仕事先での話題とか、おしゃれ関係の話しかしないかなぁ」

 ドラマとかの話もちょこっとすることはあるけど、残念ながらボクはリアルタイムでドラマを見る余裕というのはないのだ。

 仕事が休みの日にちょこっとだけ時代劇を見るくらいな状態なのである。

 たとえば、巧巳との関係性とかに関しては正直誰にも相談できないし、学校でのトラブルだって100%相談できる相手というのがいないのだ。

 学校の友達に話せるのは、ドレス姿でなでしこさんをお披露目しようといわれたことが嫌だということであって、なんで嫌なのかまでは説明ができないのである。

 お店でも、学校でも。結局の所、半分の部分しか相談ができないというのが、ボクの弱点だ。

 困ったら友達に相談! って格言があったって、それは状況によるとしかいえない。

 今の生活の問題点はいっぱいあるけど、それを「だれに」相談すればいいというのか。

 親父? それだけは無理だ。親父だけには自分の問題だけを扱ってほしいのだ。

 ただでさえ、人の重荷さえも引き受けるあほんだらである。

 子供の自分まで、そこに甘えるのは……

 うん。甘えたいところではあるけど、あの状態ではむしろ今は勤勉にやれることをやってもらって、それ以外はやらせないという選択肢を取るしかないのだ。

 放置した親父は、悲しい顔をした悪い大人に騙される人なのだから。

 あ、なんかそれも問題なような気がしてきた。でももちろんそれを茜さんにするわけにもいかない。

 他の人にもである。大変だねー! 元気だしてー! で終わる未来が目に見える。


「そんなわけで、悩みがあるならほれっ、さっさとげろってしまうといいよ」

「ちょ、茜さん? さすがにお下品だと思いますけど」

 さて。そんなふうに困ったなぁと内心で思っていたら、茜さんは、さあさあかもん! と相談を受けますよな姿勢である。

 でも、こういうのってもうちょっとこう、信頼感とかを積み重ねたりとかするものだと思うんだよね。

 相談はしたいけど、クビは嫌なのだ。

 

 解決方法がお店をやめること、というのはなんというか。

 それなら、学校をやめたほうが、実のところいいんじゃないだろうかとすら思ってしまう。

 もちろん、やめないでさらにお仕事もできるのが理想なのだけど。


「こちらとしては、音泉ちゃんは絶対いてほしいスタッフなのね。そこは間違えないでほしいんだけど」

 ん。と茜さんは真剣な顔をしてそんなことを言ってきた。

 ううむ。そこのところは評価してもらえてると思っていいのだろうか。それは嬉しいことだ。

「だから、悩み事があるならぜひとも相談してほしいんだよ」

 他の人には内緒にしておくからさ、という彼女にいろいろと話をしてしまいたくなる。

 でも、話した途端に手のひらが返るということはないものだろうか? それがとても怖くて仕方がない。

 ここの収入がなくなると、生活の質がとてもまずいことになってしまうのだ。


「あー、むー、なかなかうまく切り込んでいけないなぁ。くぅっ、これは私にはカウンセラーの才能はないということなのかっ」

 自然にさらーっと、事情を聴きだせるのが理想なのにーと、茜さんはなぜか悔しそうだ。

 これは埒が明かないなぁとため息を付きながら、彼女は喋り始めた。

「言い出しづらいなら、こちらから呼び水を用意しちゃおう。灯南くんが心配してることは別に気にしなくていいよ?」

「はい?」

 え、いまなんて言ったこの人は。

「だから、うちらは知ってる上で雇ってるわけだよ」 

 君が内緒にしようとしてたから、ふれなかったのだけど。

 と茜さんがすごく困ったような顔をして、言った。


「私とオーナーは君が、男の子であることを知っている」

「えっ、ええええっ」

 いきなりなんてことを言いだすのだろうか。

「千絵里オーナーはあんな感じだけど、さすがに雇う相手の身辺調査くらいはするの。だから、他のスタッフの事情だとかも実は私たちは知ってたりする。その中の一情報なだけって認識だけど……まぁ、必死に隠してきたことだもんねぇ」

 そりゃ、フリーズもするか、と茜さんはぽすんと椅子に座った。

 ええと。今までいろいろやってきて、うまくやれてる、隠せてるって思っていたけれど。

 まさか、最初から知られていたとは。


「他の子にばれちゃまずいことでもあっただろうから、これでもいろいろサポートはしてきたんだよ? ここのスペースだって、お店の中で話してちゃ困る内容も多いだろうからって、急遽工事して付け加えたんだしね」

「わざわざ、ボクのために、ですか?」

「あー、他の子の悩み聞くためにも使ってるし、それに……大人スタッフは簡易宿泊所替わりにしてる感じ」

 宿泊費はちゃんといただいてるけどねー、と茜さんは言った。

 なるほど。あまり広いスペースとは言えないけど、確かにソファーとかもあるから、仮眠くらいはできそうだ。

 さすがに女装メイドのためにででんと休憩室を立ててしまったとなると心苦しいものがあるけど、有効活用しているというのならなによりである。


「それに、このお店自体は千絵里オーナーの趣味全開店舗だからなぁ。他のお店での収益なんかも割と注ぎ込まれてたりするの。ここもその必要なアイテムの一つだから、あんまり気にしなくていいからね」

 いやー、コンテナハウスってあんなに早くできるものなんだなぁーと茜さんが懐かしそうに言った。

 こっちはこっちで必死だったけれど、まさか周りでそんなことが行われたとは、驚きだ。

 でも。

「その割にはここでの相談事って、あんまりなかったような気がします」

 そりゃ、月に一回くらいは身だしなみのチェックが入るっていうのはあったけれど、その時に、さいきんどうよー? って言われるくらいだったはずだ。

 なんとかやってますーとか、ちゃんと香水とか使ってますよくらいなことを言ったくらいなんだけど。

 

「んー、そこは音泉ちゃんが我慢強いからじゃない? っていうか、臆病というか……基本、内側に入れた人しか信じないじゃない?」

 おねーさんは、ビジネスの上での間柄くらいな距離感なわけで、そーなると、遠慮とかするだろうしと茜さんにいわれた。

 悔しいけど、間違いではない。

 ボク自身は、父親ほど人に優しいわけではないし、それなりにいい意味で人見知りはする。

 みんなには下心ありの男性にも優しくしすぎとは言われるけれど。

 それでも、さすがに誰にも彼にも、学校に内緒でバイトしてまーす! しかも女装してまーすなんて言えるものではない。

 

「なので。困ってること、あるようならゲロっちゃいましょうか」

 ね? と言われてボクは。はぁ茜さんたちには勝てないなぁとぼやいたのだった。

さぁ、トラブルがあれば相談する必要というのは出てくるわけで。

そんなわけで、大人スタッフ達は大いに頼っていただければいいんじゃないかなと思います。


オーナー達はもちろん灯南たんの履歴書は持ってますが、性別欄で知ったわけではなく仕草や態度やらでばれてる感じです。ならもうちょっと早めにお話を聞いてくれてもよかったのだけど……

他のお店も見てるのでなかなか難しい感じです。


次話は相談会に予定です。

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