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041.二学期! 学校が始まります! そしてイベントの話し合いもね。

一週遅くなってすみません。

二学期がはっじまるよー!! まあ二期制の前期後半なのだけど。

 青々とした木の葉の隙間から、まだ十分にあつい日差しが差し込んでいた。

 僕が袖を通しているのは、すごく久しぶりの三葉高校の制服。


 半袖のワイシャツに、スラックスという出で立ちをして鏡の前に立ってみると、なぜかどきりとするくらい可愛くなっていて驚いた。

 高校一年の夏は男っぽさが増すかと思っていたのに、なんだか前よりもぐぐっと雰囲気が柔らかくなっていたのだ。フォルトーナで働いていて、女っぽさが板に付いたせいなのか、それとも何か別の理由でもあるんだろうか。


 こうやって手を空にかざしてみても、日焼けのしていない白魚みたいな指は透けて見えるほど細くて綺麗。ハンドクリームを使ってケアしてるだけあってもうぴかぴか。でも、ここまで作り込んでお給料をもらっているんだからサボることなんてできるはずがない。女の子しかできない仕事なんだから、女の子としての魅力がどんどんついてくるのは悪いことじゃないのだ。


 そんな事を思いながら通学路を歩いていると、いつもみたいに小学生が歩いている姿が見えた。

 二学期。初日は見事な晴れ模様で、もう見事の一言。

 出るときに干してきた洗濯物も、きっと帰る頃には乾いているだろう。

 乾燥機もあるんだけど、やっぱりこうやって晴れた日はちゃんと干した方が気持ちいいもんね。乾燥機を使っているのはもっぱら女物の服ばっかり。フォルトゥーナにいるときは、当然下着も付け替えないといけないわけで、それも洗濯しないといけないんだ。もちろん外に干せるわけもないから、乾燥機が有ってくれてほんと助かった。


 貧乏なうちが乾燥機なんて贅沢なものをっ、と思われるかもしれないけど、実はこれ、僕の高校入学祝いで親父に買ってもらったんだよ。高校に入れば忙しくなるだろうから、少しでも家事の負担を楽にさせたいってね。

 実際梅雨の間は大活躍してくれたし、どうしてもお天気が不安定で外に干していけないなんていうときにはもうフル活用。

 洗濯やって、朝ご飯の準備をして、ご飯を食べ終わったら洗濯物を干して。


 そんなわけで、今日も登校時間はいつもどおり、他の子達よりも三十分は早くここを歩いている。

 そして、きっと、そろそろ。

「おはよう、たくみっ」

 後ろからの気配に気付いて振り返ると、やっぱりそこには自転車に乗った巧巳の姿があった。


「よぅ、久しぶり」

 こちらの姿がすでに見えていたのか、巧巳はもう自転車の速度を落として、僕の隣で降りた。

 一週間ぶりの彼の姿は、思い切り日焼けをしてるなんてことはなくって、あの頃のまま。

 眠そうにあくびをかみ殺しているところをみると、きっとここの所も徹夜で仕事していたんだろう。


「夏休み、どうだった?」

 だから、そんな姿を想像しながら僕はくすりと笑って尋ねる。

 すると、巧巳は頭を掻きながら答えた。


「どうもこうも、ほとんど仕事だよ」

 秋の新商品の企画をそろそろな、と言われると、僕の顔はぱっと明るくなった。

 もちろんフォルトゥーナに卸すためのもので、十月下旬には納期になるんだって。

 お店だと新作は必ず試食ができるから、いち早く巧巳の新作を食べられてちょっと嬉しかったりするんだけど……これからテストとかもあるし、大丈夫なんだろうかと思う。


「仕事人も大変だねぇ……」

 ふふ、と笑いながら言ってやると、巧巳は不満そうに顔をしかめながら言った。

「それで、お前の方はどうなんだよ?」

「え?」

 そう問われて、一瞬なんのことだかわからなかった。あれから巧巳の兄さんからは何もないし、一週間平和な日々だ。膝の傷だってもうきっちり……ああ、そっか。


「大丈夫だよ、もうばっちり治った」

 疵痕も残ってないよ、と言ってあげると、なぜか巧巳はほっと息を吐いた。

 自分が原因で傷つけたとでも思ってるんだろうか。


「まぁ、なんにせよ、今日から二学期だな……」

「いちおう、まだ、長期休暇明けの前期、だけどね」

 ややこしいなぁと言いながら、僕は彼の物言いに訂正を加える。

 三葉高校は二期制を採用している。

 前期は九月のテストを持って終了で、十月から後期の授業が始まるってわけで。


 それなら、素直に三学期制にすればいいのにと思うのだけど、どうも定期テストの回数を減らす為の策なのだとか。三学期制にすれば、かならず学期末には期末テストをしなければいけないけれど、それの回数が二回に減るわけだ。テストがないとこっちとしては万々歳だけれど、その分、普段の授業の小テストは多めに出されるのだから、実は大した違いはない。


「おはようっ。今日も仲がいいねお二人さんっ」

 丁度学校への道も半分を過ぎた頃、後ろから声がかかった。

 きゅきゅっと、ブレーキがかかる音が鳴って、彼女は自転車の速度を落とす。


「あら、前島さん、早いね」

 声を掛けてきたのは、うちのクラスの前島みちるさんだった。彼女は夏服のブラウスの胸元を押し上げるようなDカップの胸が特徴的な女の子だ。

 普段こんな時間にここを通る人は滅多にいない。部活をしている子達はもっと早い時間に出ているし、そうじゃない子はもっと遅く通学するから、ちょうど空白の時間帯になる。

 だから僕は、不思議そうな声を漏らした。


「ちょっと部活で打ち合わせ」

 急ぐから、また学校で、と彼女は手を振って、自転車をこぎ始めた。

「たしか、あいつ、手芸部だったっけ?」

「うん。五人衆の一人だからね」

 そう。彼女は手芸部だ。


 手芸部は、ほとんどうちのクラスメイトだけで構成されているという珍しい部で、主催はなんとうちのクラスの伊藤昌樹という男子生徒なのだった。

 男子が手芸なの? というイメージがあったのはもう昔の話で、服作りに没頭していてもそんなにおかしくない時代である。

 ただ、二年生を差し置いて一年で部長をやっているというのは、珍しいんじゃ無いかなと思う。

 その理由は簡単で、二年生の部員がいなくて、三年生はもう受験の準備で半分引退しているようなものだからだそうだ。

 服といったらお店で買う時代なのに、いきなり五人も入部して顧問の溝口先生は最初、それはそれは驚いたのだそうだ。


「あいつらもよくやるよなぁ」

 二学期にはいって、そろそろ学園祭の準備でもするつもりなんだろうと、巧巳は言った。

 うん。二学期のメインイベント。それは十月に行われる学園祭だ。

 そこは当然文化部の見せ場になるわけで、手芸部の面々も頑張っているみたい。


「うちのクラスは、どんなのやるんだろうね」

 たこ焼き、お好み焼き、焼きそばに、ソース煎餅。それとも、演劇でもやるんだろうか。

 高校の学園祭っていうのは、中学と違って各クラスが自分達で出し物を選んでクラス単位で作業するみたいだから、正直かなり楽しみだった。一緒に作り上げていく仲間がいるのっていうのは、素晴らしいよね。やっぱり。


「さぁな」

 だから、巧巳にそう問い掛けたのだけど、彼は苦笑を浮かべながらそう言うだけだった。

 僕は、そんな巧巳を不思議に思いながらも、巧巳よりも少し前を歩く。

 カラカラカラと、自転車の車輪が回る音が聞こえた。

 背後には巧巳の視線が降り注いでいたのだけど、この時の僕には気付くことすらできなかった。



「断じて反対なのでありますっ!」

 ちょっと、どっかの緑色の生物みたいな言葉遣いをしながら、僕は思いきり身を乗り出して反抗心を露わにしていた。ガタリという音がなって机がずれたのがよくわかった。周囲の視線だってもう、ぐっさぐっさと僕に突き刺さってる。


 ちょっとさ、そりゃさ、僕だってちょっと日本語おかしくなりもしますよ。

 今、目の前で行われているのは、十月の中旬に行われる学園祭の為の会議。

 始業式のくせにお弁当を持参になっていたのはこれをやるためで、早めに準備をしようとだいたいどこのクラスも気合いが入っていた。

 朝はなしていた学園祭、みつば祭という名の祭はここらへんではそこそこ有名で、近所の人達も大勢遊びにくるし、学園内でもかなり盛り上がるのだそうだ。


 もちろんメインはPTAが主催するバザーだったり、理系クラスの有志で結成されるみつば会が行う科学的なイベントなんだけど、それに対抗意識を燃やす生徒なんかも結構いて、クラスがそれぞれやる模擬店や研究発表なんていうのも毎年相乗効果で素晴らしい出来になるんだって。

 うちのクラスはお祭り好きな連中が結構集まっているみたいだし、なにかやりたいことを精一杯やろうという空気が見て取れる。


 そこまでは僕もぜんぜん構わないんだよ。学園祭っていったら楽しいイベントだもの。

 みんなで準備して、一つのものを作り上げていく作業っていうのはやっぱり面白い。今の僕だったらそう言える。

 あと二週間もすれば前期の試験がわんさかあるんだけど、それすらも頑張ろうっていう気になる。その後の採点休みには猛烈に準備も手伝おうと思うよ。お店の営業に差し支えない程度でね。


 でも、でもだよ。その内容が……

「僕は絶対、ウェイトレスはやりませんっ」

 そう。そうそう。聞いて下さいよ奥さん。

 黒板に書かれている文字。そ・れ・は。

『メイド喫茶』の文字。

 目をごしごし擦ってみても、振り返って見てみても、そこに書かれた文字は変わらない。

 もちろん僕自身にやりたいものっていうのはなかったから、決まったら必死に頑張ろうって思ってたけど、さすがにこれだけは。これだけは勘弁して欲しい。


「でもさぁ、そんだけ可愛くて、ウェイトレスやらないなんてね……」

「絶対目玉になるよねー」

 クラスの前の方に座ってる女子が、あからさまに残念そうな声を漏らしていた。

 みんなは僕が女顔であることをある程度気付いているみたいで、メイド服を着るとどうなるかというのを想像できているんだろう。


 ああ、その通り。その通りですよ。僕はこれでもかというくらい女顔ですよ。

 ここの所は、日焼けどめやらスキンケアやらを徹底しているから、前よりもマズイくらい可愛くなっているのだって知ってる。

 メイド服を着れば、普通に美少女ですよ。ロングのウィッグなんてつけちゃえば、もうお客様にだって愛していただけるメイドになれますよ。

 でも。そんな彼女たちの妄想に付き合ってやるだけの義理はない。こっちは生活がかかっているのだ。


「ほら、秋田くんだって嫌がってる。いくらなんでも強制なんて酷い……」

 少しだけ小さくなって、小声で僕は周囲に訴えた。

 フォルトゥーナで働いているせいか、表情を作るのは上手くなった。少し怯えたような、弱々しい雰囲気を身に纏う。

 一緒に候補に挙がっているのは、少し離れた所に座っている秋田陸くん。

 どうやら僕をメイド長にして、彼を副メイド長にしようという魂胆らしい。

 たしかにメイド服を着せて軽くお化粧すれば十分可愛くなりそうな感じの子だ。まだヒゲも生えてないし、僕と同じく声変わりもしてない。髪の毛だってちゃんとお手入れしているのかすさまじくさらさらで、伸ばしたら天使の輪ができること間違いナシだ。


「僕は……あの……」

 視線を受けた秋田くんは、うつむいて口をもごもご言わせていた。

 まったくもう。イヤならイヤってさっさとはっきり言ってくれればいいのに、そんなに困った顔してうつむかないで欲しい。

「厨房の方ならいくらでも手伝いますけど、ウェイトレスだけは御免です。そもそも、この企画、まだ衣装担当とか決まってないけど、できるんですか?」

 そんな煮え切らない態度の秋田くんを無視すると、僕は悲痛な呻きと不審げな声音でそう言い放った。


 黒板には必要な部署の人数が書かれているけれど、その役割分担が完全に決まっているのは、僕と秋田くんと巧巳だけなのだ。

 部署は大きく分けて五つ。店で出すものを作る厨房と、給仕するウェイトレス、料金の関係を一手に引き受ける会計と、会場装飾をやる裏方、そしてウェイトレスの衣装をそろえる衣装係。

 巧巳は当然、厨房長ってことになる。


 もともとはみんなも巧巳の力をアテになんてしてなかったから、カスターニャのケーキを出そうだなんて言い出す人はいなかったのだけど、とうの本人から言い出すのだから、始末が悪い。

 本人が言うなら、誰だってそれに乗りたいと思うのは仕方ないだろう。

 クラスの女子はことごとく巧巳のケーキのファンだし、男子だって一度くらいは食べたことがあるようなケーキだ。そんなのを学園祭でしっかりと出せてしまったら、おそらく盛り上がるどころの話じゃないのは目に見えている。


 だから。

 みんな、彼が言った「おねがい」を簡単に聞き届けてしまったんだ。

 そう、つまり、僕をメイド長に抜擢しろという、お願いを。

 うん。もともとこの企画って、目玉っていうのが、男子生徒のウェイトレスを置くことだったんだ。女装喫茶っていうのは、割とポピュラーだけど根強い人気がある出し物であるのは確かだからね。

 そしてこれが大きいんだけど、女装ならばけっこうきわどい仮装をしても許されてしまう部分もあるってわけで。女の子がメイド服なんて着ると、エロいからダメだと学校からお叱りを受けるんだけれど、不思議と男子がやるなら平気なのだ。


 メイド服なんて従者の服装なんだし、全然エロくもなんともないのに、メイド喫茶ブームからの流れでどうにも別の印象が刷り込まれてしまったらしい。そりゃ、あ~んってしてくれるサービスがあったり、サービスの中身がかなーりそっち方向にぶっとんでるお店もあったけど……メイド服には罪はないのに。

 それでもみんなは、男のウェイトレスを望んで、多数決でそれは可決された。

 自分達がやるかもしれないっていうのに、男子生徒達もかなり乗り気で手を挙げてるから始末が悪い。


「それは問題ないよ。じゃー外堀から埋めていって見ますかね」

 実行委員が飄々とそんな事を言うと、まず、衣装係の立候補を募った。

「はーい、決定ですねー。五人でいけそうか?」

「おーけーおーけー。衣装つってもせいぜい十人分見ておけばいいっしょ?」

「一日三交代制で、三人ずつとすると、九人分ってとこかな」

 手は程なくして挙がった。

 手芸部の期待の新人、伊藤昌樹を中心とした五人衆だ。


 男で手芸と言われると不思議な感じがするけど、たぶん理由を聞けば納得してもらえると思う。

 その理由とはずばり。彼がコスプレイヤーだ、ということだ。

 コスプレイヤーとはなにかというと、マンガやアニメのキャラクターの衣装を身に纏ってそのキャラになりきり、いろいろなイベントに参加することを趣味とする人達のこと。当然、アニメとかのキャラの服なんて市販されているわけじゃないので、全部自分で布から作ることになる。

 彼は中学からその道にずっぽりと足を踏み入れて、それこそ受験もそっちのけでコスプレばっかりしてたらしい。家には相当の数の衣類があるし、型紙もかなりの量に上るとか。当然五人の中には今朝会った、前島みちるの姿もある。


「一回、メイド服はきっちり作ってみたかったんだー。デザインとかもいままでたんまり作ってあるから、みんなで話し合って仕上げていけばいいっしょ」

 彼はこちらを見ると、何故か上から下まで舐めるように視線を巡らせた。

 おまけに。

「それと衣装つくっちまえば当日暇だし、俺もメイドの副長立候補ね」

 こんなことまで言い出す始末である。三交代制にするなら、確かに副長はもう一人必要とはいえ……自分から立候補するとは恐れいる。


「それと厨房は……ああ、ガンガンあがってるね」

 おおむね女子の方から手が上がった。男子の方からも何人か手が上がっているが、こっちはおそらくメイド候補から外れるためのものに違いない。

「ここまではまだ人数調整はいいから……くじ引きだろうな。厨房やりたいのは前に集まって」

 クラス委員の一声でひとまず自由時間状態になった。

 教室の前の方には厨房の係になろうとしている人達が集まっている。

 厨房の定員は一日目と二日目併せて巧巳を除いて八人。やる仕事っていったら、ケーキの切り分けやら巧巳の指示に従っての材料合わせなんかがメインになるわけだから、料理が上手いとか下手とかはそれほど関係ない。


 僕はほとんど放心したまま、その風景を眺めていた。

 驚くほどの手際だった。

 すぱんすぱんと、すぐに役職が決まっていくのだ。

 これは……進めば進むほど、反論がしにくくなる気配だった。

 真綿で首を絞められるというのは、もしかしたらこういう時の為の言葉なのかもしれない。


 九月十月のイベントといえば学園祭ってわけでして。

 学校イベントもぼちぼち入る季節になります。

 やっぱ高校生の学園祭のじょそういべんとはたーのしー。

 はい続きます。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 巧巳くんやっぱり灯南ちゃんのことも女の子として扱ってるような・・・フタマタだ! 少し前に男の娘な方が高校の時メイド服着たーと言っているのも見て、文化祭の男の娘メイド喫茶、実在していたのか・…
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