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031.夏祭りの日に1

久しぶりなのでー

友人の美優さんの家にいった、灯南はその策謀により女性用浴衣を着させられることになったのでした!

そして待つはお祭りの夜ということでー

男として女装して外にでるひとときをお楽しみくださいませ。

「おまたせー」

 どうだこんちくしょうめ、といった感じで、彼女は巧巳の前にぴょこんと立った。きっと浴衣姿を巧巳に見せびらかしたいんだろう。

 一方僕はというと……美優さんの影に隠れてこそこそしていた。


 だってさ! 浴衣姿だよ……しかも女物の。こんな恰好、巧巳に見られたら……って思うとかなり恥ずかしい。音泉としてメイド服姿を見られるのですら恥ずかしかったのに、灯南として女装しているのを見られるのは、すごい恥ずかしかった。

 それに、その。音泉として女の子の格好をするのは別に、どこにも問題は無い……って割り切れるけど。

 今回のコレに関してはまったくもって、なんの良い訳もできないことなのだ。

 

「ほらほら、となっちも隠れてないで、ちゃんと池波くんに見せてあげなよ」

 でも美優さんは薄情で、僕の腕をむんずと掴むと思い切り前に押し出した。

 勢い余って巧巳の目の前まで来てしまう。

 ととっと、小走りになったものの、だいじょうぶか? と巧巳に両肩を支えられてしまった。

 しかもっ、のぞき込んでくる顔が近いっ。巧巳ったらそんなに興味津々に見つめないで欲しい。


「……トナ……おまえ……」

 あまりのでき事に慌てていると、巧巳の驚いたような声が頭に刺さった。

 やっぱり、巧巳……僕のこと……


「……変、だよね」

 少し顔をそらしていうけど、巧巳はさきほど抱きかかえた手を離そうとはしなかった。

 あまりにもショックで硬直でもしてしまったのだろうか。

 男が女物の浴衣着てるんだもん。やっぱりどうしたっておかしいんだ。和砂さんじゃないけど、女装してるだなんて普通はおかしいことで、お天道様の下をあるけない行為なんだ。そう思うと身体が震えているのがわかった。昔、さんざんいじめられたのが頭に浮かんだ。

 中学の頃の思い出したくもない記憶だ。


「……これはその……いろんな事情があってね」

「……かわいい」

 だから逐一事情を説明しようと思ったんだけど、巧巳はそれだけ言って僕の頭にぽんと手を置いてくれた。頭に乗せられた巧巳の手がいやに温かくて、それだけで震えが止まってしまった。


「かわいければ、なんだっていいのが人間ってもんです」

 うんうんと、なぜかしみじみと美優さんが腕を組んで肯いていた。

 そして巧巳に向かって、一応今日はとなっちを女の子扱いするよーに、といらない忠告を飛ばす。あんまりなので僕は服が汚れちゃったことなんかを全部巧巳に話した。


「まっ安心しろよ。別に変だとか思ってないから」

「巧巳……」

 ほれせっかくだから二の腕にでも掴まれと、彼は腕を差し出してくる訳なんだけど、それだけは丁重にお断りした。

 いくらなんでもそこまで順応はできない。

 なりきり(、、、、)はお仕事の時だけで十分なんだ。


「まったくトナはこういうとき、ノリ悪いよなぁ」

 せっかくなんだから、一日俺の彼女役やってくれればいいのにと彼はぼやいた。

 それを聞いて僕はちょっとだけ意趣返しにあの話を振る。


「彼女役っていうなら、僕じゃなくてフォルトゥーナの人達誘えばいいじゃない」

 仲いいんでしょ? と聞くと、彼はううむと呻いた。そうなんだよね。『彼女』を求めるのなら音泉を誘えばいいんだ。そうすればボクだってそんなに気にしないで彼女役ができる。

 こういう格好だって、あっちの姿だったらまったく遠慮無くできるし、駆け引きだってそれなりにはこなせると思う。

 巧巳相手だととちょっとまごついてしまうかもしれないけれど、それでも接客で慣れた部分もある。


「って、そっちはみんな予定あったって話しただろ? それにさ。せっかくの夏祭りなんだから、俺はお前と回りたかったの」

「……こんな格好でも?」

「ぷっ。まあそうだな。両手に華なんて滅多にないから、俺は嬉しいよ」

「私など道ばたの雑草なので、片方の華だけ愛でてあげてね」

 仲良く仲良く、と言うと、美優さんは僕の手をとって巧巳の腕に絡ませたのだ。




「うわぁ……」

 まず僕らが回ったのは屋台村からだった。祭りを見越してのテキ屋と言われる人達が、いっぱいいろんなお店を出しているのだ。こういった所は夜、日が落ちてからの方が風情があるのだろうけど、まだ日が高い今でも心がうきうきしてしまう。

 前に来たのは小学生の頃だから、もう四年ぶりだ。あの時は親父にリンゴ飴を買ってもらって、すごい美味しかった記憶がある。

 口の周りべとべとだぞって言われて、だって美味しいし、とかなんとか言っていたようなことも、懐かしい思い出だ。


「トナはやっぱり、食い物だろ?」

「やっぱりってなんだよ……」

 わたあめ屋の前でじっとしている僕に、巧巳のからかいが入った。

 そりゃ僕はねっからの食いしん坊だけど、最初からそう言われてしまうのは切ない。


「やっぱり浴衣着てる女の子的には、金魚すくいでしょ!」

「巧巳は手先器用なんだから、型抜きでもすればいいじゃない」

 とりあえずいろいろ見ながら、ああでないこうでないと僕達は話していた。

 久しぶりに回ってみて僕が思ったのは、やっぱり夜店は価格設定が高いということだった。

 いわゆる高町ってやつ。食べ物はまだ許せるレベルだけど、輪投げとか射的とか金魚すくいとか、どう考えても高い。でもまったく何もないのも寂しいし、今日のご予算は二千円ってことにした。今日もけちけちしながら生活しないといけないから、飴一つ買うのにも悩みまくりだ。


「ほい、とりあえずこれでもかじっとけ」

 そうこうしてると、巧巳がつついとリンゴ飴を買って僕に渡してくれた。

「って、なんで僕だけ?」

 美優さんの方には渡していなかったので不思議に思って聞いたら、彼は頬のあたりをかきながら黙ってしまった。

 きっと僕のうちが貧乏だから買ってくれたんだろう。りんご飴一個五百円なんてさすがにやってられないもんね。

 正直、そこらへんをさらっと払える経済力がある巧巳は羨ましい。

 カスターニャの経営と、巧巳の報酬がどうなっているのかはわからないけれど、アルバイトをしているようなものといってしまってもいいのかもしれない。むぅ。うちの学校はアルバイト禁止なんだけどなぁ。


 僕はとりあえずいただきますと小声で言ってから、それを軽くかじった。瑞々しい味と飴の甘さがほどよく絡まってやっぱり美味しい。でも口紅を塗ってるから、どうしても小さい口で食べなきゃいけないのが残念だ。


「じゃー私はチョコバナナ食べよ。となっちはどうする?」

「んー、リンゴだけでいっぱいいっぱいかも」

 パス、というと彼女は気にしないでチョコバナナを買った。こっちは一つ200円だ。女の子同士だと、同じのを食べるとかありそうだけど、彼女はあまりそういうのはないらしい。


「イベント会社の人もやってるのかな……なんか、僕の記憶よりお店多い気がするんだけど」

「一昨年よりは多いな、確かに」

 定番のりんご飴屋さんなんかは、いかにもテキ屋のおっちゃんぽい人がやっているんだけど、ソース煎餅だったりとかキャラグッツみたいなものを売ってるお店なんかは明らかに店員さんの様子が違かった。

 地元の商店街からも出店があるようで、そこらへんは町のおばちゃんたちがやってる焼きそば屋なんてのもあったのである。


 そして、さらには特殊なのが……

「どこもかしこもメイドメイドって……」

 そう! お祭りだからなのか、その出店の人達はコスプレをしているケースが見受けられたのである。

 しかも、メイドさんが多め! メイド服を着てりゃあいいってもんでもないだろうと言うと、美優さんはそうだそうだと肯いた。


「屋台にメイドって明らかにアンバランスだよねぇ……」

「せめて和装メイドならいいのに……」

 薄紅色の浴衣に腰下のエプロンでもつければそれこそもうスゴイ良い感じなのに、もう一つ覚えみたいに西洋メイドなのは勘弁してほしい。それでも調和とかまったく無視して周りが、「おぉ、メイドさんだよっ」とか物珍しそうに見ているのだから、もうどうかしてるとしか思えなかった。


 それらを見て回って、結局巧巳はリンゴ飴と綿飴とメイドさんのもえもえソース煎餅を、美優さんはチョコバナナと焼きそばを、僕はりんご飴とお好み焼きを食べた。ちなみに、美優さんと僕とは、ちょっとずつ交換して食べたりなんてこともしていた。だってさ美優さんがリンゴ飴ちょうだいっていうんだもん。もちろん僕がかじったところは避けて食べてたけどね。


「だいぶ、暗くなってきたね」

 祭りもそろそろ本番。人の数も先程の比じゃないくらい多くなってきた。

 みんなの目的はきっと、もうちょっとしたら始まるステージでのイベントなのだろう。

 そんな人混みを見回しながら、僕は無意識に巧巳の二の腕を掴んでいた。

 手に込められた力がぎゅっと強められる。無意識に身体が強ばるのを感じた。


「トナ?」

「……なんでもない」

 巧巳の身体に隠れるようにして、息を詰めた。

 その脇を男達が通り過ぎていった。

 今でも覚えているその顔。


 向こうはこちらに気付いていないようだった。いちおう髪の毛は短いけど、もう半年前と僕もだいぶ変わっているしこんな恰好をしてるし、それに巧巳が居てくれたから気付かなかったんだと思う。

 そう。彼らは僕の中学の同級生だった人達だ。もう平気だと思ってたのに顔を見ただけで足が震えた。なんだろう、頭では平気だってわかってるのに、身体が拒絶反応を起こすみたいで。


「……となっち……」

「それよりもさっ、あと、あれっ、行ってみようよ」

 でもそれを二人に知られるのはイヤで、ほらほら、と僕は無理に明るく言って、巧巳を引っ張った。

 お祭りは楽しんでなんぼなのである。

やっぱり、無理矢理女装させられる子の、あのもじもじした感じというのがとても大好きです!

そこのところ灯南っちは男の時は恥ずかしいっていうのがあってありがたい!


そして可愛い男のコなんてのは中学の頃にも嫌な思いをするものなのでありますよ。そこらへんに上手く対応できるようになるのが高校生から、みたいなね。

まー、思う存分ぎゅってするがいい!

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