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026.友達のおうちが豪華なようです1

しばらく放置してしまってすみません。

ぼちぼちやっていこうかと……

本日は、先日巧巳くんちで泣き出しちゃった彼女のおうちに遊びに行きます。

「でっかい……でかすぎる……」

 僕の目の前にはでーんと大きな建物が姿を現していた。

 豪邸? 普通の豪邸じゃないね。それこそお庭だけでうちの敷地全部くらいあるんじゃないかな。その庭に綺麗に切りそろえられた木々が立ち並んで色とりどりのガーデニングが花開いている。特に目立つのが夏真っ盛りのひまわりだ。力強い黄色を見ているとつい嬉しくなってしまう。


「なんか、すごい場違いな気が……」

 うーむ、と唸りながら僕はインターホンを鳴らした。

 今日の僕の恰好は夏の少年らしく、ハーフパンツに半袖のTシャツだ。もちろん素足がでているところは日焼け止めを塗っているし、対策は万全。


 事のハジマリは今朝方かかってきた電話だった。

 その電話は巧巳からだったんだけど、よくよく聞いてみるとお店でひと騒動あったときの子から連絡がきて、この前のお詫びに家に招待したいと言ってきたんだそうだ。


 いきなり店頭で泣き出したらそりゃ驚きもするけど、お詫びをするほどのことでもないのになぁとも思いつつ……特に用事もないし僕はOKをしたってわけで。ちょうど二十日でお店も定休日だからね。

 巧巳の方はフォルトゥーナの仕事がなくてもやっぱりちょっと忙しいみたいで、お昼は出られないから一人で行ってくれということだった。もともと夜に盆踊り大会に一緒に行くことになっていたから、途中で合流すればいいだろうって感じだ。


「あーいらっしゃい。まってて、いま開けるから」

 そんなわけで僕はここにいるんだけど、まさか鏡さんの家がこんな大豪邸だとは思っていなかった。

 まあ、お嬢様学校に行っている時点で気づけよとか、フォルトゥーナに通い詰めてるんだからそこそこお金もちだよ、とか考えればまあ、そうなんだろうけど。

 でもでも、彼女の家がどうであろうと、こちらとしては特に着飾る、なんてことができるわけでもない。

 仕事用に使う女物の服の方がいっぱいあるって……男子高校生としてはちょっとどうかと思う。


 カチャリと玄関が自動で開けられると、僕は敷地の中に足を踏み入れる。

 庭は見事に芝生が生えそろえられていてふかふかだ。それこそでっかいもふもふしたゴールデンレトリバーが似合いそうなお庭。それを通って玄関に向かった。


 豪邸っていっても漫画とかに出てくるほど滅茶苦茶な大きさってこともないから、ゆっくりお庭を見ながら進むとおうちの玄関についた。

 ちょうどその時、かちゃりと音が鳴って扉が開けられる。


「いらっしゃい。わざわざ来てもらっちゃってゴメンね」

「こちらこそ、お招きありがとう」

 玄関が開いたらそこにはやっぱりこの家に似合いそうなお嬢さんが立っていた。そりゃまぁ明徳女子にいってるくらいだから、彼女もお嬢さんなんだろうな、とは思ってたんだけどまさかこれほどとは思わなかった。

 サマーワンピースとでも言えばいいのかな。外出するときよりも少しラフな感じの姿は正直、ちょっと目のやり場に困る。


「う……」

 それは家の中に入っても終わることはない。

 一歩入っただけでいきなり出てきたのは二階まで吹き抜けの玄関だった。

 なんということでしょう。なんて言ってしまいそうになるくらい明るくて、これでもかと言うくらい光が入っている。

 一般的なお宅だと、吹き抜けといっても玄関スペースだけということが多いようだけれど、ここはもう少し広めに取られていて開放感が半端なかった。


 建物としては……新築という感じはないけれど、古いという感じも受けない。デザイナーズハウスといえばしっくりくるだろうか。

 ずいぶんとお金がかかってそうな建物だった。


「父親が医者で母親が元華族の系譜のご令嬢、なんだってさ」

 私には関係ないけどね、と彼女は苦笑してスリッパを差し出してくれた。

 廊下をしばらく歩くと、横にリビングやダイニング、応接室に、寝室、多くの部屋が見えた。でもそれだけじゃなくて、トロフィーとか賞状とかを集めただけの部屋なんてのもあるんだからすごい。


「ごめんね。開けっ放しはお客様に失礼って気もするけど、夏はこの方が涼しいから」

「冷房とか入れてないんだ?」

「両親の方針でね。ちゃんと冷房無しで生活できるようにこの家を造ったんだって。冬はさすがに暖房たくけど、夏はごらんの通り」

「でもこんなに開いてると物騒なんじゃない?」

 最近、泥棒も多いんじゃないの、と聞くと、彼女は眉をしかめながら言った。


「んー、一応うち、メイドさんが一人いるからなぁ。それに物騒っていっても高い物って基本的に置かないからね。絵だって高価な美術品じゃなくて、母が趣味で描いてるやつだし、お宝みたいなのってホントないの。唯一高いのが家と土地だけど、さすがにこればっかりは盗めないじゃない」

「そりゃ、そうだね」

「うちの両親は物欲よりも経験って人だからね。知識だったり経験だったりにお金かけるのね。例えばそうだな、クラシックコンサートとか演劇とか、ああ、あと地下室に書庫があるんだけど、あれはちょっとばっかりお宝かもしれない」

「地下室まであるの?」

「本を隠すなら日の当たらない地下の中、なんだって」

 はい、到着、と言われて僕達が足を止めたのは、南の一角にある部屋だった。入り口のドアには美優という可愛らしい文字が書かれた看板がかけられている。


「うわ……女の子らしい部屋」

 ほとんど自然にその部屋に足を踏み入れながら、僕は足をピタリととめた。

「って、ここでいいの?」

 女子の部屋に僕が入ってしまっていいものかと思ったわけだ。よっぽど仲のいい友達でもないと、異性を自分の部屋にいれるなんて普通はしない。そりゃ別に僕が何かをするってことは絶対にないけど、なんだか後ろめたい。

「ん? いいって?」

 心底わからないって感じで、彼女は首を傾げた。

 もしかしたら、いつも彼女はここに自分の友達を招待していたのかもしれない。


「ああ、リビングの方じゃないのかなーって、思ってさ」

「リビングでもいいんだけどね……ちょっと息が詰まっちゃって」

「お嬢様!」

 そんな風に躊躇していたところで、騒がしい女の人の声が響いた。

 声の方を見てみるとそこには今時珍しいメイド服をきた女の人が立っていた。年の頃は三十過ぎだろうか。きりっとした感じで、一見しただけで瑠璃さんと同じようなオーラを感じたほどだ。


「げっ、もう帰って来ちゃったか……」

「げ、じゃありませんよ! どこでそんな汚い言葉を覚えてくるんですか……」

 不満そうに鏡さんの言葉遣いをたしなめると、今度は僕の方に視線を移してじろりと、頭の上からつま先まで、見事に全身をなめ回すようにチェックを入れてきた。巧巳のお母さんと違ってこっちは無遠慮も無遠慮な感じだ。


「あなたは?」

「え、僕はその……」

「ご学友ですわ。今日は一緒に勉強をする所ですの」

 イヤになるくらい丁寧なお嬢様口調で言うと、彼女はさぁ、はいってはいってと、僕を部屋の中に押し込んだ。


「お友達は選ぶようにと常日頃申し上げているではないですか、こんな事ではお亡くなりになった先代の奥様に申し訳なくて……」

 そんな僕をじと目で見ながら、メイドのねえさんははぁとため息をついた。

 そりゃ僕はどこかだろうみたって華族さまと比べればみすぼらしいかもしれないけどさ。そこまで言わなくてもいいと思う。

「いいじゃない。そんなだから、みんな……いなくなっちゃうんじゃない」

 泣きそうに言うと、メイドさんはうっとなって一歩引いた。

 そりゃなぁ、確かにこんな扱いされたらちょっとイヤだ。

「わかりました。本日は引き下がることに致します。ですが……」

 おわかりですよね、とだけ言い残すと、彼女は音もなくビニール袋をぶらさげて下に降りていった。


「ね?」

 彼女が去った後にそう言われてなんかすべて納得した。確かにあんなのにずっと監視されてたらリラックスもなにもできやしない。彼女も美優さんの事を淑女にすべく必死なのだろうけどこれじゃぁ楽しく生活することなんてできないよね。

「ああ、そうだ。これ……」

 部屋に入れてもらってから、僕は持っていた箱を彼女の前に置いた。


「これ……まさか、カスターニャの?」

「うん、それもフォルトゥーナバージョンだよ」

「ええっ、わざわざ作ってもらったの?」

 でもみんなにはナイショね、と付け加えておいた。フォルトゥーナのケーキはカスターニャでの販売ができない契約になっているから、あんまり公になっちゃまずいってわけ。そりゃ友達に無料で配るんなら千絵里オーナーも文句は言わないだろうけど、千絵里オーナーとしては、「このお店じゃないと食べられないケーキ」を大切にしたいに違いない。

「あー、かえって気を使わせちゃったかな」

 じゃ、ちょっと冷蔵庫にいれてきちゃうね、と言って彼女は一度席を立った。


「女の子の部屋……か」

 一人取り残された僕は手持ち無沙汰で部屋を見回した。

 なんだろうね。なんか良い匂いがする部屋だ。いわゆるこう女の子女の子した感じの部屋じゃないんだけどキレイに整頓されてあって、こういう部屋って結構好き。

 教科書類が収められている勉強机ときれいにされてるベッドと、ウッディな感じのテーブルが一つ置かれている。その奥には小さな食器棚みたいなものが置かれていて、お菓子とか紅茶のセットとかが置かれてあった。部屋の広さは八畳ってところかな。西側の壁が磨りガラスで仕切られているけど、あの先はきっと衣類が納められているんだろうと思う。

 そしてベッドの上にはクマのぬいぐるみとウマのぬいぐるみが一つずつ置かれている。つぶらな瞳が僕を見つめていて、結構可愛らしい。


「あー、ベッドに座ってくれててよかったのに」

 どこに座って良いのかよくわからなくて、部屋を見回していたわけなんだけど、戻ってきた彼女に笑われてしまった。彼女は笑うけど、幼なじみでもないんだからそれはどうなのかと思う。

「じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 でもそうそう人様の家で文句も言えず、僕は言われるまま彼女のベッドに腰をかける。彼女は奥の方にあったテーブルをベッドと机の間に持ってきてから、机の方の椅子に座って、こちらを向いた。


「へぇ、便利だね」

「でしょー」

 ちょうどそのテーブルは机の上からでもベッドの上からでも手が届くような高さと位置に納まっていた。これなら勉強しているときに飲み物を置いたり、寝る前にちょっとお茶、なんて雅なことができてしまう。

「あ、アイスティーだいじょぶだよね?」

 カランと音をならしながら、僕の前にだされたのは薫り高いアイスティーだった。隣にはご丁寧にレモンの輪切りとミルクのカップが添えられている。


「あ、ダージリンだ」

「おぉーあたり。となっちも紅茶飲む人なんだ?」

 まず何も入れずに飲むと、フルーツのような香りがわずかに感じられた。いわゆるダージリン特有のマスカットフレーバーともいわれるやつ。

「たまにだけどね」

 家じゃ飲む余裕はないんだけれど素直にそう言うこともできないので、曖昧に言葉を濁す。フォルトゥーナで働いてるなんて口が裂けても言えないもん。


「それにしてもすっきりした部屋だね。きれいに整頓されてるし」

 それを上手くごまかすためにも、僕は部屋を一度見回してわざとらしく褒めてみせた。

 うちじゃこんな空間の使い方なんてできやしない。部屋の中だってけっこう整頓はしてるけど、こんな空間を確保するなんて無理だもん。


「必要だけど普段必要じゃない物は、部屋から排除しちゃって納戸に納めるって感じだから」

 すっきりしてて当たり前よ、と彼女もアイスティーに口をつけた。

「なるほどね」

 僕はやや驚いてみせながら、家が広いってのもいいもんだなと思った。かといって広いと掃除が大変だろうななんて思っちゃうのだから、僕も立派に貧乏性だ。


「さて、それで……なにをしよう?」

 お呼ばれなんてしたこと無かったから、どうしていいのかわからないと言うと彼女は目を丸くしていた。

 だってほら、前に巧巳がうちに来てくれたときは宿題っていうのがあったから良かったけど、それ以外の時間の過ごし方って実はよくわからないしさ。一人の時間だっていっつも仕事仕事だし、どうしていいのかよくわからない。


「んー、とりあえず、お昼ご飯までは適当におしゃべり、でどう?」

 この前は落ち着いて話なんてできなかったし、というと彼女は恥ずかしそうに笑った。

 お昼ご飯ってことは、お呼ばれの主体はそれでいいってことなのかな。

 なら普段聞けないことを聞いていけばいいだけだ。


「それで、私は……となっちの学校のこと、ききたいな」

 なんの因果か、女子校になんて入っちゃったから、共学の高校って憧れだし、なんて彼女は言った。

「しがない貧乏高校だよ。一応私立だけど校舎もぼろいし。制服は可愛いと思うけど……中学とそれほど変わらないと思う」

 空調も職員室しかないし、というと彼女は驚いたように口を開いた。


「今時、空調無いなんて……すごいね」

「この家と同じ感じかな。経営者の理念なんだって」

 夏は暑く、冬は寒く。春は温かくて、秋は涼しい。そんな四季の変化を生徒にはしっかりと感じてもらいたいのだそうだ。高い授業料を払ってるくせに、空調費をケチられちゃ堪らないだなんて苦情が昔は何件かあったみたいだけど、いまじゃ建学の理念とかいうのに載っているから、空調のない学校になんて入ってたまるか、という生徒はいない。

 その分うちの学校は研究の為の設備とか図書館の本とか、そういうのにお金かけてるんだよね。僕としてはあんまり図書館に行ってる余裕もないから、恩恵ってないんだけど。

 それでも空調が無いことには概ね満足してる。やっぱり夏は暑いものだし、その暑さって自然に耐えきれるものなんだからね。東京の夏なんかと違ってここいらは森も多いし、ヒートアイランド現象なんていうのも起きない。


「へぇ……」

「夏は暑くて勉強に支障がでるから休みがあるんだ、だから空調で制御されてるのなら、そんなもんはいらないだろう、ってね」

 終業式に校長先生が壇上で言った台詞だ。だから暑い夏は自分が興味のある楽しいことをいくらでもやって欲しいとあの人は続けた。そんなことを言われても僕は働くしかないのだから、仕方ないのになんて思ったくらいだ。


「明徳女子の方はどうなの? 設備充実しててすごいって噂は聞くけど」

「割と快適……かな。ヨーロッパ調で統一されてる感じでね。校舎は古い洋館みたいな風で、あとカトリックの学校だから教会なんかもあったりして。みんな貴族のお姫様みたいで、雅なもんよ」

「それを言うなら、鏡さんだって……」

 そういうと彼女は、だーめ、と僕の口の当たりに人差し指を押し当てた。

「美優って呼んでよ」

 名字で呼ばれるのは、ちょっと他人行儀でヤダと彼女は言った。


「それに私は雅でもお嬢様でもないよ。母の意見で中学までは普通の公立中学だったし、話し方だってこの通り」

 お上品なんていうのとはかけ離れてるでしょ? と彼女は控えめに言った。旧華族だ、なんていうのは今の世の中ホコリにも何にもならないのだそうだ。でも最低限の礼儀や技能だけはたたき込まれているらしくて、身のこなしや身の回りのものはなかなかいいものを使っている気がする。

「なんかねー、父と母の間での協定みたいなのだったみたい。父は普通な環境で育って国立大学に入って医者になった人だから、なるべくなら私を有名私立校に入れたいって思ってたみたいで、逆に母は堅苦しい私立なんかよりも、公立でのびのびと生活してほしかったんだって」

 どっちもどっちなのにねぇ、と彼女は二人の親心をばっさりと切って捨てた。

 やっぱり自分のいなかった環境っていうのはよく見えちゃうもんなんだろうね。


「それでおばあさまは、習い事やれーってうるさくってさ。ピアノにバイオリンに日舞に、書道に……華道もやらされたっけ」

「立派にお嬢様じゃない」

 彼女があまりにもいろいろとあげるので、僕は思わず笑ってしまった。

 公立出、といってもやっぱりやることはいろいろやっているんだもんね。あのメイドさんといい習い事といい、ちょっと庶民ではないと思う。

 貧乏人だとそんな習い事なんてやらせてもらえないと思うんだ。僕の小学生のクラスメイト達は、習い事というと珠算か書道のどちらかだったし、ピアノを習っていたのが女子で何人かってところ。学年が上がってくれば英会話だったり学習塾だったり、「実用的」と言われてる所にばっかりみんな集中するんだ。

 たぶんピアノとか華道とか美を意識するようなものは、一流にならないと意味がないからなんだろう。それができるのってある意味で余裕みたいなものだと思う。それも一つではなくて、習い事としていっぱいやるんだからホントにお嬢様ってことなんだ。

 え、一般人でもバンドに目覚めるって? それは、習い事っていうのとちょっと違う気がする。ああいうのって誰かに習ったりじゃないし、親に言われてやるものじゃないもんね。それどころか勉強の邪魔なんて言われて、止めろなんて言われてしまう。


「となっちは、そういう習い事とかって無かったの?」

「字だけは丁寧にかけーって言われたけど……」

 小さい頃の事を思い出すと、特にこれといって学校以外の所に出してもらった記憶というのは無かった。

 さすがに中学のころは受験の為に学習塾に行くかって親父に言われたんだけど、あれは見事に断ったんだよね。ほら、だってここら辺の生徒って同じような学習塾に通うわけで。そうなると塾に行ってまでいじめられるんだ。そんな所に行くよりも家で勉強していた方が断然効率がいい。


「あとは、家事を覚えるのに精一杯だったからなぁ……」

 そしてもう一点。うちは父子家庭だからね、子供ながらに仕事を終えてから家事をする親父のことを見ていられなかったんだよ。そんな習い事に行くくらいなら家でいろいろなことを覚えた方が良い。少しでも親父の助けになりたかったんだ。

「家事?」

「あ、うん。小さい頃からずっとやってるんだ」

 ちょっと言葉を濁したら、彼女はへぇーと驚いた。まぁそりゃね、これくらいの年の子が家の事を切り盛りしてるなんて滅多にないもんね。


「それなら……うーん、ちょっち恥ずかしいかも……」

 まいったなぁと彼女は頭を抑えた。うーん、別に人に作ってもらうご飯って僕はどんなものでも好きなんだけどなぁ。メイドさんもちゃんといるわけだから、いくらなんでもレシピを無視しまくったでろんでろんなものは出てこないと思うし。

「それでも、やっぱり明徳女子って調理実習とか……」

「あーないない。真に雅な連中はご飯なんて食べるだけでいいんだって」

 それもまたスゴイ理論だ。


「でもま、紅茶のレッスンだけはたしなみとか言うのでやってるけどね」

 ぶっちゃけ、こんなの習うもんじゃなくて好きな物をのみゃ良いだけじゃない、と彼女はため息をついた。自分の家でだけ飲むならたしかにそうだろうね。


「じゃあ、何をやってるんだろう……」

「まぁ、最低限の教養ってやつかな。お嬢様高校っていっても普通に勉強するしね」

 違いない。なんだかお嬢様学校というだけで偏見を抱いていたことを反省だ。そりゃ学生なんだから、ある程度カリキュラムは決まって居るんだし、他の学校とそう変わるわけもないはずだよね。


「あー、もしかしてとなっち、お嬢様学校ってきいて縦巻ロールの人達が優雅にテニスとかバレエしてる所を思い浮かべてない?」

 図星を指されて僕は頭を掻くことしかできなかった。

「でもさぁ、実際あんまり想像できないよ。住む世界違う感じするし」

 そう。明徳女子の女の子達を見ていると、だいたい『ハイソ』な感じで、一般人とどこか違うって感じなんだもの。鏡さんはちょっとタイプ違うけど、たぶんあの中じゃ浮いちゃってるんじゃないかな。ちなみにハイソってのはハイソサエティーの略で、上流階級の意味だ。


「ならさ、今度学園祭、来てみる? チケット五枚までもらえるって話だからさ」

 家族に配っても余るしね。と彼女は言った。

 そうだね。実際に行ってみるのが一番良いのかもしれない。一瞬オークションで売ったら借金が……とか思ったけど、それは人間としてやってはいけないと思ったので、すぐに棄却だ。


「それなら……うん。都合が合えば是非お願い」

 僕はちょっと考えてからそれでも肯いた。

 フォルトゥーナは土日のうちのどっちかが休みになるから、それこそ他のイベントと重ならない限りは行くことができるだろう。


「さてと、それじゃお茶のお代わり……いる?」

 そんな風に話をしていたら、アイスティーはほどなく空になって、カラリと音を立てた。

「うんっ」

 僕はもちろん、思い切り肯いて見せた。

鏡さんち、ちょっとハイソなおうちにしてみました。榊原家とはいろいろな意味でお金もちな感じで。広さ的には一般的なサイズの二倍くらいでしょうかね。女友達のおうちに招待されてそわそわする灯南くんが、ほんと初々しい。


とりあえず、盆踊りイベントまでは早めに更新したいところであります。



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