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012.休日とケーキ

 今日は久しぶりのお休みの日。

 週に二日しか休みがないのは学校に行ってる間はやっぱりきつかったけど、夏休みになってしまうとかなり時間に余裕ができてくる。やっぱり朝ゆっくりと寝てられる日があるってのは、すごい幸せなことだよね。


 部活をやってる人達は忙しくいろいろしてるけど、僕は帰宅部だから学校にいくということはない。時々ある講習会に顔を出さないといけないけど、今のところはこうやってぐったりとできている。なんというかこー仕事の絡みもあるし、ほとんど外出もしないで部屋に引きこもって生活しているから、さらにお肌が綺麗に透き通った感じ。外出の用事っていうのは、夏休みの最後のほうには入れてあるけど、原則としては家で勉強の毎日だ。


 宿題なんかももさもさでているし、そこそこ学校の成績だって維持しておかないと親父に心配されて、下手するとメイドをやめてくれ! なんていわれてしまう。あの親父だったらそれくらいのことはいうだろうし、今の倍仕事をしてでも借金を返すなんていうに違いない。


 メイドの仕事。最初はお金の為にやってたけど、実際やってみるといつのまにか必死に働いてる。いまさら、お金ができたから辞めて下さいなんていうのは、ちょっと勘弁だ。愛水さんはたんなる場つなぎって言ってたけど、僕としてはしばらくは続けていたいんだ。

 せめてメイドとして通用しなくなる時まではね。どうせあと何年もすれば、女装なんてできなくなるに決まってる。それまではあそこで、みんなと一緒に働いていたい。


 そんな風に自分に言い聞かせながら、僕はひたすら数学の問題集を眺めていた。

 カリカリカリ。

 こういうただ書くだけの単純作業は、何も考えなくて良いから頭の中が空っぽになっていい。でも難しい問題に当たると指が止まる。


 こんな問題、あいつならすぐにでも解いちゃうんだろうなぁ。


 そんな事を思いながら、お茶菓子に用意しておいたえびせんの破片を口の中に放り込む。

 いちおーつい先日にお給料が出たので、これくらいなら買う余裕はある。やっぱりこー頭を使ってるとどんどんお腹が空くから、こういうのがないとやっぱりだめ。


 カリカリカリカリ。

 ほんのりした海老の香りが口いっぱいに広がっておいしい。うん。やっぱり食べ物っていうのは人間にとって、すごい大切なものなんだと思う。エンゲル係数が高いと駄目な家って思われるけど、やっぱりできるだけご飯は充実させたいよね。


 おいしいものを作れる人はやっぱりすごい。戸月くんも、巧巳も。

 お客さんは紅茶も美味しいって褒めてくれるけど、それはお茶っ葉が良いだけの話だ。お茶の見立てはだいたい千絵里オーナーがやっていて、その週に使う茶葉を入荷してくれている。その時には紅茶の特徴とか選び方とか、状態とかの一口メモみたいなのが二、三十口はいってたりするから、いちおーなんとか覚えようとしてるけど、自分でお茶屋さんにいって買い付けすることなんてまずできない。家用にあるお茶もティーパックのだけ。紅茶のセットなんてうちにはもともとないし、買い集めるだけの余裕もない。


 でも道具とかもお金に余裕ができたら買ってみようかなぁって最近は思うようになったんだ。やっぱり紅茶の香りってかなり好きだし、お店で働くようになってからもっともっと大好きになった。疲れて帰ってくる親父に、一杯おいしいのを呑ませてあげられるとなぁって思ったりもするし。やっぱり美味しい紅茶ってのは嬉しい。とうぜん、美味しい緑茶も嬉しい。


 そんなことを考えながら、口の中と机の上でカリカリ言わせていると、突然チャイムが鳴った。誰か来たみたいだ。

 まぁ、きっと郵便か何かだろう。そう思ってそのまま扉を開けると、そこには一人の青年の姿があった。




「よぉ、となー、一緒に宿題やろーぜ」

「お店……は?」

 突然の訪問に驚いて、思わずこの前フォルトゥーナでした反応と同じになりそうなのをなんとか堪えて、僕は彼を招き入れた。僕は灯南。音泉の事なんて知らない。だから、メイド服姿だって巧巳には見られていないし、何も問題ない。よしっ。


「休みだよ休み。よーやくこの前、新作のケーキ完成させたから、遊んできて良いってさ。まぁ、遊ぶっていっても特にやることもないから、おまえんとこきたってわけ」

 ほい、おみやげ、と言いながら、彼はぽんと大きめのケーキの箱を渡してくれた。けっこうずっしりとくる重さで、たっぷり中にケーキが入ってることが予想できる。


「とりあえず、中にどうぞ」

 ケーキを持ちながら、にこにこ顔で居間につれてくると、ちらかりっぱなしのテーブルをそそくさ片づけながら座らせる。うちは基本的に和室が多いので、テーブルと椅子ではなく、座布団と低いテーブルのセットだ。てきぱきお客さんの世話をするのは、メイドをやってて癖になってしまった。

 とりあえずケーキがもらえただけで、今の僕はご満悦である。はっきりいってどんなことよりもこのケーキを食べられるというのが嬉しい。


「えと……ケーキはまだしまっといていいかな?」

「え……いや、俺は別に……おみやげだしなぁ」

「えーだって、勉強会でしょ? だったら、終わったら後で一緒に食べようよー」

 僕はかってに冷蔵庫にケーキをしまいながら、ひょっこり首を後ろに曲げて問い掛けた。

 今の時間が十時だから、お昼を挟んで三時くらいにお茶会ってのもいいかもしれない。もちろん、さっき言ったとおりにうちにはティーパックしかないけど、それでも別にお茶会はできる。仕事が終わったご褒美みたいな感じだったら、勉強ももうはりきれちゃうしね。


「いや、でも、その前に昼飯あるじゃねーか」

「ああ、お昼ご飯、簡単なので良いなら用意するけど」

「へぇーお前料理できるんだ……」

「ちっちゃい頃から、ご飯作ってるからねー」

 自慢じゃないけどこれでも家事全般ならやれる自信はある。そりゃぁ、天才パティシエの巧巳みたいに豪華なデザートとかは無理だし、戸月くんみたいなプロのご飯と比べられるとそりゃぁ、見るも無惨だけども……でもね、とりあえず食べられるものは作れる。


「おまえんち、父子家庭だったっけか……」

「そーだよー、まぁ親父に愛想つかして、母さんは出てっちゃったってだけなんだけどさ」

 小学生になった頃、なんで母親がいないのかを尋ねたら、親父は少ししょんぼりしながらその事を語って聞かせてくれた。そりゃまぁ、あれだけ人が良い親父が身内では、なかなかしんどいもんがあるだろう。その優しさに惚れてその優しさに耐えきれなくて離婚する、なんてよくあるパターンだと思う。


「にしても、写真とかなーんもねーのな」

「そうなんだよね……記憶も全然のこってないし、親父に言っても一枚も残ってないっていうんだよ」

 昨日つくっておいた麦茶をコップにいれて、巧巳の前と自分の前に置くと、自分用の座布団の上にちょこんと座る。コップからカランといい音がなった。夏の風物詩という感じだ。


「まーでも、今はこーやってちゃんと生活できてるわけだから、問題ないない。むしろ母親のいない生活があたりまえだから、今更再婚されてもなんだかなーって感じしちゃうね。今のところ、親父も仕事だけでいっぱいいっぱいだろうから」

「ふぅん」

 彼は、さんきゅ、と言いながら、麦茶を飲み干した。暑い外から来たから喉が渇いていたんだろう。とりあえず無くなったコップには新しく麦茶をついでやる。ここらへんはちょこっとメイドとしてのお持てなしの気持ちってやつだ。


「まぁ、とにかく宿題を片づけちまおう」

「そだね」

 軽く額を拭うと、巧巳は持ってきたリュックサックから数学の問題集を取り出した。

 そんなこんなで僕達は突然勉強会に突入したのだった。




 ん~、と軽く伸びをすると、もう、時計の針は十二時をさしていた。

 二時間。たった二時間だけど、勉強会はすごくはかどった。


 やっぱりお互い時間があまりとれないからってのもあるんだろうけど、勉強会にありがちな、遊んでしまっていつのまにか時間だけが過ぎ去ってしまった、なんてことはなかった。やっぱりこう危機感みたいなものがあるせいだろうね。やるべき事は先にやっておかないと後が怖い。遊びに行くんだったら、夏も終わりの頃だろう。

 僕としては、ここで一気に終わってくれた方がありがたい。わざわざ家庭教師もどきの巧巳が来てくれたんだから、これを利用しない手はない。


「さてひと休憩としますかね。あ、そうだ、巧巳はなにか苦手なものってある?」

「おまえ……巧巳って……」

「えーだって、僕だけ名前で呼ばれてるのも変じゃない。それとも、タッくんとか、タクみんとか、タクろーとか、タクのしんとか、タクざえもんとか、呼ばれたい?」

「巧巳でイイデス……はい」

 勉強道具を片づけながら、少し巧巳で遊んでみる。僕だけトナーって呼ばれてるのに、巧巳だけ名字で呼ぶなんてちょっとどうかと思っていたし、この際いいだろう。なんか、仕事だと名前で呼び合うのが基本になってきちゃってるから、その影響もあるのかも。


「それで、苦手なものは?」

 肝心な内容の方を聞きそびれたので、ん? と言いながら問い掛けてみる。

 すると彼は、特に何もないと言ったので、これでめでたく料理開始である。

 適当に冷蔵庫の中に入ってるものをみつくろって、卵、ベーコン、長ネギ、と人参を取り出して、まな板の上に並べる。なるべく買わない、使わない、を鉄則にしているので、お給料が入っても冷蔵庫はすかすかである。


 材料をよく洗って、皮も剥かないでとりあえず全部をみじん切り。やっぱりこー確かに皮を剥いた方が美味しいんだろうけど、貧乏なのでそれもなし。ちょっとでも栄養を摂取しないと我が家はやばいもんね。その代わり電子レンジにいれて温めておく。その隙にはご飯と卵を混ぜ合わせる。プロの人とかはよく、卵とご飯を鍋の中でかき混ぜているけど、ちょっとそれは無理なので、うちは先にやっちゃう事の方が多い。この方が卵がご飯の粒に絡まって香ばしく仕上がるからね。


 塩と胡椒で味付けして、最後に軽く醤油を垂らす。

 ジュウという音と、香ばしい香り。うーん、やっぱり匂いってのは最高のごちそうだね。

 それをお皿にのせて、完成。あとは昨日の晩に作ったお吸い物を温めて、セットにする。まぁ、チャーハンというと中華スープが基本だろうけど、これもやっぱり経済的な事情で残り物があるのに新たに作る、なんてもったいないことはできない。


 軽く湯気が立ち上るところでガスをとめて、おわんにお玉で盛りつける。おわんは、お客さん用のやつだ。昔は結構親父が友達を家に連れてきたりしたので、結構ストックがあったりする。まぁ、さすがに最近は経済事情を考慮してか、呼ばなくなってくれたけど。


 親父の会社の同僚の人とか部下の人とかがくると、やっぱりすっごい気を使うんだよね。そりゃ、かわいがってはくれるし、大勢でご飯食べるのは楽しいけど、すさまじくいい子でいないといけないっていうか。身なりだってある程度きちんとしてないといけないし、ご飯にだって気を使うってわけ。変なものだしたら、親父の印象悪くなっちゃうもん。


「はーい、おまちどー」

 まだ湯気がたってるご飯をお盆にのせて、すでに片づいて綺麗になってるテーブルの上に並べる。

「おぉー、ちゃんと形になってる」

 巧巳はそれを見ながら、珍しく感嘆の声をあげた。


「あまりものでできるのっていったら、これくらいだったからね。夏っていったら、冷やし中華だろうけど、生憎麺を切らしててさ」

 巧巳が来るってわかってれば、もっとちゃんと材料を買っておくんだったなーって、ちょっと後悔している。ご飯の量も、ちょっとやばかったくらいだもの。買い出しを全部今日やる予定だったから、ほんともーなんにもない状態に近かったのだ。


「いやー手料理いただけるだけで、ありがたい」

 それでも彼は、いただきますといって、スプーンを手にとってくれた。

 元々お昼は外にでも、と思っていたらしい。いくら地方だ、とはいってもラーメン屋さんやら定食屋さんやらはあるし、勉強の気晴らしも兼ねて食べにいくって感じで。たぶんこっちの負担を考えてそう考えてたんだと思う。


 でもね。僕としては家でご飯を作る負担よりも経済的負担の方がやっぱり強烈なのです。そりゃ僕だってお給料出たばっかりだから行けないこともなかったけど、まぁ家で食べられるのならその方が嬉しい。まだまだ油断は禁物なんだから。


 かちゃり。巧巳のスプーンがつやつやのご飯をすくった。

 やっぱり、最初の一口っていうのは、ドキドキする。親父の味覚だったらだいたい把握してるけど、巧巳がどんなものを好きかなんて、ぜんぜん知らないからね。

 軽く息を吹きかけて冷ましてから、巧巳はご飯を口にいれた。軽く咀嚼して喉を通る。

 あーもう、生唾が……


「うん、うまいうまい」

 その一言だけで、僕はほっと息を吐いた。よかったー。もーね、心臓とびでそうで身体に悪いよ。もう。

 それを聞いて満足しながら、僕もスプーンを手に取った。やっぱり温かいうちにご飯は食べるべきだしね。でもそんな僕を見てか見ずか、巧巳はご飯を食べながらとんでもないことを言いやがったのである。


「おまえ、いい嫁さんになりそうだなー」

「お嫁だなんてそんな……って、そんなわけないでしょー!」

 ちょっと、頬を染める演技をしながら、思い切りつっこみをいれた。まったく男の僕はお嫁さんになんていかないっての。そりゃね、かわいいお嫁さんとか娶る姿なんて想像できないけど、そんなもん高校生くらいで想像なんて普通できないと思うよ。


「いやいや、言葉のあやってやつだ。俺、ケーキは作れるんだけど、それ以外の料理ってできなくてさ。だからちゃんと同い年でご飯とか作れるヤツってすごいなーって思っただけ」

「へぇ、そうなんだ?」

 僕は意外といった風で聞き返した。やっぱりこーケーキ職人なんだから他のご飯とかもそこそこできるだろうって思ってたんだけども。


「家事は全部お袋任せってやつだからなぁ。旅行にでも行かれるともー俺達てんやわんやだよ」

 あはは、と軽く笑う巧巳は、なぜかすごくかわいく見えた。

 家事ができる男がモテルっていうけど、やっぱりこう家事ができない男の人のほうが、ちょっと女としてはいいんじゃないかなーって、音泉思考では思ってみたりする。だって、夫婦ってできないことをお互いで補い合った方が結びつける感じするじゃない。それで片方が無くなってしまったら、半身を抉られるような感じがするかもしれないけど、お互いが完璧なら、いつだって離ればなれになれちゃうと思うんだ。


 えっ、最近の女の子は家事できないから、それで家事ができる男がもてるって……あーそうなのかもね。それで、女の子はばりばり外で働く……か。すごいなーもーちょー男女逆転だなー。でも、やっぱ、僕としては女の子のほうに家事ができて欲しいと思うんだよね。主夫よりも主婦のがなんか可愛いじゃない。えっ、それって男の願望丸出し? おぉ、僕もしかして、今立派に男の子思想? おぉ、なんかちょっと感動だ。


「旅行かぁ……僕、旅行とかって全然したことないんだよね……せいぜい街にでかけて買い物するとかそれくらいでさ」

 親父は社員旅行の幹事を押しつけられて旅立ったりしてるけど、家族旅行みたいなものってした記憶がないんだよね。唯一遠出したのは、中学校の林間学校とか修学旅行とかだろうか。あれはもう、いま思い出すだけで、かなり思い出したくない感じになる。やっぱり旅行なんていうのは大好きな誰かといくもんだなってすごい思ったんだ。


「もしよかったら、今度海にでも行かないか? 山でもいいけど」

「んーそうだなぁ。家計簿見直して余裕があったらね」

 僕は曖昧に言葉を濁して答えた。巧巳と一緒に遊びに行くのはちょっと面白そうだけど、でもやっぱり今は無理だと思う。そりゃね、フォルトゥーナの初のお給料はすごい良かった。時給1200円からってのがすごいすさまじい破壊力で、ちょっと高校生が稼ぐ額じゃないだろうってくらいお給料が入ったんだけど、それでもちょっと旅行は無理だと思う。学費がだいたい月五万くらい。これは楽々クリアできてて、生活の向上の為のお金として一万を使ってもまだ、お釣りはくるくらいの収入がある。でもね……


 衣類がね……結構かかるんですよ。それも、女物の服がね。

 ちょっと、なんでって思うかもしれないけど、仕事をする上での必要経費みたいなもんだ。お店の中で着てるメイド服は制服だから問題ないんだけど、夏はどうしたって、課外活動が多いからいけない。そう、千絵里オーナーから、メイド喫茶を観察する日ってのを用意されてしまったのだ。一緒に行くのは新人のボクを含めた三人。


 いわゆる社員研修の一環みたいなものらしくて、昔、り~なちゃんや、瑠璃さんもやったらしい。愛水さんはレポート書くのいやだぁってぼやいてたけど、メイド喫茶でご奉仕されることにはかなり興味があるらしい。渚凪さんは、女三人で遊びに行けるってのがなんか楽しそうだった。


 で、課外活動となると、やっぱり女物の服が必要になってくるってわけ。メイド服で町中を歩くわけにはいかないし、男物の服を着るわけにもいかない。まぁ、普段お店に入るときの恰好でもいいんだろうけど、ずっと一緒にいてその姿をまじまじと見られたら男物ってのもわかっちゃうだろうし。そーなるといろいろと疑われてしまいそうなのだ。


 また下着類なんかだって、ちゃんとしないといけない。いくら胸がないからって、ブラくらいつけなきゃだめっ、て茜さんにも叱られた。

 それで、女物の服って、一気にそろえるとやっぱりお金かかるんだ。こ、こんな薄い布きれ一枚でこの値段ですか!? とか、いろいろびびることが多かったし、やっぱり女の子はお金がかかる。あとは、実際街に行くときの費用も考慮しないといけないから、いくらかは残しておかないといけないし、それを考えると旅行ってのはちょっときつい。


「あーもちろん日帰りだぞ。場所もそんなに遠くないところ。予算は一万程度で」

 どうせ行くんだから、うまいもん食いたいしな、と申し訳なさそうに彼は予算を提示してきた。んー心が揺れる。一万くらいだったらなんとかなるっちゃなる。下旬になればお給料も入るし、ホントに夏の最後の最後なら……

「そうだなぁ、夏の最後の日曜日なら、なんとかなるかな。そっちのスケジュールはどうなの?」

「朝ちゃんと仕事すれば、なんとかなるだろ。お店のほうは親父に任せればいいし」

 たまには休暇がないと、こっちもやってらんねぇって、と言いながら彼は笑った。


 よしっ、きめた。ボクもその日は絶対休みを取ろう。

 そんなふうに決心したとき、一時を告げる鐘が鳴った。

「さてと、じゃーお昼はこれくらいにして、午後の部に入ろうか」

 カチャリ。食器を台所に持っていって水につけると、僕達は再びノートを開いた。

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