プロローグ
最初に言っておこう。
これは競馬、それも障害競馬携わる人達の話であって、
世界を救うヒーローや悲劇のヒロインなどは一切出て来ない。
劇的な結末、怒涛の展開、あっと驚くどんでん返しを期待しているのなら、先に謝っておこう。すいません。
この話は普通の、いや普通より若干人として何が欠落した人達の物語。
何か特別な力を持っているわけでもなく、どこにでもいるような平々凡々な、大人に成りきれない大人達の話。
そんな話が面白いわけがあるか?
ごもっとも。
そんな人達の日常をくり抜いたところで、何かあるわけでもないし、起こることもない。
凄まじくつまらないものだ。
しかし、人間ドラマというものは。
何か切っ掛けさえあれば、どんなところにでも起こりうるものであり、起せるものなのだ。
それが例え小さなドラマだとしても、本人達にとってはかけがえのないものにはちがいないだろう。そしてそれは、どれだけ金を積まれたとして、売ることのできない、買うことのできない財産になる。
自分だけの価値になる。
そういう意味では今から出てくる登場人物達は、幸せものだろう。本人達がどう思っているかはわからないが。
さて、余談はここまでにしておこう。何せ語り手である俺には少々時間がない。
理由は追々はなすとしよう。話を端折るつもりはないが、横道に逸れると長くなる性分なので。
オホンっ。
そう、あれは夏の新潟競馬が始まったあたりのこと。
一人のベテラン厩務員(競走馬の飼育をする職業の人)が亡くなった。
そして、それがきっかけで小さなドラマが生まれることになる。
話は遡ること5日前ーーー。