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神卵 ― 神様転生のはじまり ―    作者: 万代 やお
第3律 星々をなおすもの
55/55

49 ニャモンタの神様

「地面を軽く撫でただけで、あんな大穴を。武器だな。アレは武器だな! そうであろう」


 目を点にしていた女騎士アールマティははっと思考を取り戻し、そう叫んだ。


「あわあわあわあわ……武器なんですね。ぶらぶらは武器なんですね」


 ルオンが真っ赤になり頷いた。隣ではマーシャがえ”~~~~という表情をしていた。


「あのな。ちょっと頼みたいことがあるんだ」


 シュランと原住民との対話は続いていた。

 もちろんシュランからの一方通行の対話であり、原住民の反応はいまだない。

 原住民達は混乱に陥っていた。そのうち、原住民の一人がこの現状に耐えきれず暴走した。


「うわあああ!」


 叫び声をあげ、鉄棒を振り上げると、シュランに襲い掛かる。


「ヤめぬか!」


 と赤の部族長らしき人物が呼び止めたのと、シュランが叫んだのは同時であった。


「待て! お前達はこんな丸腰な男に暴力を振るうのか!」


 シュランは丸腰――股間を光らせる変態。襲い掛からずにはいられない。


 襲い掛かってきた男の動きは神体であるシュランにとって、超スローモーションである。シュランは屈伸、上のツノをごりごり、背伸び、下のツノの位置を正しくなおす、ふうと溜息をするなどの一連の動作をしたあと、撃退する訳にはいかないので、体を反転して軽く躱した。


 しかし――


 またもや喜劇と悲劇が起こってしまった。服を着ないがゆえに、束縛されてない故に、シュランのイチモツは愉快なほど自由奔放なり。


 優しく。シュランのイチモツは聖母の愛のように優しく、襲い掛かってきた男の頬を、正しくは仮面であるが、そこを撫でた。ちょっとした接触。


 刹那、襲い掛かってきた男が恐ろしくぶっ飛んだ。


「しまった!」


 イチモツの威力が凄い。シュランは青ざめた。シュランは即座、時流速で飛ぶ。


 男が地面に叩きつけられる直前、出現したシュランが受けとめる。


「怪我はないよな……」


 シュランは男をそっとおろす。外傷がないか確かめていて、シュランはふと気づいた。


 場の雰囲気が変わっていた。原住民達が騒ぎ出す。


「信じられない。殴った相手を……受けとめたぞ!」

「違う! 殴っていない! でも、そんな訳が……俺は夢でもみているのか?」

「いや、そうだ! ニャモンタでなぐったぞ!」

「恐ろしい。心が壊れそうだ。わしは見間違いだと思っていた。この大穴はニャモンタが叩いたことでできたんだ! 他にも見たヤツがいるだろう!」


 ぞっとする事実が仮面の部族達に浸透していく。


「ニャモンタ……」


 部族の一人がその一言を発したのを合図に、理解できぬ恐怖が部族の皆に伝染していった。


「ニャンモンタ……ニャンモンタの怪物だ! うわわああああ!」

 

 仮面の部族達は鉄棒の投げ捨て、慌てて逃げ出していった。


「ちょっと待って! おい! 今のは事故だ! 逃げないでくれ! 怖くない! 俺、怖くない! 怖くないよ! 優しい全裸の男だよ!」


 シュランはぽつんと残されてしまい、えーという表情をしたあと、キツく己の股間を睨んだ。


「くそ! この暴れん坊め!」 


 シュランは下のツノを叱った。


「――貴方様はナニモノであられるか! 仮面なくともこの地で生きていられるのは、やはり天のモノであられるか」


 女性の声がした。

 赤の仮面と、その豪華さから推測すると赤の部族長のようだ。

 女性特有の体の線があり、服の隙間から所々に毛が覗いていた。


(なんかふさふさしている。ここの世界の住民はミャウ姉みたいな獣人なのかなー)


 シュランがぼんやりと思っていると、男性の声がきこえた。


「ここは水のセイチ。ムカシより空には壊れたアナルがあり、幾人もの神が目撃されている。その一神でおられるか?」


 青の部族長の男だった。こちらの男も服の間より毛が覗き見えた。

 シュランをあまりに巨大な存在と意識した赤と青の部族長。その鉄棒を持つ手はふるえ、互いに足も恐怖で震えていた。部族長という誇り、恐怖のあまり逃走したなどの醜態をライバル関係となる相手に見せられない意地があり、この二人は残っていった。


「え? 壊れたアナル? ずいぶん大きなものを踏ん張りだしちゃったんだな……食生活は気をつけないといけないよ」


 下品な言葉にシュランは顔をややしかめたが、すぐに思いついた。


(あ! そうか。俺の【翻訳会話】の事象が低いせいか。時々、言葉がカタコトに聞こえるし、『空には壊れた穴』という言葉が似た言葉で変換されちまっているんだ。マーシャがいたら、完璧に会話できそうだけど……面倒くさいからいいや)


 シュランの【翻訳会話】はランク1。テレパシー受信や発信機能の高い人物もおらず、シュランと仮面の部族との間では、言葉の誤解や齟齬が生じていた。


「俺は神じゃないよ。穴の修理屋みたいなものさ」


 シュランのその一言で、青と赤の部族長はぎょっと顔を見合わせた。


「俺はカミですよ。尻の穴の愛好家みたいなものさ」


 と部族長達には聞こえたのだ。


(自らを尻の穴の愛好家と名乗った。なんたる変態な神ぞ…)


 赤の部族長がお尻をきゅと引き締め、恐る恐る尋ねる。


「その愛好家のカミが、我々に何を頼む……やはり、その……アナルを望むのか?」


 シュランが口をひん曲げ身を引いて驚いた。


(なにいってんだ、こいつ! アナルを望むとか。変態すぎ。俺は断然、尻派だ。この女とは深い溝があるようだ……おっと、いかん。翻訳能力のせいか。これは誤訳。誤訳だ)


 シュランは誤訳だと流したが、ややこしいことに赤の部族長はしっかりと『アナル』と発言している。


「あの水甕を叩くのをやめてほしいんだよね」


 シュランは軽く言うと、青の部族長が声を張り上げた。


「カミよ。我らに死ねと申されるか! 水の守りがなければ、我らが亡びてしまうのはご存じであるはず。空には黒いアナルがあり、アナルから生じるオナラが我らの命を奪う」


 シュランは青の部族長の言葉にやや苦笑ぎみに呆れた。


(おいおい。命を奪うほどのオナラって、どれだけ臭いんだよ。俺のよりか? 俺が負けるのか? くやしぃ……って、違うな。オナラは別の意味ぽっいな。んーと、空間に穴が開いているから、命を奪うほどの臭い息? ガス? 瘴気みたいなものを発生させる異常が、この世界に起きている? もしかして、こいつらが仮面をかぶっているのって……)


 シュランは確認のため、その質問を何気なくぶつけてみた。


「ああ……そうだった。その仮面を被っているのもオナラから身を守るためだったね」

(やべー! うっかり、オナラっていっちまったぞ)


 シュランは焦ったが、赤の部族長が答えた。


「はい。この仮面は数時間だけでありますが、オナラより身を守ります」


 赤の部族長の真面目な回答に、シュランは片眉を大きくぴくりとさせた。


(オナラで通じてしまった……ガスマスク。そういうたぐいのものかな。ふむ。空間に穴が開いてしまったことで、特殊な世界が作られているみたいだ)


 シュランは納得し、用件を告げる。


「それでな。俺達は空のアナルを埋めにきた……」

(ぐはっ! 今度は、アナルっていっちまった。これじゃ、痔を治しにきた人。いや、神か。どんな神様よ! 威厳もへったくれもない!)


 シュランは上ツノを抱え、自分の迂闊さを呪った。


「おお! やはり、空のアナルを治しにきた神様であられたか! 確かに、貴方様は眩しすぎて直視できない。まさに威厳あるカミとお見受けする」


 青の部族長が歓喜の声をあげ、シュランの輝く股間に敬服した。


(あ。そう解釈されちゃうのね。これも、このナイスなドレスコードのおかけだな。もうこうなったら、神様の路線でいくか)


 シュランは両手を腰に当て、光る下ツノを天に向け、自信満々と叫んだ。


「その通り! 俺様エライ神様よ。俺は眩しすぎだろう! ぐははははっ! でな。正直、お前達の水甕を叩く音がうるさい! うるさすぎて、アナルを埋める作業が進まん! アナルは繊細なんだぞ。アナルは敏感なんだぞ。叩くのをやめろ!」


 青の部族長が咄嗟に答えた。


「そう、言われましても……簡単にはやめられませぬ」

「そうです。聖なる水甕の叩きは我らがこの地で生きるため、必要な儀式なのです」


 赤の部族長が追従したのを、シュランは手の平をひらひらして答える。


「解っている。解っている。叩くのを止めている間、俺がお前達を守ろうじゃないか。その水の守りをしてやろうというのだ」


 シュランはあえて口調を変えていった。


「そうして、頂ければありがたいことですが……」


 青の部族長は言いよどみ、赤の部族長と一緒に気まずそうな雰囲気をだした。その様子でシュランは気づいた。


「そうだな。突然、現れ、いきなり、こんな頼みをする俺を信用できないよな」

「決して、そのような……! 神を疑うなど……」


 赤の部族長が押し黙る。赤と青の部族長の態度は力の持った神の機嫌を損ねてはいけない怖れ、初対面のモノを信じられぬなど複雑な心境が絡みあっているのが伺えた。


「どうだろ? 俺の水の守りがきちんと作動するまで、一部族だけが、決められた時間だけ、水甕を叩く事にする。それを一日おきで、互いに繰り返すというのは?」


 時間と叩く量を決めてしまえば、津波の妨害も最小限にとどめられ、シュラン達の穴の修繕も効率よくできる。シュランはさりげなくそれを計算する。


「――信じられませぬ!」


 赤の部族長が声を荒立てた。


「そんなに俺が信用できないか?」


 ミャウがいたら、


「当たり前だよ! 股間を光らせて会話する大馬鹿を信じられるか!」


 とつっこんでくれたところであるが、あいにくおらず、また赤の部族長が信用できないのは別の人物であった。


「いいえ。貴方様のことではありませぬ。そこのウォーティの一族です! 夜陰に紛れ、水甕を叩くに決まっております!」

「なにをいうか! ミルの一族こそ、この水の豊穣期。必要以上の水ほしさに、約定を破り、水甕を叩くに決まっている! この強欲女が!」

「黙れ! この仮面の制約がなければ、お前達の部族を根絶やしにしてやるものを!」


 憎しみの声を張り上げ、赤の部族長ミルは鉄棒を強く握りしめ構えた。


「俺こそ、同じ思いだ。強欲なお前達の一族が滅んだら、なんと喜ばしいことか!」


 青の部族長ウォーティは怒気を散らし鉄棒を構え、赤の部族長ミルと対峙した。


「あー。仲が悪いのねー」


 シュランは一触即発しかぬ二人を傍観者のとぼけた感じで見届けると、


「お前達――」


 時流速でとんだ。

 あの肉食獣じみた笑みを口元に浮かべ――

 青と赤の部族長二人の背後に出現し、耳元で囁いた。


「「――俺をなめているのか?」」


 背筋から、背骨の芯まで重く響き渡る脅しの思念。

 前にいたシュランが突如――


 青の部族長の背後。

 赤の部族長の背後。


「きゃあああああ!」

「うわああああ!」


 シュランはそれぞれ同時に出現し、赤と青の部族長は叫び声を上げ、飛び逃げた。

 が、飛び逃げた先で、シュランがまた二人の背後に出現する。


「お前達の不正など――」


 シュランはあざ笑いの思念を飛ばす。


「ぎゃあああ!」


 部族長二人は再び叫び声をあげ、その場にへたり込み、尻餅をついた。シュランの時流速の動きは部族長達で捉えることは不可能であり、瞬間移動に等しく、二つに分身したように見えた。


「――俺が見逃す訳がない」


 シュランがにやりと笑う。部族長二人は完全に毒気をぬかれ、こくこくと頷くだけであった。やはり、この方は神なのだと部族長の二人は思い知った。


「それとも、最悪な手段をとろうか? この大穴を開けた一撃を、お前達の住む場所に喰らわせてやってもいいんだぞ」

「それだけはおやめを!」

「おやめください! お願いします!」


 放心状態に近い状態から一気に覚醒して、部族長二人は泣くように懇願した。


「これでわかっただろう。俺は譲歩しているのだ。お前達の存在を認めて、ここに生きているものを大事に思っているんだ」

「はい、はい、はいです!」


 部族長二人は必死に頷き返した。


「わかってくれれば、それでいい。まずは、お前達の住む場所に案内してもらいたいな。現状の水の守りを確認したいんだ」


 シュランはいつもの軽い調子に変え、いう。


「ところで、貴方様の御尊名を窺いたいのですが……」

「そうです。それに、何の神様でおられるか?」


 だいぶ、冷静さを取り戻した赤の部族長と青の部族長が素朴な疑問を尋ねてきた。


「名前? 名前はシュランだ。何のかみ――?」


 シュランは押し黙り考え込んだ。


(……何の神様なんて、俺にはないぞ。参ったな。かっこよく、なんか、いいのないかな……そういや、ここの奴ら、なんか叫んでいた。ニャン……そう、ニャンモンタの怪物! あの逃げ方からみて、きっと、凄い怖い存在を表現する言葉に違いない。よし、これでいこう!)


 考えをまとめると、シュランは痛快にいいきった。


「俺はシリウス星雲出身のシュラン。ニャンモンタの神様! 空の穴を治しにきた見習いの神様さ!」


(なっ―――――! ちんちんの神様だって――!)


 部族長二人は、その半生で最大に近く、生涯でもうこれ以上忘れることない精神的大衝撃を受けた。とんでもない神様が降臨されたのだ。


「俺はシリウスタウンのシュラン。ちんちんの神様! アナルマスターさ!」


 シュランはそういうことになった。

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